最終話――終息――
あの後。
朱里の容体は急に、悪くなった。
無菌室に入れられ、瞳をきつく閉じたまま荒い呼吸を繰り返しているの姉の姿を、桃花はみつめる。
「おねえちゃん・・・。」
そういって心配げに眉をひそめた桃花に、母親は声をかける。
「ももちゃん。もう暗いから。・・・今日は帰ろう。ね。」
「・・・うん。」
そう言って母親と手をつなぎ、何度も何度も無菌室のほうを振り返りながら桃花は廊下を曲がった・・・。
「はあ、はあ・・・っ」
うっすらと開けた朱里の瞳には、白い天井が映る。
も、も・・・か・・・。
声に出したつもりだけど、それはただの空気となってひゅう、と音を立てる。
やだ・・・っ。まだ、死にたくない・・・っ。
怖いよぉ・・・!
桃花と、お父さんとお母さんと、まだ一緒にいたい!
あまりの息苦しさと死への怖さに、涙がこぼれる。
その様子を見た看護士は、無菌室に飛び込んで朱里の肩をさする。
「大丈夫だよ・・・。怖いね・・・。
ここにいるからね。朱里ちゃん、苦しいね・・・。」
今となっては、もう酸素マスクも意味がない。
そうして、夜が明けた・・・。
朱里は・・・。
亡くなった・・・。
うっすらと微笑んで・・・。
おねえちゃんを、わすれないで・・・。
朱里を看取った医師は、途切れ途切れのその言葉を、桃花に伝えた。
それが、朱里への最後の伝言。