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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
義勇に躍るマリオネット 編
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作戦前夜

「これでこの物語の登場人物が出そろったね。どう?気になる人はいた?」


 憎たらしいほどに笑うフリートを睨みながら停止した映像の手前に映る人物を指す。


「コイツの正体は何なんだ?」

「あーそいつはなー…まあ後でわかるから今はほっといてあげて」


 出そろったと言ったと言った傍からこれだ。どうやらこいつは思っていた以上にいい加減な奴なようだ。面倒くさくなった自分は勝手に操作端末を手に持って先に進めようとする。その瞬間端末が浮遊してフリートの手元に収まる。


「あー待って待って、まだ待って。ここで一度君が注目しているのは違うでしょ」


 フリートはモニターを操作して一人の写真を中心に持ってくる。そこに映っているのはスピカだった。

 コイツ…ふざけているように見えてよく観察してやがる…。


「ああ、そうだ。なぜかは分からないがなんとなく目を向けてしまうんだ」

「それは彼女の『覚醒因子』のせいだね」

「覚醒因子?」

「ああ。ヒトを含む生命体は基本的に遺伝子という設計図を基に体が作り上げられているわけだが、これはまあ科学的な遺伝でね、因子とは魔法やエーテルの扱いに関わる遺伝なのさ。設計図というよりは内蔵式の説明書の方が近いかな。遺伝子が固有のものであるのに対して因子は決まった形があるんだ。覚醒因子はその中の一つで最も希少な因子の一つなんだ」


 珍しい…ねぇ。これは何か裏がありそうだ。

 そんな顔をしているのを見てフリートは目ざとく気付いて微笑む。


「君は勘がいいね、そう、この因子は非常に強い力を与える因子なのだ。時にその名の通りに目覚めの悪い力を目覚めさせ、時に人の回復力を活性化させる。それは人の常識の範疇に収まるレベルじゃない。星の子がこの因子を持てば目の届く限りの世界を支配することもあった。地底の太陽と呼ばれる伝説にもなったな、時間があればその記録も見せてあげよう。話がそれたね、えーと…ああ、その回復力は命を失っていなければいかなる傷でも再生させるという人智を越えたレベルのものだ、そりゃあ誰だって欲しがるよな。だが遺伝することは稀だった、だから多くの場合長生きは出来なかったんだ、皮肉な話だ、人を超越した力を持っていても人並みの人生を送ることさえ困難となってしまったのだからな」


 人を越えるか人にもなれずに終わるか。まるでギャンブルだ。不幸にしかならない悪魔のような力だ。

 自分が感じていた違和感の正体がようやくわかった。あまりにも普通の少女だった。高度な文明の民、星の子、万能な能力、全て持ち得ながら市井の女の子のように楽しそうに、そして献身的に、人を超越などしていなかった。


「まあ覚醒因子には人の意識を無意識に集めてしまうという特徴があってね、だからこそすぐ見つかってしまうわけだが今回はそれが功を奏した。何せ目の前に立つだけで迷いや後悔を振り払い背中を進めるのだから。今回のように後悔にさいなまれ錘を引きづる者たちを仲間に引き入れるにはもってこいだ。ポラリスはきっとこうなるとわかってて自ら出向いたのだろう。彼にもスピカほどではないが覚醒因子があるからね」


 道理で説得がトントン拍子に進むわけだ。インチキじゃないか。


「インチキだろうが何だろうが生き延びるためには使えるものは使っていかないと。手段を選んでいられる間は歴史家は平和と呼ぶだろうね」


 また表情から心を読まれて苛立ちが募る。だがそれも見越していたのかフリートはすっとモニターを元に戻す。


「ふふっ。まぁ続きを見れば全てわかるさ。何せこれまでの行動は全てこれから起こることの準備に過ぎないのだからね」


 そう言い終わらぬうちにフリートは自ら再始動させる。




 時は少し立ち、ポラリスがセーフハウスに戻り、整備の終わったガッシュや支度の終えたヴルカが寝静まった後。ポラリスは帰り道の途中で安全な回線で設計図のデータを全て転送していた。データをギアデバイスで転送してもよかったが、今後の作戦で必ず使用するデバイスの記録を察知でもされたらたまらないしデータを傍受されても困る。よってギアデバイスとは全く異なる、より傍受妨害の成された安全な回線で連絡を取ることにしたのだ。例の有線回線はもう他に使う予定が無いというのもあるが。


 ともかく日付が変わる頃にはイ・ラプセル天文台側では設計図の解析が終わり、安全な停止方法及びその後の一時的なエネルギー供給の代替方法も計画されていた。

 ポラリスとスピカはギアデバイスに転送されてきたそのデータを頭に入れながら星の少ない夜空を見上げていた。

 そこへリーナが慣れた飛び方でポラリスの頭に突撃する。


「どうした?眠れないのか?」

「アルトが気になってしょうがないの。私はここから離れられないから様子を見に行けなくて…元気…なのよね…」

「定期的に様子を見ているが順調に昇格を遂げているようだ。今日はついに首相直属部隊の一員とのして彼の招集を受けていたよ」


 ポラリスとスピカはモニターを閉じ、網膜投影に切り替え、リーナに向き合いながらデータを見続ける。


「ポラリス…リーナが気にしているのはそこじゃないと思うのだけど…」

「わかっているさ。君にとって彼が特別なように彼に取っても君は特別なんだ。想像の通りだ、心の底から憔悴しきっていたよ。今彼の心にあるのは復讐心だけだ、恐ろしいことにその対象はどうやらアストラル化した君のようだよ」


 ポラリスは不器用ながら気を使っていたがスピカにとっては不適切だと考えた。

 二人の考えの差はどちらが正しかったかリーナがその身を以て答えた。

 彼女はその事実をちゃんと受け止めていた。結局どこまで行っても二人の気持ちは同じなのだ。彼女は初めからわかっていた。それでも怖くて恐ろしくて、心が変わってしまったのではないかと心配していたのだ。でも彼は彼女と通じていた頃のままだった。喜ぶべきことではないのだが一つ心のざわつきが落ち着いたようだ。


「このまま作戦を実行すれば彼とも戦うことになるだろうな」

「アルトを…殺すの…?」

「アルトも含めて兵士は一人も殺さないよ。彼らは敵じゃない」

 

 ポラリスはいつも通りの真顔のままリーナを撫でる。だがその眼はどことなく優しそうだった。

 

「ならその時は私がお相手致しましょう。作戦がどう推移しようとも結局皆さんの相手をするのは私なのでしょうし」

「そうだな…この期に及んで未だ未確認の敵がいる。マギウスクラスタを破壊するのはスピカでもできるが妨害が激しい中では困難だろうからな」

「本当はアルトには戦って欲しくないなぁ…」

「…そうだな、戦わない生き方をこれから選べば戦わないで済むさ」


 ポラリスが撫でているうちにリーナの瞼が少しづつ重くなってやがて閉じる。


「おやすみ」

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