第15話
「おはよう。やっと起きたな」
「お、おはようルタ…」
次の日、すでに起きて着替えたらしいルタに起こされた。
お礼を伝えようかと思って顔を見れば、怖い笑顔でこちらを見下ろしていたため思わず口をつぐんでしまった。
「どうしてそんな顔をしているの?」
「うん?昨日お前が寝たせいでこの家から出れなかったから外に生物食いに行けなかったんだよ。玄関を出ようとすればこの首輪が絞まるし」
コツコツと叩きながら説明してくれるが、丁寧に説明されるからこそ怖さが増している。
「ご、ごめんね。今から行ってくる?」
「いや、今日の夜行ってくるからその時まで起きていてくれ」
そう言ってルタは私が寝ていたベッドの縁に腰かけた。
軋んだ音をさせるベッドに、昨日のハンモックとは違うものに寝かされていたことに今更ながら気づいた。
「そういえばルタのベッドはどこにあるの?」
この部屋には私のベッドしかなく、ルタのベッドは見当たらなかった。
するとルタは先ほどの怒りも忘れたようにきょとんとした顔でこちらを見た。
「俺は吸血鬼だから術が使える時は寝なくても平気なんだよ。まぁ、今みたいに魔力が減っている時は眠くなるけどな」
そう言って欠伸をするルタを見て、吸血鬼について何も知らないことに気づいた。
しかし素直に聞いていいのか分からない。
もしかしたらセンシティブな話題なのかもしれない。
どうしようか悩んでいると、ルタは上半身を倒してベッドに仰向けになった。
息を吐く様子から疲れているように見える。
「……ルタ、やっぱり昨日から無理してない?」
「んー……たしかにちょっと動きすぎたかもな」
「……あの、もし嫌じゃなければ私の血をあげるよ」
「一昨日も言ったけれど、まずは太って健康的な体になってくれ。今のお前じゃ多分不味い」
たしかにそんなことを言われた。
謎にショックを受けたからよく覚えている。
「…あのさ、吸血鬼について聞いてもいい?」
「急にどうした?」
仰向けに寝転んだままこちらを見上げるルタの顔を覗き込むようにして聞くと、怪しむような表情をしていた。
「私、本当に何も知らなくて……吸血鬼のこととか教えて欲しいの」
「…俺の知ってることなんて限られてるぞ」
「それでも知りたいの」
真っ直ぐに見つめれば、諦めたように口を開いた。
「吸血鬼は他の生物の血肉を食うことで魔力を蓄えるんだ。人間よりも頑丈で長生きをするが、日光に当たると灰になって死ぬし、銀のナイフでできた傷は治せなくて刺されたら死ぬ。変な条件で簡単に死ぬようになっているから強いとは一概に言えないな」
「あれ、でも昨日は昼間に市場に行ったよね?」
「そうなんだよ。日光に少しでも当たるとやけどみたいになったり、爛れたりしたんだが今は何ともないんだよ。お前と契約したから何かに影響が出たのかもしれないな。」
「そんなことあるの?」
あまり詳しいことは分からないが、悪そうな影響ではなくて安心した。
しかし、吸血鬼は人間とはかけ離れた存在だとして捉えた方がいいのかもしれない。
「この首輪の性質を調べないと何とも言えないが多分そうだろ。あと吸血鬼について聞きたいことはあるか?」
「えっと……他にもいるの?その、仲間っていうか」
「吸血鬼は基本群れないんだ。だから同族はいても仲間はいないな。…っていうか、おい、ちょっとこっち向け」
質問に答えてもらって満足していると、突然ルタが私の顎を掴んだ。
そしてそのまままじまじと観察される。
「な、なに?」
「……お前の目の色って紫だったか?」
そんなことを聞かれても自分の目の色なんて覚えていない。
でも紫ではなかったような気がする。
「覚えていないけれど…多分違ったと思う」
「そうか。目は見えているよな?」
「うん。…もしかして色が変わったのは契約の影響かな。ルタが日光に当たれるようになったことと同じような感じで目の色が変わったのかも」
「その可能性は無くはないな。実際、俺の目の色は紫だし。お前の日光に当たることができるという特性が俺に共有されて、俺の目の色がお前に共有された可能性があるな」
ルタの言う通りなら、私たちは契約によってお互いに影響を与えている可能性が出てきた。