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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
ニヴァリスの導き 編
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慈愛の光

 中央では何とかポラリスとスピカの二人を中心に星幽(アストラル)の大軍勢をしのぎ切っていたが、二人もかなり消耗し、兵士たちも増援がほとんどなかったため大半が脱落していた。


亡霊騎士(ダークナイト)…」


 それでもまだ脱落していなかったオリヴィアはより強力な星幽を前に心が折れ欠けてしまう。


「まだ終わってないぞ」


 撃破した星幽の数がスピカに並ぶエルザは少し息を切らしながらオリヴィアの背中を叩く。ここまで長時間二人は連携して星幽に対抗していたが、体力の差が響きつつあった。

 オリヴィアは肩で息をしながら槍を支えに立ち上がる。全身にエーテルを巡らせて、氷の鎧を強化する。かなり疲労は溜まっているが、まだ注意を惹きつける囮として戦うことはできる。しかしそれも確実に即座に撃破してくれるエルザが隣にいるからできることだ。


「無理はしなくていい。そろそろ退いて休んでもいい」


 ポラリスは背を向けたまま、オリヴィアを慮る。それは彼女を守る為必死に周囲をカバーする近衛兵にも休息を取らせることも考えての提言だ。

 もう数は脅威にならない。だからこちらも数を揃える必要は無くなったのだ。

 だがオリヴィアはまだ青く、浅慮であった。


「いえ、まだ行けます!」


 まだ走り回るのもやっとな姿でまだ強がるオリヴィアを諫めたのはポラリスでもエルザでもなかった。


「あのね。オリヴィアさん、ここで戦うのが全てではないの。私たちは、生きるために戦っているの。だからここで無理をする必要は無いの。だから下がりなさい、誰も怒らないから」


 スピカはポラリスと代わってオリヴィアに向き合う。フューズを介して視界を共有する二人はどちらかが敵を視界に捉えていれば射撃で支援したり、シキガミを操って戦線に穴を開けないようにすることが出来る。ポラリスが話している間も、スピカが代わりに戦っていたのだ。

 スピカの杖から曲がる光線を何本も放ってポラリスを援護しながらオリヴィアに向き合う。


「明日から、またあなたにもやるべきことがあるわ」

「わかりました」


 スピカに窘められてオリヴィアは渋々承諾する。だがそれでも本人が認めたこと、待ちかねていた者たちの動きは素早かった。


「失礼します!オリヴィア殿下!」

「ポラリス様、我々もオリヴィア殿下と共に退却致します!」

「この場はお任せ致します!」


 オリヴィアに付き従う近衛兵たちは日々研鑽し、その才はオリヴィアやヴルトのような公主一族には及ばないもののその技量は高い。その戦術眼も卓越しており、大型の星幽には部隊で対抗できても等身大とはいえ亡霊騎士の強さを推し量り、自分達では力不足であると犇々と感じていた。だが主君のオリヴィアが戦うと強情を張られては撤退するとはとても言えない。

 だから彼女自身が自分で撤退を選択することをずっと待っていたのだ。

 彼らの動きは早かった。二人がオリヴィアの両脇を固めて撤退させ、三人が殿を務め、一人はポラリスとスピカに頭を下げる。よくできた部下たちと共にオリヴィアは陣の内へと姿を見えなくする。


「エルザ、君ももういいんだぞ」

「私は、自分の身ぐらいは自分で守れる。それに今は、あなたの本気を見たいだけ」

「そうか、巻き込まれないよう離れていろ」


 エルザは素直に離れ、部下たちを下がらせて自分も遠巻きに見る。

 ポラリスとスピカは足止めを辞め、二人でようやく肩を並べて亡霊騎士と相対する。

 二人と対するは5人の亡霊騎士。

 3人の前衛と2人の後衛。攻守にバランスの良い陣形を組んでいる。かなりの知性を感じられる。

 ポラリスと何の相談も無くスピカは一歩後ろへ下がり、援護の態勢に入る。フューズによって経路(パス)が繋がっている今は念話(テレパシー)で指示をダイレクトに通しているためだ。


「(来ます!)」


 ()()()を知覚したスピカがポラリスに警告する。一瞬で剣を構えたポラリスは前衛の強襲へ備える。しかし亡霊騎士は賢しくも前衛を目隠しに後衛が曲射する。

 ポラリスは左手をかざしてバリアを展開して遠くで止める。前衛が詰めてくる隙を作らず、さらにスピカがその隙を突いて反撃を行う。右、上、左から曲線を描くビームを放って後衛を狙い撃つ。前衛二人が後衛のカバーに入った瞬間、ポラリスと亡霊騎士の前衛は1対1になる。

 刹那、亡霊騎士の盾に高速で突きを繰り出し、盾で弾かせる。亡霊騎士が右手に持つ槍を左手で掴み、反動で右膝を跳ね上げる。兜を下から跳ね上げられて体勢を崩したうえ、喉を晒した亡霊騎士に容赦なく左手を伸ばす。

 煌焔(フレア)を左手に纏い、さらに左手を内側からフューズを込めて強化し握り潰す。

 下あごまで一気に消し飛ばされては流石の亡霊騎士(ダークナイト)も実体を保てない。頭と体がそれぞれ霧散して影へと還る亡霊騎士には目もくれず、亡骸があるべき場所を一気に超えて、後衛を守りに入った前衛二名と、より早く組みあう。

 剣と盾を持つ二名はそれぞれ角度を付けながら斬りかかる。二人共シンプルな切り下ろしであり、ポラリスは右の剣を受け止めつつ右へと回避、盾に背を向けながら回転して裏へと回り、右の亡霊騎士をスクリーンにして左の亡霊騎士を引き剥がす。3人が密集して隙を晒す混戦に今度はスピカが左に大きく回りながら角度を付けて何本ものビームを時間差で放つ。ポラリスには亡霊騎士が盾になりつつ、亡霊騎士は身動きを封じて実質的に挟撃になる。

 後衛の亡霊騎士たちも黙って見ているわけにはいかず、スピカを狙い撃つ。スピカはひらりひらりと躱して戦況を俯瞰する。

 ポラリスとスピカという二人の強者は重力のように亡霊騎士たちを惹きつけている。本来左右に分散する亡霊騎士も幾らか中央に誘引される。

 多少無理をしても、確実に数を減らす方をポラリスは選んだ。

 盾に左手をかけてぐるりと大きく回り、剣に煌焔(フレア)を纏わせて前衛二人を叩き斬る。鎧を砕き、形ある靄から殻を奪い、外と内を分かつ境界を破壊すれば、虚数は世界に清算されて溶けていく。

 ポラリスとスピカが一度すれ違うまで翔けて、すぐに急ブレーキ。互いの背中を互いで守り、360度全方位の視界を確保する。

 集まって来たのは見えているだけでも30人程。左右でそれぞれリゲルとアトリアはいくらか対応してくれていて数は減っている。このぐらいなら対処は可能だ。


「いくぞ、全力でだ」

「ええ。援護は任せて!」


 ポラリスは全身にフューズを駆け巡らせると青空の髪が、瞳が、装備が星空瞬く紫へと染まる。まさに全力の色。その輝きは誰もが恐れ敬う威圧と、空気を変える重さと、全てを引き込むかのような深みを持ち、彼が手にする蒼穹の色の剣だけは不変なれど纏う輝きはさらに増して炎の如し燃え上がる。

 常に剣に煌焔(フレア)を纏わせ、出し惜しみはしないようだ。

 煌焔(フレア)の活躍は剣に限らない。足に纏えばその一歩は千里を駆け抜け、拳に纏えば万力の力を与え、翼と化せば空を我がものとできる。

 ポラリスは一歩で先手を取る。一瞬にして先程の後衛をしていた亡霊騎士(ダークナイト)を斬り抜ける。上半身と下半身に両断された二人はこの世から排除され、ポラリスは次々押し寄せる亡霊騎士と対峙する。

 第二陣は四人、前衛三人に後衛一人。前衛の中で盾持ちは一人だけでありしかも二番目に近い。一人目が盾持ちを先行させるために少し足を遅らせる。その一瞬を逃さずポラリスは胸の中央へと一突き、核を一撃で破壊されては実体を保てない。手際よく一人を倒して次に盾持ちを相手にする。

 しっかりと盾を構え、仲間を待つ構えだがポラリスは止まらずに突っ込み斬りかかる。X字に刻まれた剣閃は盾を溶断し、そのまま袈裟斬りにして盾持ちも正面から叩き斬る。

 残るは前衛と後衛が一人ずつ。

 ポラリスはノータイムで前衛を無視して後衛を狙う。代わりに後でチャージしていたフューズをスピカが一気に解き放ち、光に呑み込まれた前衛の亡霊騎士は光に溶けていく。

 後衛もまた自衛の為に暗弾を乱れ撃ち迎撃するもポラリスはバリアを展開して正面から押しきり、距離を詰めては再び力任せに叩き斬る。

 

「次だ」

「ええ」


 心にさざ波も起こさずポラリスは次の敵を見る。

 流石に亡霊騎士たちも次々と突出してくるわけにはいかずに足並みを揃えるために遠巻きに様子を見ている。

 今はポラリスに注意が向いているから、戦場に集結し続けているが、ポラリスから視線が外れてしまえば最悪体勢の整っていない防衛陣に突撃してしまう個体が現れる可能性がある。故にポラリスはより注意を惹きつける必要があるのだ。

 ここで採れる選択肢は二つ。ポラリスがより前に出て、先手を取る。あるいは遠距離に長けるスピカが中心の射撃戦に移行するかだ。

 前者であれば、もし敵が別れた時に対応しづらくなる。後者であれば、ポラリスに集中している注目がスピカに分けられ、この後の展開を想定しにくくなる。

 あるいは、先手を取ったうえで今後の展開を予想しやすくする、第三の選択肢か。


「スピカ、援護だ」


 ポラリスはより前に出ることにした。ポラリスが全力で戻れば間に合うし、何より一人二人程度ならエルザが十分に対応できる。3人以上は厳しいのでそれ以内に収める必要がある。

 

「了解」


 スピカが長杖をポラリスへと向け、収束させたエーテルの光をそのままポラリスへと放つ。それはこれまで敵を殲滅してきた破滅の光ではなく、ポラリスを想う慈愛の光。

 ポラリスの身体は今はエーテルで作られたグラフトボディであり、エーテルを強化するということは全身の身体能力を大きく引き上げるということだ。エーテルの操作において天賦の才を持つスピカによって強化されるということはその強さはさらに大きく引き上げられる。

 さらに自前でフューズを用いて強化されたポラリスの一歩は人智を超える。音を超えるのは容易く、そしてフューズで大気の影響を受けずに突き進む。大気の抵抗を受けないということはソニックブームも発生しない。 

 煌焔(フレア)の軌跡が残す光は何もない空中から始まり、亡霊騎士の鎧へと進んでいく。

 先手を取って突撃したことで一体、一撃で葬るがすぐに周りの亡霊騎士たちはポラリスに襲い掛かる。

 上手く二人から同時に受け太刀したはいいもののすぐに背後を取られ、簡単に囲まれる。


「(基本に忠実。ならば逆手に取るまでだ)」


 ポラリスは一歩体を引き、剣先を動かさずに剣を上へと持ち上げ、亡霊騎士の剣を持ち上げてから叩き落とす。

 亡霊騎士から一歩分距離を取っていただけ僅かに得た余裕というカードをためらわずに一気に切る。

 一息つく間もなく一歩で飛び上がり、左手から融合素(フューズ)弾丸(サイコ・バレット)を放ち、全員の動きを一度止め空まで追わせず地へ縫い付ける、空を蹴って視線を上へと引っ張り上げる。

 空からフューズを大地へと向けて大量に送り、足元から煌焔の剣を生やして足元を崩す。

 流石に全員を足止めはし切れていないため、数人は空まで追いすがり、地上からも何人かが射程攻撃でポラリスを狙う。

 ポラリスはスピカの視界から状況を認識。くるりと空中で一回転して左手から生やした煌炎の刃を叩きつけて突き放す。亡霊騎士の鎧を切るほどの切れ味は無いが衝撃は捨てきれない。

 更には空中で暗黒の矢や遠距離アーツをもろに喰らってポラリスは初めてダメージらしいダメージを受ける。

 少し距離を置いて着地し、姿勢を屈めていると、先程スピカから受け取っていた光が輝きを増し、ポラリスを回復させていく。

 強化、回復を同時にこなす、スピカの慈愛の光に支えられてポラリスは再び立ち上がる。

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