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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
義勇に躍るマリオネット 編
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内部探索・避難誘導

「中央操作室はこの角を曲がった先じゃ!」


 影の腕を退けながらサボタージュ・スクワッドの面々が走る。通路が広めに作られているのでミクティカも通れてしまうがガッシュも通れるのでお互い様といったところか。

 ともあれ、ポラリスはブレードギアで扉を壁ごと切り拓いてガッシュが通れる大きさの入り口を作り、7人が飛び込む。

 研究所と同様に観測するための巨大なモニターや操作用のコンソールが並ぶ中央操作室に入り、辺りを見回すとすぐに違和感に気付いた。


「オペレーターたちがおらん…そしてコンソールがロックされていない。これは放棄して逃げ出したのか…?」


 今にも崩れ落ちそうなスーラがコンソールを操作を試す。しかし情報を閲覧できるだけで何の操作も受け付けてはいなかった。


「ダメだ!動かん!」

「わかった。俺がやる」


 スピカと共に壊した壁をフューズで元通りに直したポラリスがコンソールの前に立ち、目を閉じてフューズの操作に集中する。

 ポラリスから溢れ出す大量のフューズが発光し、本来フューズを認識できない他のメンバーたちにも視認されるようになる。


「一体何をしようとしているんだ…!?」

「直接回路そのものを見るんだ。回路術式に命令をできなくても、回路そのものに走るエネルギーを直接動かせば術式は起動する」


 それは静止した水路の水を、水分子を動かして渦を作るようなもの。緻密で精密でそして適切な操作が必要になる。

 思い描いたとおりに術式を乗っ取るその技術(スキル)思考隷属(ブレインレイド)と呼ばれる高等技術。

 他人の脳さえ好き放題に書き換えることすら可能とするこの特殊技術をポラリスは得意としている。

 ポラリスがしばらく頭脳隷属(ブレインレイド)でコンソールを操作せずにコンソールに繋がるネットワークに干渉していたが、不意に視線を右奥にやる。

 意図を察したスピカが視線の先に進むとそこには倉庫のような簡易シェルターが設置されており、中に誰かがいるようだ。

 スピカがシェルターを開錠すると中には中央操作室の職員たちが息をひそめて隠れていた。


「助けに来てくれたのか…」

「大丈夫ですか皆さん!」


 スピカとゴジョウが職員を助けながら事情を聴いているのを見てポラリスはネットワークへの干渉を終了する。


「どうだった…?」

「ダメだ。ネットワークが全く別の管理ネットに支配されて分割されている。何の操作もできない。だが情報はいくらか手に入った。警備員等他の職員もなんとか無事のようだな」


 ポラリスの成果を聞いてスーラとガッシュはほっと胸をなでおろす。二人は製造時の責任者で、今も職員として働いている知己も多い。気が気ではなかったのだろう。


「だが予断は許されない状況にある。防警局と連携して避難を優先させた方が良さそうだな。ここで二手に分かれるか…」


 ポラリスは少し逡巡してからすぐに判断を下す。


「俺とガッシュとスーラでマギウスクラスタを停止させる。スピカ、お前はヴルカ、ゴジョウ、リーナを連れて職員を全員避難させろ」

「了解しました」


 すぐに来た道を引き返そうとするポラリスの肩にガッシュが手を乗せる。


「職員から話を聞かなくていいのか?」

「その必要はない。コンソールに残されていた情報から必要な記録は手に入れた。職員からわざわざ聞く必要はない。それに、俺とスピカは通信ができるから緊急な情報は向こうの判断で伝えてくれる」

「わかった。お前の判断を信じよう」


 ポラリスが先程破壊した壁に触れると再び破壊した時間に巻き戻ったように崩落する。一度壊した後スピカは壊れる前の『空間が持つ記憶』を出力(ジェネレート)して直していたが、壊した後の記憶は消えたわけではない。ポラリスはスピカと同様に壊れた後の記憶を出力したのだ。


「行くぞ」


 ポラリスはガッシュとスーラが中央操作室を出た後壁を元通りに戻して進む。

 狭い通路を進む間はミクティカも一度に1体ずつしか通れないためにポラリスが常に1対1を制して進んできた。だがその状況は変化した。


「おい!隠れて進むんじゃないのか!?」


 正面搬入口。大型トレーラーや輸送車を通行させられるように2車線の道路標示が示された通路のど真ん中に出た3人は正面から立ちはだかるミクティカの軍勢と相対する。


「この施設ではお前のその体躯で通れる通路が限られている。少し装甲を削った程度では曲がりくねった迷路のような道を通る必要があるが正直時間の無駄だ。ならば最短ルートで進むべきだろう。それにわざわざ守らねばならんほど弱くはないのだから敵に見つかった程度で文句を言うな」

「わしもいるんじゃぞ!あんなバケモンなんて戦ってられるか!」

「そうだぞ!」


 不平不満が止まらない二人から目線を外すようにポラリスは一歩前に出て剣を構える。


「わかった。俺が一人で全て倒す。ガッシュ、お前はスーラを乗せて全力で走れ」


 ポラリスはフューズを活性化させ、星の光を放ちながら目にも止まらぬ速さで動き出す。ブレードギアにもフューズを纏わせて切れ味や耐久性を上げ、力押しで強引にミクティカの固い装甲を叩ききって捨てる。ガッシュの銃やヴルカの魔法ではまったく歯が立たないがポラリスにとっては歯牙にもかけない相手なのだ。

 ポラリスによって斬られたミクティカが影へと還り、余波で壊れた建屋のガレキが少しずつ積みあがっていく。


「あーもう行くしかねぇ!行くぞ!」

「おい!もっと優しくせんか!」


 その光景に圧倒されたガッシュはスーラを担いで走り出す。



 同時刻、警備室詰所で救出した警備員たちもつれてスピカたちは走る。

 スピカが先頭でナックルガードの付いた特徴的なブレードギアを握りしめて飛び上がり、ミクティカに斬りかかる。ミクティカは強固な両腕を交差してガードするがスピカの背後から遠隔操作され飛翔する二本のブレードギアがミクティカの首から貫通して撃破する。さらに四本のブレードがその奥のミクティカの四肢の関節部を的確について切り落とし、動きが止まった隙に背後に一気に回り込み、飛び上がって手に持ったブレードを内部に叩き込んでフューズを流し込み撃破する。

 六本の剣を周囲に浮遊させ、手に持った剣と合わせて七本の剣を自由自在に操ってミクティカと正面から渡り合う。


「あなたって何でもできるのね」


 スピカと共に前を走るヴルカが値踏みするように装いを機動戦用に変えたスピカの姿を頭の先からつま先まで観察する。


星章騎士(ソルジャー)たるもの、常に強者たる必要があるのよ」

「それって、アイツ(ポラリス)も?」

「ええ、もちろん」


 ヴルカは心底嫌そうな顔をして、スピカに聞こえないように小声で零す。


「これだから星の子っていうのは嫌いなのよ」


 が、残念ながらスピカの聴覚もデバイスによってもとより強化された状況にある。聞こえないように小声で零した声もしっかりと拾った。拾ってなおスピカは可憐に、そして気丈に笑う。


「大丈夫、心も強いから」


 スピカは再び立ちはだかるミクティカを関節ごとにばらばらに解体してから露出した中身の影の塊を両断する。

 ヴルカが一体倒すには苦労するミクティカをこうも簡単に目の前で倒されてはヴルカのプライドは粉々になる。力も、知恵も、技術も、外見も、心さえも何一つ敵わない存在に恐怖する。ヴルカの心は責任と使命からなる慢性的なストレスで限界に近づいていた。

 ヴルカの故郷では星の子(スターリア)は迫害されていた。ヴルカも魔女として排斥される側ではあったが星の子(スターリア)はその比ではない。ただ殺されるだけではない、体を、命を、全てのリソースを使い潰されて化石燃料を消費するように燃やし尽くして消滅する。

 もはや資源だ。一周回って奪い合う価値がある。

 だがそんな利用方法も、彼女たち自身が放つ光の価値に比べれば大したものでもなかった。只人が奇跡を起こしてもなお実現できない現実を軽々と起こせる超人。

 ーーーーーーならば縋ってもいいのだろうか。 


「ねぇ、スピカ」

「なにかしら?」

「私を…私たちを…助けて…」


 ヴルカの瞳から自然と涙が零れた。彼女もまだ責任に見合うだけの強さを持ち合わせてはいなかった。でも自分の責任を果たさなくてはという使命があった。自分にしかできないから、他人には任せられないから。

 だから今まで助けを求めなかった。でも任せられる人に出会ってもう自分一人で背負う必要がなくなったから。


「よく、言えました。後は私たちに任せて!」


 スピカはニッと口角をしっかりと上げて笑う。その笑顔を見て安心した。まだ何も解決していないのに心の荷が下りた。

 そう話しながら進んだ道もあとわずか、スピカは一気に加速して中央搬入口前の大広間に一足早く文字通り身を投げ出す。

 

「私の流星(ミーティア)を捉えられるかしら!?」


 ポラリスと同じように加速し、速度を乗せた剣でミクティカを貫く。遅れて飛翔する剣がバラバラに解体し、空中を蹴って方向変換すれば直角以上の角度で急旋回して追跡する。

 スピカは一瞬で搬入口前のミクティカを片付け、その残骸が雨のように降るなか、中央に着地。剣を掲げ、そしてゆっくりと振り下ろす。

 同時に遠く離れた搬入口の閉ざされた鋼鉄のシャッターがバラバラに切り裂かれて開く。


「さあ、脱出しなさい!」

 

 ヴルカは涙を拭ってから杖で魔力を操作し、氷のスロープを作り、3階部分に当たる現在位置から1階の脱出口までの近道を作る。

 ------私だって、戦うだけじゃないもの。

 どれだけ他人が輝いても、それで自分の価値は変わらない。

 ヴルカは自分の焦りと奢りを冷静に分析して、そう心に刻む。


「もう、荒事はやめようかしら」


 ヴルカは職員たちが避難し終わるのを見届けてからスピカの隣に降り立つ。


「それはいいわね。でも、今はポラリスを助けに行かなくちゃ」


 スピカはここまで戦い抜いてなお疲れを見せない。その姿を見てヴルカは奮起する。


「しょうがないわね!あとひと踏ん張りと行こうじゃないの!」


 強く決意を再確認する二人。それを遠巻きに見ながらゴジョウは疎外感を覚えるのであった。

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