崩壊領域
摩訶不思議が支配する領域、崩壊領域に踏み込んだサボタージュ・スクワッドはポラリスとスピカを除いて皆その異様な景色に気おされていた。
物理的には途切れているのに中身が連続して流れ続けるパイプ。放電しながらなんとか通電し続ける配線に荒れ放題の床、壁、天井。それは人為的とは思えなかった。だが偶然そうなったとも考えにくかった。
何か意図を以て、そして自然の乱数に則って破壊されている。
「世界の崩壊は崩壊点を中心とした特定領域から始まる。この領域を我々は『崩壊領域』と呼称している。この領域の中では星幽はより活発に、そして強力になっていく。気を引き締めろ」
ポラリスは剣をしっかりと握りなおし、周囲への警戒を強める。するとすぐに敵の襲来に気付く。
「早速来るぞ!」
石の腕が上から振り下ろされる。ポラリスが受け太刀し、剣を匠に操って流し、蹴り飛ばしてその姿をしかと確認する。
それは頭のない偶像。動き出す石の人形の腕は剛腕で敵を叩き潰すことや人並みよりも力強くあろうと思わせる。浮遊する移動を基本としている為足はそこまで強靭ではなく腕に比べればもはや貧弱と言わざるを得ない。
何よりもその特徴は空洞の偶像の体を埋め尽くし、そして繰り操るのは星の影。
つまるところこいつの正体は星幽ということだ。
ポラリスとスピカのギアデバイスはすぐさまデータベースと照合し、過去の記録を呼び出してくれる。
「どこともわからぬ冥府遺跡の守り人、ミクティカか。種別された星幽は他の星幽とは一線を画す。覚悟せよ」
ポラリスは注意を呼び掛けるとともにバリアを展開しつつ正面のミクティカに向けてサイコバレットで牽制する。
ポラリスはここから先は屋内戦になると考えて大剣を廃棄、改めて細身の長剣のウェポンギアを出力して身に纏う装備も作り直していく。室内戦に向けて小回りの利く高機動をサポートする装備に変更し、鎧で受けていた分はバリアを追加で展開することで補うことにしたのだ。
ミクティカが壁にたたきつけられてよろめいていたが、立て直して再びポラリス達に向けて突進していく。
「よく見ていろ」
ポラリスは斜め上へと跳躍し、さらに空中を蹴って方向を変える。剣をまっすぐに突き立てる先はミクティカの首穴。本来は頭部が収まるべき空洞から除く影へと剣を突き立て、そして融合素を流し込み、全てエネルギーへと転換、昇華して純粋な根源的エネルギーが溢れ出す。
熱エネルギーのように振動し、光のように波動性と粒子性を併せ持つ、物へと干渉しようとする力が単純な『力』がミクティカを内側から破壊する。
鎧が崩壊し、影へと吸い込まれていく。
「コイツは外側は非常に硬いが内側が脆い。おあつらえ向きに首に空いている空洞を狙えばいい。君たちなら…簡単だろ?」
「ええ…ええ!弱点が分かってるなら簡単よ!」
「そうだな。ま、せっかくいいギア使わせてもらってんだ。できる限りはやるぜ!」
ポラリスに焚きつけられたヴルカとガッシュが奮い立ちつつ気を引き締め直し、周囲への警戒を強める。
「とりあえずここで立ち止まっていればたちどころにミクティカに囲まれることになる。スーラ、とりあえず操作室へと案内してくれ」
「わかった!こっちじゃ!」
ポラリスとスピカの二人分の強化術式を受けて軽々体を動かせるようになっている為すぐに全力で走り出し、すぐに守りに入れる位置にポラリスとリーナを肩に乗せたスピカが続き、ゴジョウと傍で守るヴルカがその後ろを走り、最後尾にガッシュが屋内で動きやすいように体を小さく変形させて殿を務める。それでも体が大きすぎるので最悪どこかに置いていくことも誰も相談こそしていないが想定には入っているのだ。
犠牲が、絶対に出ないとは言い切れない。それでも必ずやり遂げると信じた7人がひた走る。




