天上の都
天上の都と呼ばれるかつては栄華の限りを誇った都市。が、今は幻想を守護するセントラルを統一した国家『クレイドル』の首都としてかつての姿のままと言えどその中身は大分しぼんでしまっている。
重エーテル構造体で作られた摩天楼。近未来都市を遥かに超えた遠未来都市。
ポラリスの眼下に広がるのは幻想的な浮遊島の大自然。それは天上の都の真の姿。
世界の裏側に浮かぶ浮遊群島の中心に浮かぶ天文台の最上部、ソルジャーにだけ許されたラウンジのソファにポラリスとスピカは並んで沈み込んでいた。
「ご苦労様、ポラリス」
麦色の色彩を持つ少年、アクルクス。天帝府の宰相とイ・ラプセル天文台のグランソルジャーとアニムスのオフィサーという3つの重責を担うポラリスと同じ年の重鎮である。
「お茶をどうぞ」
そう言ってカップを手渡すのは天帝府塞宮の執事を務めるフリート…。
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「ちょっとまてぇ!」
思わず叫んでしまった。映像に移る人物はまさしく目の前に座るフリートその人。
「なんでお前がいるんだ!?」
「まあ、僕、長生きだし、ずっとイ・ラプセルを拠点にしてるからさ」
「何物なんだお前!」
「まぁそれはおいおい~」
フリートは話題を逸らすように映像を再生する。
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「うむ」
ポラリスはお茶を一口含んで一息つく。
「アクルクス、初めていいぞ」
「じゃあ報告会を始めるよ」
アクルクスは自分の隣に巨大モニターを浮かべてエルノド・ノヴォの情報を並べていく。
そこにはサイラスを始めゴジョウ、スーラ、ヴルカ、そしてガッシュの後継者となったザウスの写真が浮かんでいた。
まだ事件が解決してから一週間と経っていない。任務を終えてすぐにイ・ラプセルに帰還してすぐに報告書を書き上げて提出した後ポラリスとスピカは休息をとっていた。
そしてその間にポラリス達の裏で情報収集に専念していた天文台の観測者達の報告と合わせてアーカイブに収録する叙事の編纂を行っていた。それが終わったので宮殿で遊んでいたポラリスを呼び出したのだ。
「えーあの後色々中央官庁の中はごたごたしたし、色々揉めた(割とクーデターとか暴動直前まで行った)けどぎりぎりで何とかなって、ついに正攻法でマギウスクラスタの代替のエネルギー供給機関の建造に着手したよ」
「お前今大分情報を切り落としただろう」
「結果論だけど叙事としては重要じゃないところはカット。今回はいつもより情報量多いから後で自分で読んで」
ポラリスは目を細めて不満をあらわにするがアクルクスは流す。
「えーまあ別にエルノド・ノヴォの情報は重要じゃないから軽く流すだけだからね。犠牲者は…まぁゼロってわけにはいなかったね。結構初期にムーンストルムになってしまった人たちはそのまま殺されてしまったようだ。どうにも下手に戦力が整っていたのが仇となってしまってたようだ。だがヴルカが事態に気付いてサイラスに相談を持ち掛けていたようでね、それからは君が見た通り封印処置が行われていたから無事社会復帰の目途が立ったという報告も上がっているよ、よかったね」
ここまで一息に説明し切ったアクルクスはここで画面をガラッと変える。
「で、ここからが本題。マギウスクラスタについてだ。君が持ち帰った設計図をシュミレートした結果、これは元々完成していたものをわざと劣化させた物だということが分かった。まず間違いなく『マギウス』という存在を増やすためにこういう作りになっているんだろうね。動力源というのは副産物に過ぎないということだね。まあここらあたりは古代によく使われていたタービン発電とかでも一緒なんだけどさ」
ポラリスはとても分かりにくいが顔をしかめる。なぜかそれを見たアクルクスとフリートは満足気な顔をする。
「マギウス、それは魔力に似た未知のエネルギー『マギナ』を扱う者を指すようだ。だが多くの場合マギナへの適応が出来ずに肉体が変化、『ムーンストルム』へと変貌する。多くの場合は自我を失うがサイラス・クレイエルのように適応度が高いと自我を保てたりムーンストルムへの変身を使いこなすことができるようになるようだ。さらに適応できた者は人の姿のままマギナを使いこなせるようになるようだ。これを『ムーンレイジ』と呼称する。これらの情報はサイラス・クレイエルがダークナイト・サイファにも秘密裡に進めていたようだ。大分助かっている」
アクルクスはここでモニターの大半を消して最後に一つだけ映像から切り取った写真を写す。スピカのグラフトの視界から移ったサイファの姿。
「ダークナイト・サイファ。ダークナイトはそもそも基本自我を持たない。持っていても高度な知性は持たない。そもそもダークナイトは人の形をした星幽だからね。だけどこの個体は違う。マギウスクラスタというブレイクスルーをもたらし、政治を振り回す高度な知性を持つ。過去に数度しか例が無い。彼が言っていた『セレマ』という言葉が何を示すかはわからないが無関係とは言えないだろうね。そして今回初めて明確にその姿を記録にすることが出来たことでわかったことがある」
アクルクスはもう一枚写真を写す。そこに移っているのはサイファに酷似した人物。
「ノア・クレセント。真理研究機関ケイオス史上最強とも称される強者。だいたい1万と5千年ぐらい前の時代の人物なんだけど…ポラリス、君は良く知っているだろう?」
アクルクスは全てのモニターを消して、ポラリスと目を合わせる。
「何せ君は、彼本人に会ったことがあるのだから」




