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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
蒼穹の三騎士  編
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敗北と反撃

 時は遡り、任務が開始される前。


「アクルクスの失態はともかく、マグメルの失陥はアニムス結成して以来未曾有の事態だ。この敗北により、我々の威信は大きく傷つけられた。ははは、こればかりはどうしようもないね」


 ケラケラと戦友の失態を笑うのは宰相アクルクスに次ぐナンバースリーの地位にあると言っていい、アニムスの幹部(オフィサー)カノープス。

 現在イ・ラプセル天文台に所属しているソルジャーの中で、最古参のベテランであり、アクルクスとは政治的に対立するライバルでもある。


「弁明のしようも無い」


 彼の前で項垂れ、逆立った赤髪に謝意を主張させているレックスは素直に失態を詫びる。

 赦されてはいるが、それでも毎度頭を下げるのだ。


「レックス卿はあの状況から見事難民全員の避難を達成したのだから責められる謂れは無いと思うのだけれど、やはりソルジャーの見解は違うのかな?」


 高椅子に浅く腰掛けるイ・ラプセル天文台観測室長トレミーは隣の高椅子にしっかりと深く座り込む和服の青年の方を向く。

 黒髪黒目、民族衣装に身を包んだソルジャー・カナトは注目を集める中、堂々と私見を述べる。


「正直僕はトレミー室長と同じ見解です。マギウスがあそこまで高度な組織的行動をしてこられたら流石に敵わない。避難が完了するかどうかは賭けになっていたでしょう。そして、それはカノープス、あなたも同じお考えなのでしょう?」


 図星を当てられ、バツが悪くなったカノープスはぺろりと舌を出して誤魔化す。

 しかしそれでも彼はまだ重箱の隅をつつきたいようだ。


「戦術的には大きな痛手にはならなかったが、暗黒大陸への最前線であるマグメルの失陥は戦略的には痛手だ。その点、戦略的には特に意味はないが戦術的に大失敗したアクルクスとは大きな違いだ」

「まあ、生存者5人はちょーっと不味いですね。これは公表し辛い醜聞です」

「終わったことだ。放ってくれ」


 カナトにも短いが痛烈に批判されてアクルクスは頬を膨らませる。

 

「俺は今後の話する為にお前たちを集めたつもりだったのだがな。ここで討論でも執り行うか?」


 観測室のラウンジに立っていたポラリスに睨まれてカノープスも遂に閉口する。


「我々がマグメルを失陥した事で反ヴィクター同盟は危機的に揺らいでいる。今更責任は問わないのでこれからの働きで挽回することだ」


 カツカツとラウンジの中心を進んで定位置に座り込む。

 そしてポラリスと共にフリート、ケレス、ハルト、ルスカも入室し、これで今回の会議に参加する面子が全員揃った。


「これで全員揃っているな」

「陛下、クラウ卿の姿が見えませんが…」

「クラウは任務が佳境だそうだ。別に一人ぐらい欠けていても問題無いだろう」


 任務から帰ってきたばかりのカノープスだけが周囲を見回し、ポラリスから直接答えを受けて大人しく傾聴する。

 この場にはいない一人を除いて、七人のグランクラスソルジャーが集められた。

 

「お前達に集まって貰ったのは他でも無い、反撃作戦についてだ。トレミー、カナト、始めろ」

「了解しました」

「はっ」


 トレミーとカナトがすくっと立ち、二人でモニターの両脇に立つ。


「観測室で観測した、ヴィクターの行動予測はこの通りです」


 モニターに表示された立体マップに表示されたポイントから矢印が何本も表示される。

 

「マグメルを占領した部隊は、マグメルの統治を警察部隊と現地協力政府に任せ、進軍を続けると予測されます。これはシーカーからの確定情報です」

「僕が予想する作戦目標は二つ。一つは黄金大陸に橋頭堡を築くこと。ヴィクターは暗黒大陸戦線の悪路に苦戦しており、インフラの整った黄金大陸の方が攻め易いからだ。未だ中立を保っている勢力も多いからね。冒険者ギルドとか、列強各国とか」


 カナトの説明と同時に、地図上に問題になりそうなポイントが表示される。


「そしてもう一つが、星幽(アストラル)関連技術の調査だ。観測室及び技術局の報告によると、マギウスはどうも星幽(アストラル)に親和性を持っているようだ。易々と御せるとは思えないけれど、既に敗北している現状、パワーアップを指を咥えて見ているわけにはいかない。よって我々は反撃を与えてまずは膠着させる必要がある」


 いくつもの報告書も共に表示されてモニターもだいぶ賑やかになってきたところでポラリスが手を振って全て消していく。


「我々が反撃する理由はもう一つある。今回の敗北は反ヴィクター同盟の同胞を大きく失望させる結果となった。特に、三大エネルギーに干渉出来ない人々の多い列強の一部は既にヴィクターへ接触を開始している。このままでは我々の庇護下には無い神秘は危機的状況に陥るだろう」


 何か思い当たる節でもあるのか、カナトとルスカの二人は目を伏せた。


「我々は、明日を望む者の希望なのだ。いつか未来、漸減し滅びを迎えるまで、何人もの悪意に屈しる事は無いということを示さなくてはならない。よって、アニムスの威信をかけた反撃作戦を展開するのだ。カナト、作戦説明を」

「はっ。ではこちらをご覧ください。これは現在のヴィクター軍部隊と、その付近の特異点反応及び上陸作戦を行える場所になります。この図では部隊が展開出来る範囲に、上陸可能地点は一つだけ。そしてその手前には特異点反応が一つ存在します。我々はこの特異点をヴィクターにリークし、ここに進軍するよう誘導し、特異点を解決すると同時に部隊戦利を撃滅し、部隊運用を停止させるます。作戦概要は以上です」


 特異点の概要も同時にマップに表示される。

 かつて洋上プラットフォーム上に建造され、放棄された移動都市の追憶が再現された空間。

 強力なコアが、空間を維持しており、特異点が解決されると空間そのものが消滅するタイプの特異点だ。


「これは第一の反撃作戦であり、絶対に失敗は許されない。故に、今回は俺と共にケレス、ハルト、ルスカ、お前達が参加しろ」


 ポラリスに指名に驚いたのは当事者のハルトと、カノープスであった。


「何だ?言いたいことでもあるのか?」

「あ、いや。俺じゃないんだなーって」

「安心しろ、お前には第二作戦の中核を担って貰う予定だ。まだ情報が確定していないが、アクルクスとレックスもそこに加わる予定だ。作戦を自分達で立案してもいいぞ」

「ほぉーうお目が高い。ではこっちは俺に任せてポラリスは存分に暴れてきてくれ」


 とても上司と部下の関係ではない、長年の仲の二人が親しげな様子を見せて、会議は一時休憩に入る。

 

 全員が稀代の戦略家であり、戦術家であり、政治家であり、戦士であり、官僚であり、そして忠臣である。

 作戦の詳細は、より洗練され、そして彼らの反撃が始まるのだ。

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