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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
蒼穹の三騎士  編
80/130

オープニングアクト#3

 巻き上げられた瓦礫は最高到達点で停止し、号令を待つ。


「ルスカ!来てくれたんだね!」

「当たり前だぜ、ハルト!」


 ハルトはテンションが上がり、上ずった声で感激を示す。その反応にルスカも満更ではないようだ。

 魔導士ルスカは左手に魔導書を、そして右手には拳銃を持ち、半身に構える。


「さあまずは小手調べだ」


 魔導書のページが勝手にめくられある記録を示したページを開く。そして一人でに記載されている文字と挿絵が輝きだしてその光は魔導書を飛び出して拳銃に吸い込まれていく。

 ルスカが拳銃の引き金を引くとなんと銃弾は発射されなかった。

 しかしその代わりに巻き上げれられた瓦礫たちが銃弾の速度で一斉に飛んでいく。

 無数の銃弾の弾幕を食らってジャガーノートもたじろいで怯む。だが無理やりにも体を振り回してルスカに尻尾を叩きつける。

 地面が割れ、道路はヒビ割れては隆起する。

 地中に刺さっていた構造体は次々に頭を出して大地は波打つ。

 僅かな沈黙。

 しかしその沈黙はすぐに終わる。


「行くぞ」


 機動兵装ユニット「憧憬(ウネルマ)」を装着してエーテルの翼で飛翔するルスカが煙の中から現れ、右手に持った大型ビーム砲塔「サンスクリット」をジャガーノートの顔面に照射する。


「今だ!ハルト!」

「応!」


 ルスカがジャガーノートを怯ませている間に無理に腰を捻ったせいで無防備に晒した腹部にハルトが突撃する。

 先程まで持っていたエーテルブレードを廃棄して新たに漆黒の実体剣のブレードギア「至玄の聖剣(アーテル・カリヨン)」を出力してさらに剣に赤い赤い炎を纏わせる。剣の刀身は赤化してマグマのように揺れて波打っている模様が現れる。


「マグナチャージ!」


 そのまま剣をジャガーノートへと突き立てて剣に込めた炎を解き放つ。内側で爆発的に燃え上がり、圧力によって噴火の如き勢いで炎が噴き出し、ハルトは風に舞うように炎の勢いに乗って離脱する。

 大ダメージを受けたジャガーノートにさらなる追撃が入る。

 背中側から脇腹を一閃、斬りつけてそのまま離脱するのは先程メレフを救出したアマルテアだ。

 同じ実体験の聖剣(カリヨン)とは全く違う設計思想の細剣に水を纏わせて切れ味を上げている。さらに身体能力を強化することで目にも止まらぬスピードとアマルテアに欠けているパワーを補強している。

 一瞬で斬り抜けては目にも止まらぬ速さで姿を隠す。

 代わって攻撃するのはセラスだ。両手にサブマシンガン「コプト」を出力して急降下、フルオートで乱射して再び注意を上へと向けさせる。敵の選択肢を狭めて揺さぶり、そして敵の意識の外からの一撃で有利を取るのがルスカの十八番だ。

 上と下、前と後ろ、二択の選択肢をわざと交互に見せておけば()()|に来るという選択肢は意識から外れやすくなる。

 思考能力が低いのなら、尚更駆け引きには気が付かない。

 セラスへ反撃しようとジャガーノートが上へと向いた瞬間、その足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 中心から三つの円で構成され、一つ目と三つ目は時計回り、二つ目は反時計回りに回っている。

 5人の中で魔法が使えるのはルスカだけだ。つまりこの魔法陣を創り出しているのはルスカだ。


火炎旋風(ファイヤーウィール)!」


 ジャガーノートの足元の魔法陣が最大まで光って、さらに周囲の空気も巻き込んで巨大な火炎が渦巻いて立ち昇る。ルスカの発動した魔法によって発生した炎は舞っていた粉塵を吸い込んでさらに燃え盛り続ける。

 お互いに干渉できないため、5人が一斉に離脱して遠目に俯瞰できる位置で再集結する。

 集合地点に一番近かったルスカと機動力が一番高いハルトが一足先に集合した。


「これで大分ダメージ入ったかな」

「いんや、多分ほとんど足止めだね。こんだけリソースつぎ込んで足止めがやっとなんだから参っちゃうよ」

 

 やれやれとばかりに首を振るルスカにハルトは自分の剣を見つめる。

 ルスカはしっかりと大技を叩き込んだのだがハルトは何もうまいこといかなかったからだ。


「あんま思いつめんなよ。次は上手くやれるさ」

「ああ。分かってる。それで君の手札はどれだけ残ってるんだ?」

「火力系は元からあんまり置いてないからもう使い切ったよ。そもそも火力の担当は君にやってもらうつもりだったからほとんど置いてないしさ」

「すまない…」


 ハルトは自分の情けなさにさらに落ち込んでしまう。

 

「あんまり虐めないであげなさいよ」

「俺は別に変なこと言ってないのに…」


 遅れてやってきたアマルテアに詰められたルスカもまたしょげている中セラスとメレフもやっと到着した。


「なんで二人して項垂れてるのよ…」

「どうしたのだ?またアマルテアに悪口言われたのか?」


 連鎖する無理解の悲劇が繰り返されている間にもジャガーノートは足元の魔法陣を蹴り砕いて火炎旋風からようやく逃れていた。


「あ、不味い。全力で散開」


 ルスカはそう何事も無かったかのように行ってから一人飛翔して離脱する。アマルテアは空中に薄い水の幕を張って足場にして空を跳ねていく。

 セラスもルスカと同様に機動兵装ユニットの翼で飛んでいく。

 

「連れてってくれてもいいのに…」

「いいじゃない。私たちには自分の翼があるんだから」


 メレフはぐっと身をかがめて力を込めるとその背中から蝙蝠似たシルエットの黒い翼を生やし、はためかせると空へ悠々と歩み出した。


「しょうがないなあ」


 ハルトは振り向いたジャガーノートにぎろりと睨まれながら後頭部を掻いた。

 一人逃げ遅れたためロックオンされた形だがハルトは焦りもしない。


「竜装・黒竜(ファヴニール)!」


 自らの心臓へと拳を叩きつける。一際強く、空気さえ振動させるほど強い一度の拍動が、竜の炎を吹き出し、血を介して全身を巡る。炎は全身から燃え盛り、やがて固まって漆黒の鎧が身を包む。


「やっぱり友達の信頼には応えたい」


 真っすぐに突っ込んでくるジャガーノートの拳。

 ハルトは剣を弓を引くように引いて、真っすぐに突く。

 衝撃波が発生し足元は粉々に砕けるがハルトは宙に踏みとどまり、背中から生えた竜の翼で姿勢を支える。

 だがジャガーノートの勢いそのものはまだ残っている。慣性でハルトは後方へと押されていくが急激に減速させ、勢いを殺しきってから悠々と空を飛んで離脱する。


「無茶するなあ」


 その姿をジャガーノートの背後を取りながら眺めていたルスカはまだ無事に残っているビルの表面に巨大な魔法陣を無数に描く。

 一つ一つが独立して回転し、魔法が起動したことを示す。発動した魔法は大気中に溢れるエーテルとフューズのリソースをかき集め、フューズで増幅されたエーテルで弾丸を形成してマシンガンのように乱れ撃つ。

 最低限のリソースで最も効率よくダメージを稼ぐことが出来る魔法だからルスカは選択した。

 一発一発のダメージは少なくても、塵も積もれば山となる様にルスカは限界まで省エネのスタイルでジャガーノートにダメージを蓄積させることにしたようだ。

 戦法を変えたのはハルトやルスカだけではない。

 セラスは先程まではかなり距離をとって必要な時に援護に入るだけにとどめていたが、ルスカが加わったことで援護をそちらに任せてかなりジャガーノートに近づいて立ち回るように変わっていた。

 ビームランスを片手に近づいて、小突いては離れていく。やはりダメージを与えるよりも自分がダメージを受けないことを優先している。

 彼女と共にメレフも飛び回っては軽く斬りつけて離脱を繰り返す。メレフの翼はセラスの翼とは異なり自前の翼ということもあり飛行の自由度は高い。二人の少女が適切に回避できる距離を保ちながらジャガーノートへ少しづつ削る様にダメージを加えていくが、それでもジャガーノートは執拗にハルトムートを狙い飛んで、跳ねて、そして走って彼を追いかける。

 

「右フック、左ひっかき、右ストレート、左ケンカキック、しっぽ薙ぎ払い…」


 通信機でルスカに常に次の動きを教えてもらいながらハルトはひらりひらり、ひょいひょいと身軽に躱し、時には受けて、稀に反撃もするがジャガーノートに対してかなり受け身にならざるを得ない。

 その中でしっかりとダメージを与えているのはアマルテアだった。ルスカにバフを重ね掛けしてもらいながら空を蹴って暴れまわるジャガーノートを追いかけては死角の中でジャガーノートの肉を抉り、削ぎ取り、切り刻む。

 着実にダメージが蓄積してはいるがそれでも頑健極まるジャガーノートは小揺るぎもしない。

 ルスカは飛び回っては少しづつ自動制御の魔法陣を多角的に起動してはこまめに着地して仕込みをしては大きく飛んでチャージビームやグレネード砲を放ってダメージを取る。

 戦況は、完全にルスカの策に乗せられては踊っていく。

 徐々に包囲されていく戦況に焦りを感じたか、いつまでたっても捉えられないハルトに苛立ちを募らせたか、ジャガーノートの意識がハルトから突然外れた。


「あれ?僕を狙わなくなっちゃったよ」

「次は誰だ?」


 ハルトとルスカは視線がハルトから離れた瞬間に異変に気が付いた。

 ジャガーノートが不意に視界に収めた人影に襲い掛かる。


「うわぁ!こっちに来た!」

「逃げろ!メレフ!」


 ジャガーノートが低空飛行していたメレフに全力で走り追いかける。メレフも追い立てられるようにビルの合間合間を縫うように飛んで逃げるが最早ジャガーノートの障害にはならないどころかルスカが展開してた魔法の効果範囲から離れたり、仕込みの無い場所に迷い込んで行ってしまう。

 ルスカは血相を変えて全速力でジャガーノートを追う。手持ちの大型ビーム砲「サンスクリット」をチャージしていたエーテルリソースを全て空っぽになるまで撃ち尽くし、あろうことか空中で脱ぎ捨てて離脱する。

 

「うわああャアアアーーーーーーッ!」


 大木のような拳が徐々に迫りメレフは恐慌のあまり飛行もままならずに道路交通信号機に衝突して飛行姿勢が崩れてさらに減速してしまう。

 そんな腕に先程までルスカが使用していた機動武装ユニット「憧憬(ウネルマ)」が突撃、衝突して自爆攻撃を敢行し、衝撃波でビルが1棟倒れる。下腕が抉れ、千切れ跳び拳はあらぬ方向へと飛んで露と消える。

 

「メレフーーーー!」


 立ち昇る煙にメレフの姿が消える。全力で追いかけてきたハルトがジャガーノートのうなじに剣を突き立て、炎を流し込んでは内側で炸裂させ、そのまま背中を数撃切り刻んでは爆発させる。


「怖かった…!」


 煙の中から飛び出したメレフの姿にハルトは思わず胸を撫でおろす。

 

「おい、暴れるなよ」


 土煙の中から現れたのはメレフを肩に担いだまま箒型高速浮遊機(ソーサー)に乗って離脱するルスカだった。これ見よがしにジャガーノートの顔の傍を通り抜けてきた道を引き返す。

 ビルの影で一瞬ジャガーノートの視線を切った隙にメレフを投げ、こっそりと近づいてきていたセラスに預けて今度は自分でジャガーノートの意識を向けさせて追いかけさせる。


「ハルト、目標ポイントに回り込め。セラス、メレフを乗せたまま遠回りして攻撃地点に移動ポイントまで運べ。アマルテア、君は好きに動きなさい。大技を一発叩き込むぞ!」

「ハルト、了解!」

「セラス、「メレフ了解!」了解!」 

「アマルテア、了解」


 ルスカの号令で四人が一斉に動き始める。ジャガーノートが散々暴れては瓦礫を踏み鳴らして更地と化した広大な空間に入り、ルスカは蛇行し時間を作りながら目標地点へと確実に誘導していく。


「行くぞ!」


 ルスカが急減速からの急旋回でジャガーノートの首回りを回って四分の三周して視線を切って離脱。足元でトラップ型の魔法が発動して地面が瓦礫ごと液状化、ビル一棟に見劣りしないジャガーノートの質量では完全に足が沈んでしまい、身動きが取れなくなる。地面が液状化して沈むと共にルスカが仕込んでいた可燃性ガスが瓦礫の下から次々と瓦礫に押し出されて表出。


魔弾(マナ・バレット)火属性付与(ブレイズエンチャント)


 ルスカが箒の上で振り向きながら拳銃、いや魔法の弾丸を放つことに特化した魔装銃の引き金を引くと火属性魔法の弾丸が発射され、空気抵抗を受けずにまっすぐにジャガーノートへと向かって飛んでいき、可燃性ガスに引火して爆発する。

 爆煙がジャガーノートの視界を奪う。


「今だ、やれ」


 万が一の抵抗を防ぐためにまだ動かせる両腕をメレフとセラスが一時的に潰す。

 そして二人の姿を隠すためにルスカは再びジャガーノートの視界の中にわざと入り、あろうことか箒から跳躍して飛び立ち、今度は箒を自爆させて再び煙で姿を隠していく。


「さあ、御膳立てはしてやったぜ、マイ・フレンド?」

「後は任せてくれ!」


 煙の中で飛び上がるハルト。剣を弓のように弾いて握り締め、炎を腕から噴き出しては剣を中心に渦巻いていく。さらにその形状を中心の芯の炎と外側の炎の渦の間に空気の通り道を作り、ジェット気流を生み出して後方へと噴出する。

 さらに芯の炎を集約させ、その切っ先をジャガーノートへと向けて狙いを定める。

 ハルトが放つのは彼の必殺技(アーツ)の中でも最大級の破壊力を持つ一撃。


「マグナジェット・インパルス!」


 ジェット噴射の反作用を乗せた火炎の槍の一突き。一点に集中した熱量はジャガーノートを一瞬で貫通して消し飛ばす。

 あまりの破壊力に円柱状に大地を抉り、ハルトも反動で大きく後退する。


「渾身の一撃を叩き込んだぞ」


 空中で浮遊し制止するハルトの傍にアダムスキー円盤型小型浮遊機(ソーサー)が現れる。

 そしてそこへ丁度ルスカがきれいに着地する。


「まあ、これで3割ぐらいは削れてくれると嬉しいんだけどな」


 楽観視はしない二人の間を、か細いビームが下から上へと通り抜ける。


「そうは上手くいかないか」


 一瞬で体の空洞を再生して埋めたジャガーノートはあろうことか口腔内からビームを発射する能力を発現したらしい。その威力たるや二人の後方のビルが左右に真っ二つに切り分けられているほどだ。


「でもまあ、悪くは無かったんじゃない?」


 それでもルスカは合格点だと考えていた。

 なぜなら、彼らの目的は足止め、時間稼ぎだったからだ。


「悪いな、遅参してしまって」

「そうでもないかな?」

「別に僕は構わないよ」

「そうか、遅れた分は、これからの働きで取り戻すとしよう」


 二人と通信を繋げた人物。彼は更地の外周にまだ残っているビルの屋上にいた。

 その場で両手で吊り下げた大砲の如き巨大な銃からビームを一閃、ジャガーノートの後頭部へと見事狙撃を命中させる。


「チーム・ケレス、行くぞ」

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