星幽
崩壊点が生み出す非生命の敵性体「星幽」は崩壊点が崩壊点たる所以である。
特徴の一つとしてその存在の維持は生命活動によるものではなく例えるなら充電式の電池で動く電化製品である。何かしらの崩壊が発生することで充電し、崩壊点から供給されることでも充電される。更に負のエネルギーが実体を持った存在であるため内包するエネルギーを全て喪失するまで再生し、活動を継続する。明確な核は存在しないため純粋にダメージを与えることでしか基本的には倒すことが出来ない。
その上シンプルなフィジカルは生物のそれを遥かに凌駕する。驚異的なスピードとパワーとスタミナを併せ持つ星幽の戦闘力は非常に高い。多くの場合、並の兵器を以ってしても打ち破るのは困難を極める。
周辺領域の環境に極端に変化を与える存在を特異点といい、これだけでも歴史を変える影響力があるものの特異点のエネルギー量が増大していくと空間を変質させ異質な存在が発生し始める。これが崩壊点への発展と星幽の大まかな発生のメカニズムである。
無論手練れの冒険者が集まれば星幽は倒せない存在ではない。しかし崩壊点の影響が強くなればなるほど星幽の数も質も増し処理が追いつかなくなる。そして本当に倒すべき崩壊点は最終段階たる消失点へと到達する。
「人が…星幽に…?」
スピカが見せた生体基幹情報は人間のものではない、確かに星幽と見れるデータがそこにあった。しかしポラリスにだけ聞こえる声は確かに人間の声であり、ポラリスはその声から彼女を人間だと認識している。つまり導き出される結論は、
「マギウスクラスタなる代物は人間を星幽に変えるものである…ということか?…こんな代物なら政府が必死になって情報を秘匿するのも納得だな」
「ええ、それに被害者が彼女一人というわけでもないはずです。おそらくはもう既に駆逐された…もしくはどこかに捕獲されている人もいると思うのですが…心当たりになるようなところはないですか?」
「…可能性があるなら…防警局の特殊部隊も駐留している防衛壁内基地だろうか。星幽に限らず珍しいモンスターなどを捕獲した場合、同じ部署に搬入されているそうだ」
「そこに何かしらの手掛かりがある見てよさそうね」
「ああ、今の時間なら職員や警備も手薄だろう。今から潜入しよう」
ポラリスは立ち上がってギアデバイスを手に取る。それを見てスピカはポラリスのその手を掴んで止める。
「待って、今度は私が行くわ」
「お前は目を引くだろう?まだ俺の方が潜入には向いてる。だから外から援護してくれ」
ポラリスに指摘されて自分で思い当たる節があったスピカはしゅんとしながらすごすごと引き下がる。ポラリスはそのいじましい姿をみていたたまれずスピカの頭に手を乗せて優しく撫でる。
「お前に助けてもらう機会はこの後にもある。一度や二度の機会でそうくよくよするな。それにお前にはこれまでも何度も助けられているしな。だから援護を頼む」
「…わかりました」