第20話
「…あれ?」
「どうしたの?」
「いや、術が使えない……」
ルタは確認するように両手を見つめた。
何かに集中しているようで、しばらくそのまま動かない。
「あー、多分魔力切れだな」
ようやく動いたルタは手を握ったり開いたりしながら頷いた。
その言葉を聞いて今朝の話を思い出した。
「生物食べてないから魔力が無くなったの?」
「そうだな」
「じゃあ急いで食べないと!」
ルタが死んでしまうのかと思って慌てて外に連れ出そうと手を引くが、当の本人は全く焦っていなかった。
「いや人間と違って死ぬことはないからそんなに慌てなくていいぞ。でも術が使えないと何かと不便だから今日の夜食べてくる」
「私も一緒に行く!」
「ダメだ。お前は家で大人しく寝てろ」
ルタはそう言うと私の頭を撫でてから食事の支度に取り掛かった。
術が使えないことにより火も起こせないらしく、今日はパンに野菜を挟んだものを出してくれた。
「これなーに?」
「これはサンドウィッチっていうんだ。野菜だけじゃなくて肉を挟んでも美味しいらしいな」
先程買った本を見ながら教えてくれる。
どうやら買った本の内の1冊は料理本らしい。
「それに色々書いてあるの?」
「そうだ。初心者向けの本を選んだけれど意外と種類が豊富だから良かったよ」
ルタが作ってくれるのも有り難いが、いつかは自分でも作れるようになりたい。
でもそんな思いも今はルタの食事に私を連れて行ってくれないことに対しての不満が大きい。
「…」
「なんでそんな尻尾を踏まれた猫みたいな顔してんだ?」
「そんな顔してない!」
サンドウィッチを齧りながら睨めば苦笑されるだけだ。
「…私が怒ってる理由分かる?」
「怒ってんのか?」
「…何だと思ったの?」
「寝ぐずり」
ルタの言葉に思わず脱力する。
なんだか急に馬鹿らしくなってきた。
確かに眠くなってきているから間違ってはいないのかもしれないけど、少なくとも私は赤ん坊ではない。
いや、長生きしているルタにとっては赤ん坊と大差ないのかもしれないけれどさ。
そういえばルタの年齢についての言及がうやむやになって終わっていた。
それを聞くのはまた今度でいいか、と思い、残りのサンドウィッチを口に放り込む。