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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
ニヴァリスの導き 編
32/130

雪の大地へ向かって

「後に崩壊点(コラプサー)雪花(ニヴァリス)』と呼ばれるようになった戦い。この戦いではポラリスはプラネッタを使うことのできない中で次々と現れる強敵を打ち破り絶凍の世界の謎に立ち向かっていったんだ」


 フリート・アルスノアは静かに茶を注いで差し出してくる。香しい香りと湯気のない温もりが自分の欲望を刺激する。

 手を伸ばせばすぐに手を取れる位置にある。しかしそれを手には取らなかった。否、取れなかった。

 

「おや、良く気付いたね。その紅茶は幻想だよ。本物はこっちさ」


 フリートはいたずらが失敗したがどこか嬉しそうに茶を横から持ってくる。

 今度こそ喉の渇きに良く効く茶を飲み干していく。


「さて、話を戻そうか。この事件の舞台となったのは広大な平原や丘陵の続く大地『ノーザンネビュラ』。かつては広大な農地が広がりギャラクシーでも『セントラルネビュラ』と並ぶ食料輸出地域だった。そんなノーザンを舞台に天文台勢力とゲヘナからやって来た遠征軍との戦いが始まる」


 フリートは仰々しく手を広げて叫ぶ。


「これはまだポラリスがアニムスという組織を立ち上げる前、クレイドルという国家を建てる前の物語さ」





 フリートとスピカが降り立つ丘陵から見下ろせばそこにはどこまでも降り積もる雪原が広がっていた。


「なるほどこれは、まさしく一面の銀世界」


 時を遡ること数時間前。イ・ラプセル天文台、観測室ブリーフィングルーム。

 集まっているのはポラリスとスピカ、アクルクス、ガニメデ、イオの他イ・ラプセル天文台所長にして時の天帝府宰相クルーシェ、イ・ラプセル天文台観測室長のトレミー。

 集合をかけたクルーシェが司会を執り行いブリーフィングが始まる。


「事の始まりは2週間前、突如として5千年分もの特異点反応が観測された。観測地点はノーザン・ネビュラ、ノーザン天文台。望遠観測では詳細が確認できなかった為シーカー部隊をソルジャー・リゲルに率いらせて現地に向かわせたところ現地での崩壊点現象を確認。即時に救援としてソルジャー・アトリアを派遣。その後詳細な報告が上がったことで崩壊点の規模を確認、これを解決できるのは私かお前さん達、ポラリスとスピカの二人だけという結論に達した。よってこの崩壊点には二人で向かってもらう」

「問題ない」

「私も異論ありません!」


 まだ青年とは言い切れない若さのポラリスがぶっきらぼうにいうのに追従するスピカ。その姿はエルノド・ノヴォの大人びた青年の姿よりいくらか若い。この時のポラリスの年齢は18歳になったばかり。で年度は同じだが誕生日が半年ほど遅いスピカはまだ17歳だ。

 無作法にも見えるが最低限の礼節を弁えた生意気な少年は勤勉にもしっかりと手元の予備資料を読み込みながらクルーシェの話は逃さず聞いている。


「うむ。まあ私が向かってもよいのだが…」


 クルーシェがアイコンタクトを送った先はアクルクス。未だ官職はグランクラスのソルジャーのみ。

 だがこの時はクルーシェの引退が近づいており、親衛隊総長及び天帝府宰相の地位を継承する時が近づいていた。

 同時にセントラルの統治を天帝府が執り行ってきたのが正式に国家組織の再生を行い、行政権を新国家に移行するという大事業の開始も意味する。

 つまりアクルクスとしては引き継ぎを何より優先したい時期なのだ。

 やめてくれ残ってくれと心の底から懇願する姿を心の壁を自ら開いてまで見せられてはクルーシェも撤退せざるを得ない。


「ま、一番の愛弟子にこうまで懇願されては無下に出来ん」

「行政権の移行は俺の訓令だ。それに今は出来得る限りネビュラ間の連携を取りたい」


 この時の世界情勢として、セントラルが解放された後、世界の対立軸に大きな変化が加わった。

 旧ギャラクシー勢力の心の拠り所たる天帝の復活。そして最高の科学力、生産力を誇るセントラルの参戦である。旧ギャラクシーの中枢に近しい地方軍閥、政財界を牛耳る貴族達はそれぞれ自治を行いながら反抗勢力や新興勢力との対立を深め、ついには千年戦争とも呼ばれる全面衝突に発展している。

 人口差、ギャラクシーの生産力、科学力を独占していたネビュラの大半を失い物量で少しずつ劣勢に向かいつつあったがセントラルはその差をそのままひっくり返すだけの勢力を持つ。

 結果そのままギャラクシーの後継として担ぎ上げられ、外交ノウハウのないセントラルは内政を充実させたいが外的圧力がそうさせてくれないというジレンマに陥っている。全ては天帝府に集約され、人員の効率的な配備などが行われていないこと、戦力の整理が行われていないためそもそもソルジャー個人単位でしか外部に派遣できないという致命的な弱点を抱えている。

 そのため天帝府からまずは内政と外交を分離させ、それぞれ独立して行動できるように改革を行う必要があるのだ。

 

「気にするな。外回りは俺が行く。それは天帝になって、最初に決めたことだ」

「やはりお前はそういうと思っていたよ。アクルクス、説明を」


 やはり未だベテランのクルーシェの中ではポラリスは生意気な小僧なのか態度はとても君主に向けたものではないがポラリスを含めこの場の誰もが気にも留めない。

 アクルクスも師と同様に特に格式高い敬語は使わない。


「では俺の方から説明させていただきます。えー元々ギャラクシー時代のノーザンは高低差が500m以内に収まるとても平坦な地形で風が良く吹き渡り気候は安定しており、一帯を流れる雪解け水、そしてネビュラの豊富な地力が揃う有数の穀倉地帯。その生産量はここセントラルやアヴァロン、アガルタと言った三大危険地帯をも凌ぎギャラクシーイチを誇っていました。しかしそこに初めて人員を派遣した際、驚愕の事実が発覚しました」


 アクルクスがアイコンタクトを送るとトレミーがさらにアイコンタクトを送るとガニメデがモニターに一枚の写真を映し出す。

 それはきっとノーザンの景色なのだろう。なぜなら景色の限り地平線の続く平原。しかしその景色は明らかに話とは違った。


「一面の銀世界…ですね」

「そう、スピカの言う通りノーザンは一面の銀世界だったんです」


 そう、とてもじゃないがとても穀物なんて育てられるような状態ではなかった。


「現地住民によるとこの雪は5000年前のギャラクシー崩壊直後から一日たりとも止むことなく降り続いているものの積雪量は一瞬たりとも変わることは無いそうです。そして雪を掘り起こすと地面はどこも焼け焦げたかのような焦土が広がっています。この特異な地形の真に驚愕するべき点はこの雪自体の特異点反応は崩壊点レベルには至っていないという点にあります」


 アクルクスは一呼吸おいてから簡潔に一言にまとめる。


「この異常事態より解決するべき災害が他に存在するということです。つまりこの地には解決するべき問題が二点あります」

「この雪に関して観測・解析結果が一つあります。それはプラネッタを封じる封印となっているということです」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「プラネッタとはなんだ?」


 聞きなれない単語を聞いてその場で再生を一時停止してフリートに問う。


「プラネッタとは星の子だけが使うことのできる道具だね。星の子の魂に本体を格納し、星の子は様々な恩恵を得ることができるんだ。身体能力の向上。フューズの保有量、作用量の増大。そして強力な一部のプラネッタは特別な力を与える。ポラリスのプラネッタ『ナディア』は空間を支配する力。スピカのプラネッタ『リヴラ』はいかなる妨害を受けずに干渉するという力がある。基本的にプラネッタは結晶型なんだがそういう特殊な能力を持つプラネッタには性質を象徴する形状をしており、それを模したレプリカをよりプラネッタの力を引き出すデバイスとして扱えるんだ。ポラリスの『約束の剣』やスピカの長杖がそうだね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「つまり雪の問題が解決するまではプラネッタが使えないってことですか?」

「うーん厳密には外にデバイスを出したりプラネッタの能力を使えないだけでプラネッタが底上げしてくれる基礎能力自体そのものは封じられてはいないとの見解が強いですがあまり正確に解析が進んでいるわけではありません。仔細が判明次第追加で情報を送信します」


 スピカは他に質問する頃が無く、ポラリスは何一つ気にも留めていないように傾聴したままだ。この様子を見てクルーシェが進行する。


「他に土地固有の敵対生命体について説明する…前に他に派遣する人員を紹介しておく。入れ!」


 クルーシェがそう叫ぶとイオがポラリス達が来た入口とは違う入口から20人がぞろぞろと入ってくる。


「こちらが今回派遣するヴァンガード2小隊20人だ。時間が長くなるから小隊長だけ挨拶!」


 号されて二人が揃って一歩前に出る。


「第一小隊小隊長メヌエット・デュランダル」

「第二小隊小隊長メティス」


 メヌエットは他のヴァンガード同様の制服にワンポイントで家紋があしらわれており、メティスは一人だけ真紅の制服に身を包んでいる。


「貴族と親衛隊か」

「そう、メヌエットはセントラル一の領主貴族デュランダル家の出自。メティスは君の親衛隊、すなわち私とアクルクスの部下だ」

「貴族閥と平民閥の対立…ですね」

「まあ、ヴァンガードの組織改編の一環でソルジャーとの連携を重視する方針なのだが、肝心のお前さんたちは勝手に一門で飛び回るんでな。今回ばかりは連れて行ってもらう。まぁ好きに使ってくれ」


 スピカがちらりとポラリスの方を向く。こればかりはポラリス自身の口から言わねばならない。


「わかった。力を貸せ」

「「「「「ハッ!」」」」」


 20人が揃って敬礼する。ヴァンガードはイ・ラプセルの対外戦力としての経験が圧倒的に足りない。尖兵の名の通りに彼らは突き進まねばならないから。



 その会議の翌日、ポラリス達は大規模転移装置でノーザンの地へ下り立った。


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