第13話
店を出てすぐに帽子を受け取る。
「ここから被っておいた方がいいだろ」
「うん!」
髪の毛をまとめて帽子の中にしまい込んでおく。
これで長さも色も気にしなくてよくなった。
「次は何を買いに行くの?」
「そうだな、あとは食材を買って帰るか」
「分かった」
手を繋いで歩き出す。
市場は時間帯の関係もあるのか先程よりも賑わいを増していた。
「あ、果物だ!美味しそう」
「林檎だな。果物は含まれている水分が多いんだ。食べたことあるだろ」
「う、うぅ……ない」
「マジで?」
「外側に置いてある物って、私みたいなのが近づく段階で警戒されるから盗りにくいんだよ」
「そうなのか。じゃあ買っていくか」
折角なら、と林檎だけでなく色んな食べ物も買っていく。
お肉は昨日の残りがあるらしく、買うものは果物と野菜がメインだった。
食材も買い終われば、両手は荷物で塞がってしまった。
「よし、買うだけ買ったから帰るか」
「もうおしまい?」
「これから何度も来る機会があるからな」
「そっか」
少し寂しい気持ちになったが、仕方がないと諦める。
荷物のせいで手は繋げないため、はぐれないように気を付けて歩く。
家に帰る途中、市場から離れた所で誰かに裾を引かれた。
振り返るとそこには私も小さな子どもがいた。
「食べ物、恵んでくれませんか」
「えっと…」
「お願いします」
「どうした?」
私が立ち止まったことに気づいたルタが引き返してきてくれた。
「この子がご飯欲しいって」
事情を説明すると、ルタは悩むように唸ってしまった。
「お前はどうしたい?」
「…私はあげたい」
自分も食べ物がなかった辛さは身をもって経験していた。
そして、この慈悲1つで命を繋げることもまた理解していた。
「だめかな?」
「お前があげたいと思うならいいんじゃないか」
許可を得たので持っていた袋の中から林檎を取り出して渡す。
すると、その子は泣きながら感謝を伝えてどこかへ去って行った。
「林檎で良かったのか?」
「林檎ならまだ買った分はあるし、パンとかよりも水分が多い食べ物の方がいいかなって」
「それもそうだな。にしても、あんな小さい子でも生きていくのは難しいんだな」
「売春も視野に入れないと生きていけないからね」
「そういうものなのか」
「うん。それが嫌だったら餓死するか病気になるか攫われて売られるかしかないよ」
「…厳しい世界だな」
「ここは特にね」
そんな話をしていればいつの間にか家に着いていた。
家を出た時にも見たが、この外見からではあの綺麗な内装は想像がつかない。
家に入り、テーブルに荷物を置くと気を張っていたのか床に座り込んでしまった。
「おい、大丈夫か!?」
「うん…多分疲れちゃっただけだと思う。市場に行ったの初めてだったから」
「そうか。じゃあ床じゃなくてせめて椅子に座って休め。ソファーも貰ってきたからそこで休むといいぞ」
増えた家具の中に大きな椅子があるからきっとそれのことを言っているのだろう。
座ってみると柔らかいクッションも置いてあり、心地がいい。
しかしお腹が空いてしまい眠るまでに至らない。
窓の外を見ると日がほとんど沈んでいるぐらいの時間だった。
「ルタ、ごめんね。お腹空いたんだけれど…」
「朝食べてないもんな。もう少し待てるか?食材悪くならないように凍らせちゃうから」
食材を凍らせながら器用にこちらを振り返ってくれたから頷いて大人しく待っておく。
手伝いたいが、前の暮らしの影響か体力が持たない。