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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
義勇に躍るマリオネット 編
17/123

机上の実論

 ポラリスは翌日の夕方。行政機関の立ち並ぶ街区の、とあるビルの屋上にいた。その視線の先にあるののはとある部署。定時を迎えたばかりのようで大半のスーツ姿の公務員が帰る支度をしている中、一人だけ作業を続けている男がいた。

 その名はゴジョウ。今は出世コースから落ちた者の集まる部署におり、彼もまた左遷される形でこの部署に配属されていた。

 この日はヴルカの情報をもとにポラリスが一人で行動しており、スピカとヴルカは引き続きガッシュのメンテナンスをしていた。その中でヴルカの情報の共有をしていた中で有用な情報が一つ見つかった。


「設計図?マギウスクラスタの管理施設にあるけど人が常時監視してるから研究施設のように簡単には忍び込めないわ」

「他には写しは無いのか?」

「一応…建造技術責任者のスーラなら持っているかもしれないけどあの事故の後に彼は行方不明なのよねー」

「まいったな…」


 一つ希望が潰えそうになったところでガッシュが助け舟を出す。


「ゴジョウなら知っているんじゃないか?アイツスーラと仲良くてよく酒飲み交わしてたろ」

「そういえばそうね」

「ゴジョウ?その者は何者だ?」


ガッシュはやっと機械の体に慣れてきたようで無駄にガチャガチャと鳴らすことなくおとなしく動かずにしゃべれるようになっていた。と、ポラリスは思っていたが実際には苛立ったスピカによって首から下の電源を落とされ接続が解除されてただけであった。ゆえに首を回すこともできずにポラリスとは目を合わせない。


「政府の役人だ。行政側のマギウスクラスタ導入チームのリーダーだった。非常に生真面目な奴でな、そんな性格だからあの偏屈爺と意気投合したんだろうが…」

「そのゴジョウとやらに接触すればいいのはわかった。そいつと接触するにはどうすればいい?」

「アイツは事故の責任を取って左遷させらたが一応まだ中央省庁で働いていたはずだ。今は資源省の下の農林庁にいたはずだ。すまんがそれ以上はわからん」


 わずかに項垂れるように目線が下がったガッシュを見てポラリスは立ち上がり彼の肩に手を置く。 


「そこまでわかってるなら十分だ。後は部下に調べさせる。都市政府の官僚一人探すなら半日とかからないだろう。後は任せろ」

「アンタ説得とか出来んの…?」

「不得手なのは認めるが今は十分な交渉材料がある」


 ヴルカはこのあとポラリスが何を言っても疑いの目を向けることをやめることは無かった。



 それは説得が実行段階に移った現在も変わらない。


「ねぇ、本当に私が行かなくて良かったのかな」

「ポラリスの心配はいらないよ。たとえ今日失敗しても最後には必ず解決に導くから」


 スピカの妄信と評しても差し支えない信用を見たヴルカはもう諦観を胸にガッシュのマニュピレーターの調整に集中することにした。

 そんな不安視されていたポラリスはゴジョウが一人になったところ狙い、最後の一人とすれ違うようにして彼が一人残るフロアに侵入する。フルステルスによって全てのセキュリティをパスしたポラリスは監視カメラには映らないようにしつつ肉眼には見えるようにフルステルスを解除し、悠々と歩きながらゴジョウに近づいていく。あまりにも自然な入り方にゴジョウは初めに違和感を覚えることが出来なかった。そのため先に話しかけたのはポラリスだった。


「初めまして、私の名はポラリス。君に一つ相談をしに来た者だ」


 ゴジョウはそこで全身の毛穴から汗が吹き出し緊張が走り手が止まる。自分のフロアに入るためにはいくつものセキュリティを通る必要があり、そもそも部屋のドアでさえ職員専用のカードキーが必要なはずなのだ。だが彼は何でもないように侵入してきたのだ。これ以上ない不審人物である。だがゴジョウは自分に会いに来る理由に心当たりがあった。ゆえに対話のテーブルに立つことを決めた。


「私の名はもう知っているだろうが一応名乗ろう。私は農林庁自然保護区管理課長、ゴジョウだ」

「ああ、察しの通り私はあなたに会いに来た。色々言葉を並べるのは好きではないのでまず要求から伝えよう。マギウスクラスタの設計図が欲しい。あなたはその持ち主を知っているはずだ、その居場所もな」


 ゴジョウは予想通りの要求を受けたことで少し心に平静を取り戻すことが出来た。彼の現在の職務上まず自然保護区の管理事務所に連絡が行き、その後報告が上がってくる形で事情を知る。つまり本業ではないことは初めからわかっていた。となれば彼が自分の前の機密業務に関わることは自明の理だ。

 ここは一つ主導権を少し取り戻すべく駆け引きに出ることにした。


「設計図を得て何をするつもりだ?まさか複製するつもりじゃないだろうな」

「無論、適切に破壊するためだ。私はあれの危険性を重く見ている。できればあれを破壊したのちに設計図は全て破棄しておきたい。未来に残してよいものではないと考えている」

「それは、全ての事情を知る私もか」


 ゴジョウは意を決して立ち上がり交渉相手と正対する。


「情報は、命より重いか」


 ポラリスはここでゴジョウにだけ見えるようにステルスを解除する。


「命より重いものはない。何人も、人ならざるとしてもだ」


 決意を固めた目をゴジョウはまるで遥か遠くまで広がる星空のように澄み渡っていると思った。はっと息を飲むように、ゴジョウは交渉の決着を吐き出した。


「ついてこい。彼の元に、案内しよう」


 ポラリスは交渉が成功したことで満足そうに少し口角を上げる。


「感謝する、助かるよ。君も憂慮していた…と捉えても?」

「…いくら機械の情報統制をしようとも噂する人の口はふさげないからな、事態は水面下でもう大分広まってしまっている。だから後始末には苦労するだろうな」

「それについてはある程度考えがある。まずはこれがマギウスクラスタに代わる新たなるエネルギー供給機関だ。次にこれが情報統制計画で…」


 ポラリスはあれこれとエルノド・ノヴォで一般的に使われている端子を使用したデータ記録メモリーを取り出す。


「まてまてまて俺の端末は監視されているんだ!」

「そういえばそうか、では俺の端末で…」


 ポラリスはより幻術を強め、周囲の警戒を厳しくしてからホラグラフモニターに次々と計画を見せていく。

 

「復興計画まで用意しているとはな…それもずいぶんと手厚い。よく練られている…これならこのまま採用できそうだな」

「当たりまえだ。採用するしないではなくまず実行する前提で計画している。そのために集めた部下たちが作り上げたのだ、シュミレーションでも失敗は無かった。不備はない」


 ゴジョウは想像以上に完成度の高い計画を見て戦慄せざるをえなかった。既に侵入の段階で非常に高い文明の存在ではあると考えており、ホロモニターなどの最早何年先に開発されるかもわからない高度な技術を見せられながらこの計画書にはエルノド・ノヴォで実現不可能なものは何一つなかった。制度、技術、物量、全ては現実的な範囲に見事に収まっていた。

 つまりポラリス達はわずか数日で監視の目を搔い潜った上でこの都市の全てを調べつくしたのだ。

 そのことを計画を読み進めていくほどに実感していき、やがてハッとして顔をあげるとそこには既にポラリスの姿はなく、ホロモニターも手元から消え失せていた。


「では、案内は頼むぞ」


 どこから発されたのかはわからない。耳元ではない、部屋の中ではない、フロアの外ではない、()()()()()()、無意識の領域から聞こえたその声は、確かにポラリスのものだった。

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