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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
星夜の魔女 編
125/131

お菓子な世界

 アヴィオールが気づいた時、周囲には誰もいなかった。

 

「空間転移か?逸れてしまったのは痛いな」


 すぐに身体を起こして周囲を見回す。星空に浮かぶ通路に寝ていたらしい。

 ギアデバイスの固有時間を確認するとどうやら正門に吸い込まれてから僅か数秒しか経っていない。

 特に行動に制約は無い。しかし道標も無い。


「とりあえず、誰かと合流するか」


 融合素にメッセージを載せて、念話を全方位に向けて放出する。

 融合素は膨大なエネルギーを保有、放出を行う粒子としての性質の他に波動として伝播する性質を持つ。

 主に粒子としての性質を利用したスキルをサイキック、波動としての性質を利用したのがエスパーと呼ぶ。

 アヴィオールはどちらかと言うと前者の方が得意なのだが何かと便利な技術は苦手でも訓練して鍛えているのだ。

 だいぶ遠くまで届くので恐らくは何処かで誰かが受信して反応を返すだろう。アヴィオールはそう考えて自身は周囲の様子を見回す。

 足元は石畳の道がどこまでも続いている。そして道の傍は虚空であるがさらにその向こうには足場が浮かんでいる。アヴィオールなら飛んで渡るのはわけもない。だが今の道が続いている以上わざわざ回り道をする必要は無い。

 アヴィオールは道の上に立って前後を見回す。どちらに進むべきか、間違えれば合流など望めるはずもない。と、なれば次は道を探すこととする。足元に沼のように融合素を広げ、足元から次々とシキガミを創り出していく。

 彼のシキガミは皆鳥の姿をしている。小鳥たちが一斉に羽ばたいて散っていく。


「行け。ゴールでもスタートでもいい。何か手がかりを探し出すんだ」


 ざっと百羽程放ち、後はシキガミが見つけ出した目ぼしい情報を精査する事に専念する。

 するとすぐに成果は上がった。

 他の誰かが放ったシキガミと接触したようだ。


「こっちか!」


 アヴィオールは反応があった方向に走り出す。

 一歩一歩のストライドがとにかく広く、殆ど浮遊しているような走り方はイ・ラプセルでよく用いられる走法だ。

 浮遊や加速のように全て力で解決するのではなくあらゆる抵抗や反発や重力の影響等を軽減することで効率よく速度を上げて走ることが出来るのだ。

 空間への干渉を得意とするイ・ラプセルの星の子ならではの技術だ。

 さらに強く踏み込むことで跳躍の飛距離も伸ばせる。アヴィオールは一気に跳び上がり、浮島を伝って目的地に一気に到達した。


「鳥のシキガミ。やっぱりあなただったのね。アヴィオール」

「ああ。合流出来て良かったよ。ミモザ」


 一歩早く到着していたのは同じようにシキガミを四方へと放っていたミモザだった。

 辺りにはアヴィオールの放った鳥のシキガミとミモザの放った蝶のシキガミが戯れるように飛んでいる。

 

「この空間は特異点の領域の中でもさらに特別な場所みたいで、私のギアデバイスでも通信が繋がらないの。あなたは?」

「私はそういうの、苦手だから試しても居ないな。一応念話を飛ばしたぐらいだが返信は無かった」

「そうね、一応僅かだけど感じたわ。本当に僅かだから余りよくわからなかったのよ」


 ミモザはごめんねとばかりに手を合わせてウインクする。アヴィオールはやはりダメだったかと気落ちするが二人の移動距離はかなりあり、更にシキガミ同士が中継出来ることを考えれば届いただけ頑張ったとも言えるかもしれない。

 念話が得意なポラリスやスピカなら確実にコミュニケーションが取れていた距離ではあったが、それでも僅かでも届いただけ意味はあった、とアヴィオールは内心で自分を慰めるしかなかった。


「ともかくまずは他のみんなと合流を急ぎましょう」

「そうね。それとこの空間の調査もね」


 だが取れる手段は全て使うべきだ。アヴィオールは再び念話を全方位に向けて発信した。




 アクルクスは一人、合流出来ずに必死に孤軍奮闘していた。


「チッ!鬱陶しい!」


 自身に絡みついてくるクリームをフューズを昇華させて剥がし、燃やし、溶かして消し飛ばす。しかし次々襲いかかってくるホイップクリーム達は一体何処に隠れていたのか想像もつかないほどそこら中から溢れ出していた。


「レイバースト!」


 フューズを一斉に昇華した光で足元のクリームを根こそぎ薙ぎ払う。しかし物陰に隠れていたクリーム達は次から次へと現れるためアクルクスは飛んで逃げることにした。


「キリが無い!」


 だがホイップクリーム達はあろうことか飛んで追いかけてくる。

 バリアを展開し、エーテルの光弾を次々放って迎撃するが数がとにかく多すぎる。

 全方位から押し寄せるクリームに押しつぶされて浮島の一つに叩きつけられる。


「何なんだ一体!」


 何とかスキンバリアでギリギリ押し留めているものの押し重なるクリームによって軋み、(ひず)む。

 アクルクスは少しだけ粘って、それから切り札を切ろうとも悩んだが、その必要は無かった。

 アクルクスごとクリームを薙ぎ払っていく絨毯爆撃。そして生き残った僅かな塊すら的確に叩き潰す三振りの大剣。


「無事かい?アクルクス」

「豪勢なトッピングにも程があるだろ」


 アクルクスの傍に降り立ったのはいつもの長杖(スタッフ)よりも半分の長さのワンドを片手に持ったスピカと、三振りの大剣を侍らせたカノープスの二人だった。


「助かったよ。なかなか鬱陶しくてね」

「そりゃあ何の考えも無しに突っ込めばそうなる」

 

 やれやれとばかりに首を振るカノープスをアクルクスは睨みつける。


「勿体ぶらずに言ってくれないか?」

「クリームなんだから、湿度と温度を上げれば向こうから避けてくれるだぜ」


 余りにも当然の帰結にアクルクスは開いた口がふさがらなかった。


「その手があったか」




「クソ!ビスケットは乾燥にも多湿にも高温にも低温にも強いから倒すしかない!」

「湿気ても形が崩れないからな。寧ろ変質して厄介だ」


 何とか合流に成功したポラリスとエルナトはそれぞれの得物を振り回し、次々と湧いて出てくるビスケットの兵士達と激戦を繰り広げていた。


「他のみんなも合流出来ているだろうか」

「無事を信じて進むしかありますまい」


 エルナトは血路を開くべく両端から煌焔(フレア)を放出する棍を振り回し、そしてビスケット兵を粉砕して突き進む。

 その陰からポラリスが現れブレードを片手で振るい一太刀で固いビスケットの鎧を切り裂き、返す刃でもまた深々と傷を刻む。

 そしてすかさずエルナトが割って入り右足で蹴飛ばし、粉砕する。

 正面が開けばポラリスがバリアを張りながら身体をねじ込み戦線を押し上げる。

 前を塞ごうと立ちはだかるビスケット兵の足元をするりと抜けてはエルナトと挟んでシールドバリアで押し潰す。

 そして背後をエルナトに任せる正面を向き、ブレードを正面にまっすぐ向けて構える。煌焔(フレア)を刀身に渦巻かせ、一気に昇華する。


煌焔剣気(フレアブレイド)

 

 ポラリスがブレードを一瞬にして三度振る。

 煌焔によって拡張された斬撃が一気に正面のビスケット兵に襲いかかり、一瞬にして殲滅する。

 

「征くぞ!」


 一気に開いた道をポラリスとエルナトは共に駆け抜ける。

 ビスケットの包囲網を突破して全力で道なりに駆け抜ける。


「見ろ!あそこがこの空間の果てだ!」


 空間の大きさを認識できるポラリスが叫ぶ。エルナトにも分かりやすく一際大きな足場が見え、ついにゴールにたどり着いたと思ったその時。


「避けろ!エルナト!」


 二人の背後から夥しい数のホイップクリーム達が集まってきた。

 何とか回避するがホイップクリームは次から次へと集まってくる。彼らは別に攻撃のため襲いかかったのではなかったのだ。

 二人が最後の足場にたどり着いた時、空間の果てはホイップクリーム達に覆い隠されてしまった。

 それどころかホイップクリーム達は次から次へと集まり、そして自らの形を創り出していく。


煌焔砲(フレアバースト)!」


 ポラリスがホイップを消し飛ばそうと攻撃するが表面が焦げ付いただけですぐに再生していく。

 やがてその輪郭は整った。

 立ちはだかっているのはお菓子の王様ホールケーキだった。


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