第19話
「次はどこに行くの?」
「この後の予定はないけれど、どこか行きたいところあるか?」
「行きたいところではないんだけれど、髪の毛切ってほしい」
「短くするのか?」
「後ろはこのままでいいんだけれど、前髪が長すぎて視界が悪いの」
帽子を被っているせいでさらに視界を遮っている前髪を引っ張る。
元々売るために伸ばしていたがルタがいる限りお金に関しては心配しなくていいように感じた。
「確かに長いな」
「だからお願いしたい」
「分かった。じゃあ床屋に行くか」
「え、お金を払って髪を切ってもらうの!?」
思わず立ち止まってしまった私をルタは不思議そうに見つめてくる。
「そりゃそうだろ。金を払って客の要望に応えてもらうんだから」
「髪を売るんじゃなくて!?」
「普通の床屋は買い取りじゃないんだよ」
「…じゃあ切らなくていい」
お金を払って髪を切ってもらうなんて贅沢すぎる。
それなら多少邪魔でも伸ばし続けていた方がましだ。
そんな私を見かねたのかルタが立ち止まった私の手を再び引いた。
「分かった分かった。俺が切ってやるよ」
「本当に!?」
「文句言わないならな」
「言わない言わない」
「よし、じゃあ決まりだな。ハサミも買って帰るか」
「お金あるの?」
「今日か明日の夜にまた悪い貴族の所にお邪魔する予定だから安心しろ」
「全く安心できないね」
そんな会話をしながら色々なものが置いてある店に立ち寄りハサミを買ってきてくれた。
家に帰ると、早速髪を切る準備が始まった。
私はルタに指示されるまま椅子に座ると首に布を巻かれる。
「これで切るから動くなよ」
「うん」
そう言われてじっとしていればルタに苦笑される。
「目は閉じてくれ、やりにくい」
「あ、そうだよね」
慌てて目を閉じればルタがゆっくりと切り始めてくれた。
シャキ、シャキンという音だけが部屋に響く。
「こんなもんかな」
「終わった?」
「あぁ、目開けていいぞ」
ゆっくり開ければ常に視界に入っていた前髪はなく、今までよりも快適だった。
「世界広い」
「お前何言ってんだ?」
訝しげにこちらを見られるがこれは仕方がないと思う。
まさか前髪だけでここまで変わるとは思わなかった。
「ありがとう!」
「おう。じゃあ髪は処分していいか?」
「…本当に売らなくて大丈夫?」
「大丈夫だからそんなに心配するな」
じゃあ燃やすからな、と言いルタは指を鳴らす。
いつものように術を使うのかと思ったが何も起こらない。