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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
ニヴァリスの導き 編
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呉越同舟

 ポラリスに斬られ、闇の躰を失い星幽(アストラル)が消滅していく。

 

「ノーザン兵全軍反転!防陣を敷け!ヴァンガード総員防空戦闘!クルーエルの者たちを守れ!」


 新たなる敵が現れても即座にポラリスは指示し、ある程度事情を聴いていたノーザン兵やヴァンガード達がすぐに戦闘態勢を取る。ポラリスの傍に控えていたオリヴィアとエルザが武器を取り、背中は任せろと言わんばかりにサムズアップする。

 スピカとカタリナが驚いて顔を上げると星幽が群れて空を覆い、山の稜線の向こうからもこちらへ押し寄せている姿が見える。

 そしていつの間にかバリアを展開して守るリゲルが傍に居る。


「カタリナ姫、既に貴国の事情については聞いている。我々は既に戦わずに済むよう話し合う準備が出来ている。だが今は、話し合うためにこの窮地を脱しなくてはならない。力を貸してはくれまいか?」


 力強く、語りかけられたカタリナは、差し伸べられた手を取り立ち上がる。


「ええ。共に!」


 彼女のとても短く端的な宣誓に意気消沈していたクルーエル兵達が一瞬にして奮いあがる。どれだけ彼女が兵士たちに愛されているかが伺える。


「スピカ、シーカー達を預ける。クルーエルの兵士で動けない者を治療せよ。カタリナ姫、動ける者だけでいい、左翼の助力を願いたい」

「任せて」

「ああ、クルーエルの勇猛さを見せてやる!」


 盛り上がる、戦場の熱に浮かされカタリナのテンションはついに最高潮になる。即座に飛び出し、走りながら兵士たちを引き連れて戦力がすぐに膨れ上がる。

 

「リゲル、クルーエル軍を援護せよ。アトリアはノーザン兵の多い右翼へ。治療したクルーエル兵はそちらに振り分けるからそのつもりで」

「「御意」」


 二人は一度膝立で一礼し、瞬時に現場へ向かう。全ての采配を終えたポラリスは翻って戦線の中央へ向かう。

 コート状の裾をはためかせ、風に乗って浮遊飛行する。陸戦の最前線に降り立つと同時に数度剣を振り、自ら露払いをし、名乗り代わりに斬撃をいくつか飛ばして前方を啓開する。

 ノーザンでは遥か彼方の過去から見ることのできない青空のような爽やかな頭髪をたなびかせ、高貴なる身分を示す紫衣の衣を純粋なる戦士の装備である蒼穹の衣へと換装する。身を包む装備は体にぴっちりとするように作られているが、外から見る分にはそう見えないぐらいには厚みがある。グラフトボディそのものが高い耐久性を持っているためあまり差は無いようにも思えるが、空気抵抗や可動域等刹那のやりとりを繰り返す接近戦において1ミリの差は文字通り生死を分かつには十分すぎる。

 常に全力で、そして万全を期す。ポラリスの恐ろしさを引き立てる一因である。

 狼の爪を掻い潜り密着してから斬り上げ、鷹の足を掴み引きずり下ろしては一突き。牛の猛進を空いた片手で抑えては袈裟斬りする。

 古今東西の獣を一人の剣士が鏖しにして進む。しかし星幽は幻想を殺す、強力無比なる災害。英雄でなければ、世界は救えない。

 彼が中央集団は最も兵力が少ない。エルザと彼女に最後の共闘を申し入れたクルーエル捕虜の義勇隊とオリヴィアとその護衛達だけであり、数の不利は否めない。

 数の不利はポラリスのシキガミがある程度補うがそれでもなお足りない。

 そんな数の不利を覆すべく、オリヴィアとエルザは誰よりも奮戦していた。


「無理をせず傷を負ったらすぐに後退して治療を受けてください!」


 彼女の得物は槍だ。ノーザン特有の晶材で作られた槍は透明度が高く透き通った見た目とは裏腹に強度も高い。エーテルの伝導性が高く、武器にエーテルを通わせることでより剛性が増し、威力も増大する。

 エーテルの励起や、属性の発現にも耐えられるため、アーツの連発すら可能とする強力な武器である。 

 この晶材は当然防具にも用いられており、やや重量こそ嵩むもその防御力は高く、衝撃を吸収することが出来ないので緩和するために裏地を綿状の繊維で厚くする必要があるほどだ。

 オリヴィアはこの晶材の武具にさらにエーテルを変化させた氷を纏わせ、槍で付けば敵を凍てつかせ、守れば攻撃を滑らせて躱す、攻防共に道具と能力を活かしたスタイルで戦う。

 敵の動きを鈍らせることで落ち着いて対処するとともに彼女の可憐な舞踏のようなステップは空に舞う霜さえも彼女を称える花吹雪と思わせるほど華麗である。

 だが星幽はげに恐ろしく強く。そんな彼女でも一度に相対できるのは中型一体まで。人よりわずかに大きな星幽を討ち取るのがやっとのことで10m近い大型の星幽には敵わない。

 彼女が星幽を片っ端から凍てつかせ、槍で貫き、薙ぎ、叩いて砕き割る。エーテルによって活性化された肉体は華奢でか細いが彼女の背は実に頼もしい。直営の兵達が彼女の指揮に瞬時に行動できるのは彼女の指揮が的確であることへの信頼よりも彼女の強さに奮い立つからである。 

 先述の通り、彼女を以てしても大型には抗えない。

 代わって大物を積極的に狩りにかかるのは共に中央戦線を支える女傑エルザだった。


「エルザ、ごめんなさい。お願い!」

「謝罪は不要だ」


 天を喰い貫く覇槍と万象から身を守る大盾を構え、後頭部が大きく伸びた紡錘型の兜をかぶり、灰色を基調とした鎧は腰部から大きく外へ広がりスカートを思わせる形状だ。

 大型の星幽が突撃し、エルザの掲げた覇槍が振り下ろされ、双方の渾身の一撃が激突する。


「覇槍よ!」


 黒き稲妻の如き衝撃が火花を散らし、覇槍が唸る。本来彼女が持っている力は竜を滅するための力。しかし今はその力を星幽へと向ける。

 なぜ竜滅士が滅竜を成すのか、それは人と竜を守るためだ。星幽は人にも竜にも害となる。故に彼女は竜滅の力を振るうことが出来るのだ。

 遠い遠い遥か遠い故郷の地から、流れてくるのは彼女が契約している竜の力。ナディアの世界において三大エネルギーのフューズ、エーテル、マナの内、物理的な経路(パス)を必要としないのはマナだけだ。

 マナ。魔力、魔素、呪力、呪素とも呼ばれるエネルギーは三大エネルギーの中で最もインフラに利用されていない。魔力の循環は自然には行われないからだ。生命体の活動に伴って発生し、そして消費によって失われる。自然に存在する全てのマナは植物や菌類等が放出しているか生命体の死骸から溢れたものでしかない。

 魔法の神髄は理屈を超越すること。基礎の理論化こそ行われているが実用的なレベルに至ると最早凡人には理解のできない領域に到達する。呪いにおいては物理的な距離よりも精神的な距離が重視される。

 命を促進し、増大させ、奇跡を成す。呪いとは消費されるものであり、エネルギー保存の法則は成立しない。物理的にその反応を観測することはできない。しかし魔法は物理を超越した現象を発現し、その属性もまた物理的な科学的な現象とは見た目こそ似ているが実態は全く別のものだ。

 何よりもマナとは、()()()()()()、そして()()()()()エネルギーなのだ。


「はぁぁぁぁぁぁぁああああああーーーーー!」


 覇槍に込められたマナが解き放たれる。爆発を伴い、衝撃波が放たれる。雪を大きく巻き上げ、上方へと抜けていく余剰エネルギーが火柱の如き奔流となり、その光景に周囲の兵達も奮い立つ。

 目の前の星幽に食らいつき、剣を突き立てる。誰も彼も連戦の末消耗品は使いつくしており、残る得物は魂の相棒ただ一つ。剣も失ったものは拳を突き立て、斃れた戦友の魂を狩りて戦い抜く。

 それでも彼らのところへたどり着く星幽はかなり絞られているのだ。

 彼らの前方。一人で星幽の大半を駆逐するのはやはりポラリスだ。

 グライドで急激に接近してから蒼穹の聖剣で急所を的確に破壊する事で大型星幽ですら一太刀で屠り、流れるように周囲の星幽を瞬く間に殲滅すれば大きく飛んで次の集団を襲撃する。

 無慈悲で冷徹な刃だけではなく、左手を空へ翳せば浮かべた光球から何人もの怪光線を放ち大地ごと抉り貫き薙ぎ払う。


「(まだ、足りない。これでは犠牲者が許容量を超えてしまう)」


 ポラリスは全力で戦いながら脳内で演算を続ける。今でこそ一時停戦、共闘戦線を組むことが出来ているが残念ながらそれは兵卒たちの意思をかなり無視した強行策だ。

 ただ、今は時間が無い。無理やりにでもどこかで帳尻を合わせなければ、もっと大きな歪みが発生し、決して修復のできない状況となる。そんな詰みを避けるために全力で動いているが、それでもギリギリだ。

 だからこそ、必要と不必要の境界線を引く。

 ポラリスは念話(テレパシー)で戦力を補充する。


『治療はもういい。来い、スピカ』

『…。…わかったわ』

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