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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
義勇に躍るマリオネット 編
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魔女の試練

 ヴルカがステラスホールに魔女の固有領域を展開していく。完全な力を持つ魔女は皆自身のみが支配する固有の空間を持ち、その空間の内部はおろか出入りさえ支配する。彼女の領域の特性は電熱収束空間。変電所のようにあちらこちらに張り巡らされた電線を走る電撃と電撃が走る場所に発生する熱力の二つの力を司る。

 ヴルカはその空間の扱いに長ける為領域の一部でステラスホールを上書きしていき、3人を封印の間へと引き入れる。


「こいつがホールに封印されていたやつか…」

「ええ、『ブラフマン』と名付けられた厄災の魔獣よ」

「厳密には魔獣類とは別物の星幽(アストラル)という存在なのだがな。まあいい、コラプサーが解決すれば分類する必要もなくなる。ヴルカ、力を示せとは、要はこいつを倒せばいいんだろう?」

「ええ、あなたこの試練を乗り越えたなら、私の全てをあなたに託すわ」

「なら下がっていてくれ」


 ポラリスは数歩前に出て後ろを振り返る。


「ガッシュ、悪いな。まだ待たせることになる」

「構わん。俺は外に出れるってだけでも十分だ」


 ポラリスはその言葉を聞いて表情を変えずに頷く。

 ポラリスは正面に立ち上ろうとする巨人を見据える。両腕で大地に立ち上がろうと必死にもがくもその行動はその姿には合っていなかった。なせならその巨躯には腰から下が存在しなかったからだ。否、その表現は正しくはない。腰部より下が煙に巻いているように曖昧になっている為自立する必要が無かったのだ。

 ブラフマンがそのことに自ら気付くとその手を大地から離して周囲の確認を始め、そしてポラリスを認識する。


「呑気な奴だな。」


 ポラリスは対面する敵のあまりにも間抜けな姿に表情には見せないが呆れながら意識を戦闘へと集中させる。

 再びポラリスは自分の周囲に煌めく粒子を漂わせながらブラフマンを見据える。ブラフマンが巨大な手で叩き潰そうと振り下ろしてくるがまるですり抜けるかのように指と指の間を抜けるように飛び上がる。ローラースケートで滑るかのように空中へと飛び上がり両手を大きく広げる。


「魔女の領域に招かれたのだ。手を抜いては失礼だからな。俺の全てを以て撃破しよう」


 ポラリスは融合素(フューズ)をさらに激しく、より大量に出力して発光させていく。単なるエネルギーを保管、伝達するだけに過ぎなかったはずの融合素(フューズ)を物質化させていく。エネルギーの塊であるフューズによって紫衣の正礼装を作り上げて纏う。

 『星装(せいそう)』、手練れの星の子(スターリア)のみが全力戦闘の際に作り上げる戦闘服であり彼らの礼服でもある。星装を作り上げるだけのフューズを作用することも物質化させることも容易くはなく、人でありながら幻想種に類される少ないその総数のさらに一握りの星の子だけが見せる奇跡。

 ポラリスは星装を纏った上で右手にさらに融合素(フューズ)を物質化させていき、畳まれた大剣を手にする。

 『星魂(プラネッタ)』、かつて時代を彩る煌めきを放った(ひと)の魂が遺した力の欠片であり、融合素(フューズ)の保有量、作用力、制御力を底上げしその上で特別なものは特殊な能力を持っていたり武器や道具としての姿も持つ。

 ポラリスは大剣を一振りしながら展開し、エネルギーの刃を発振して身の程もある剣を片手に持つ。


「何度でも約束を果たすよ」


 空に浮かぶ星章の騎士は「約束」の銘を与えた剣に囁いた。

 融合素(フューズ)で力場を形成して浮遊するポラリスを見上げるヴルカはかつて恩師に教わった御伽噺を思い出していた。

 かつて5000年の昔の話。世界は一つの国にまとまっており、その国を治める皇帝(おうさま)がいました。何度も世界は危機に陥って、みんなは危ない日常を送ることにもなったけれども、誰よりも強い皇帝(おうさま)が必ず守ってくれました。

 瑠璃色の髪と瞳、そして紫衣の正礼装。

 ポラリスは空色の色彩のはずだったが今は御伽噺のような瑠璃の色彩へと変わっている。彼は今御伽噺の皇帝(おうさま)そのものの姿になっていた。


 甦る伝説を前にブラフマンは恐れおののくこともなく天に浮かぶ帝に両手を伸ばす。不遜なる両腕の追跡を一度地に向かい下りることで回避するポラリスは逆立ちの体勢になりながら大剣を居合の形に構える。融合素(フューズ)で作り出した光背で重力に逆らい、そして残る全ての(エネルギー)を剣に注ぎ込み、周囲の光や空間さえ吸い込んで何もかも破壊のためのリソースとしてまとめ上げていく。自身の内側と空間に存在する全ての融合素(フューズ)がポラリスの意思を伝達し全ての力を制御しているのだ。

 やがて静謐に剣に収まった全てを解き放つべく今ひとたびポラリスは構えを整え、一瞬で空間を駆け抜ける。


純化(イノセント)過剰剣気(オーバーブレイド)


 ブラフマンに一太刀が浴びせられた直後。その傷が浮かび上がるも傷からエネルギーが溢れるも全てはブラフマンを破壊することに費やされ、ブラフマンを何体倒しつくしてもあまりあるだろうエネルギーがあったはずだが全てはブラフマンの体を通して曖昧な境界を越えて虚空へと消えていった。力の全てを支配したポラリスによって溢れ出さないようにコントロールされていたのだ。

 魔女の試練が完了されたことで役目を終えた領域転換が解除され、三人は此岸へと帰還する。


「さて、これで魔女の試練は完了したかな」

「ええ、そうね。私たちはブラフマンを封ずることが精いっぱいだったの。もうあれは私たちの手に負えないものになりつつあるわ。あなたの言う通り、あれがやがて世界を壊すのでしょう。でも私はこの街を…いえこの街を守ろうという意思を放ってはおけないの。だから…」


「私はあなたたちに協力するわ」



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