傀儡とエピローグ
「どうだった?」
特異点「傀儡」のアーカイブが終了してフリートはニコニコしながら感想を求めてくる。
ここは正直に答えるべきだろうか。
「ポラリスという男、本当に強いな。隙が無さすぎる」
「それは当然だ。何せ彼はこの時代で間違いなく最も強い人物だからね」
見ればわかる。シンプルに力押しで叩き斬る接近戦能力。フューズ、エーテル、マナの三導力を全てハイレベルで使いこなし、視界の果てまで消し飛ばす火力のアーツ、何よりも予備動作無し制限なしで発動する固有魔法。インチキで済まされるレベルではない。
不意をついてグラフトを破壊することは出来ても生身は有り余るフューズの影響で耐久力は比にならないはずだ。
心の蔵を貫かれても、きっと無事でいてしまうのだろう。
「でも僕が君にこのエピソードを勧めたのは別に強さじゃない。ポラリスが言っていた、『自分の身に余る力を使ってはならない』ということさ」
その言葉を聞いたときにドキンと心臓が跳ねるような衝撃を受けた。身に覚えはない。何せ記憶が無いのだ。
いや違う。記憶は無くてもこの身体が覚えているのだ。
「その反応は、図星かな。君の記憶が無くなったのは、ここにやってきたのは、きっと身に余る力を使ってしまったからなんだろうね」
自分のことは何もわからない。けれどここにいるべきではないという確信がある。何か、記憶を代償にしてでもやり遂げたい何かが。
「俺は、何も覚えていない。だからもっと教えてほしい、何か、俺のことを思い出させるような、何かを」
俺がなんとかそう言の葉を紡ぐと、フリートはたいそう喜んで幾万というアーカイブの山を一瞬で背後に築く。
「いいとも。では早速次のアーカイブを見るとしよう!」
これは自分を忘れた者が見る物語。|スターライト・メモリー《星光のような記憶》を見る物語。




