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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
星夜の魔女 編
123/123

あの星を目指せ

 イ・ラプセル天文台観測室、ブリーフィングルーム。

 クルーシェによって集められたのは七人のソルジャー達。

 天の帝の冠を補強するためにソルジャーの資格を得たポラリス。

 そのポラリスに追って僅か1年の修練で進士及第まで至った野生の秀才スピカ。

 若くして親衛隊の柱石を担うアクルクス。

 ポラリスの最初の侍従であるミモザ。

 当代の筆頭ソルジャーのカノープス。

 雷撃とも称される剛腕のエルナト。

 そして一つ齢は下ながら既に六人と同等の武勲を挙げているアヴィオール。

 熾烈なる内戦を勝利に導いた立役者たちが今、ここに揃い踏みした。


「なんだなんだ?こんなメンバーを集めるだなんて尋常な事態ではなさそうだな」


 中でもカノープスは群を抜いて緊張感がない。

 自分の実力に対する絶対の自信が不安や警戒を一蹴してしまうためだ。


「御前だぞ、カノープス」

「今は同じソルジャーとして呼ばれてるんだぜ?それにそんな細かい事を気にする程狭量じゃないさ」


 エルナトが注意するがカノープスには手痛い返しを浴びせられ押し黙ってしまう。

 当のポラリスはどこ吹く風。ミモザとクルーシェも今更カノープスの態度を咎めようとはしない。

 寧ろカノープスの在り方こそがポラリスにとって望ましい姿だからだ。


「雑談なら後にしてくれ。今は時間が無いんだ」


 クルーシェの鶴の一声で薄ら笑いを浮かべていたカノープスも苛立ちを顔に出していたエルナトも傾注する。


「現在このセントラルに特異点が徐々に接近しつつある。観測、偵察、迎撃は既に行ったが全て失敗に終わった。よって、当該特異点はソルジャーを直接投入による解決と決定した」

「クルーシェ所長、1つよろしいですか?」

「なんじゃアヴィオール。言うてみよ」

「はい。つまり、何も分からないから突入して何とかしてこい…と言うことですね?」

「随分と乱暴な意訳じゃが、まさにその通りじゃ」


 既に話を知っていたアクルクスとミモザは既に覚悟を決めているようだがスピカやエルナトには動揺が走った。


「ついでに言うとドローン迎撃部隊を突入させたが領域に侵入と同時に全て撃破された」

「おっそろし」


 アクルクス捕捉にカノープスは何処か他人事のようにぼやく。

 だが端的な一言が全てを表していた。

 何が、かは分からないが間違いなく脅威がそこに存在する上接近しているのだ。セントラルと接触した時にはそんな事が起こり得るか、想像には難くない。


「なら、戦うしかないな」


 七人を代表してポラリスはそう答える。そう、守るためには放置はできない。逃げることも避けることも出来ないのだ。


「だからこその万が一を防ぐ為に万全を期すと言うのね」

 

 スピカは腑に落ちたと言わんばかりに頷く。しかし納得できたのはスピカだけのようだ。


「だったらアンタが行けばいいだろ。一番強いのアンタだろ」

 

 カノープスが指で示したのは他でもない、クルーシェだった。筆頭のその評価にエルナトとアヴィオールは同意するとばかりに頷いたが長らく薫陶を受け続けていたアクルクスとミモザはクルーシェの実力をよくわかっているが頷きはしなかった。

 それどころかアクルクスは口角を僅かに上げて代わりに答えた。


「確かに一番強いことは疑う余地もない」

「そう謙遜することもなかろう」

「だが領域は既にセントラルに接近しており、戦力を出し惜しみしている余裕はない。その上留守を守るのはリゲル、ニビル、アトリア、プロキオン、ミリオのひよっこたちとかろうじて現役のフェンリルぐらいだ。統率できるのは所長ただ一人だ。まあ、少々耄碌しているようだがな」

「オイ」


 クルーシェに茶々を入れられながらも答えたアクルクスの考えにカノープスは納得したようだ。


「違いない」

「それに、もうお主の方が強いだろう」

「確かに耄碌もしている」


 カノープスとアクルクスは揃って笑う。部下たちの余りな失礼な物言いをクルーシェは目を伏せ、目の端をぴくぴくと震わせながらなんとか耐える。

 カノープスもアクルクスもクルーシェが最も強いということを認めており、恃みにしているしていることが分かっているからだ。


「覚えておれよ、お主たち」

「所長、そろそろ話を進めましょう」


 ミモザによって話が引き戻されたことでクルーシェもアクルクスもカノープスも真剣な表情に戻る。


「さて、閑話休題だ。お前たちは機動戦艦アールヴリードで領域に突入する。そして今作戦では全員にギアデバイスを使用して作戦に当たってもらう。各々習熟訓練を済んでいるな?」

「無論」

「勿論です」

「はい」

「ええ」

 

 七人のそれぞれの反応を見てクルーシェは満足そうに頷く。


「ならば良し。アールヴリードの出撃準備が完了するのは明日。出撃は明日の正午だ。それまで各々出撃準備を整えておくように。以上、解散とする」




 解散後、観測室に残ったのはクルーシェ、トレミー、ポラリス、スピカの四人だけだった。

 ポラリスのギアデバイスは常に出撃準備が整っており、スピカも同様に普段から非常事態に備えていつでも出撃できるように準備をしていたためだ。

 その他観測室の人員も極限まで休ませるために今はトレミー一人が残っていた。幸い今は外部に派遣している部隊は皆無であり、シーカー達の定時連絡の確認と緊急時の招集をかけるために一人残ったのだ。

 そしてクルーシェはただ一人、最後まで一人で解析を続けていた。


「ギアデバイスの使い勝手はどう?」


 トレミーは気さくにポラリスとスピカに話を振る。トレミーはポラリスの母親の無二の親友であり、ポラリスの事実上の後見人だ。立場と性格上取っ付きづらいポラリスを良く気にかけているのだ。


「通信機能については現場に出ない事には分からないな。ウェポンギアについても同様だ。だがグラフトボディは非常に便利だ。回復系術式が効果的なのも継戦能力を大きく引き上げるだろう」

「そうね。デバイスの回路も使って術式を保存したり複製したりするのが容易になったのも大きいわ。カノープスやミモザの様に単純な術式しか使わないのであれば余り実感は得られないだろうけれど、複雑な術式を多用するアクルクスやアヴィオールならこれまで以上に色んな事が出来るようになると思う」


 ポラリスもスピカも共に掌の上でキューブ状のギアデバイスを浮遊させる。浮遊機能はデフォルトで搭載されている機能の一つだ。容量はそこまで食わないのに便利な機能だ。

 随分と慣れてきたようだがトレミーは二人の論理的な評価は余り求めていなかったようだ。


「うーん。私の聞き方が悪かったかな。もっと感覚的な感想を聞いてみたかったんだ」

「それは、難しいな。私は殆ど融合素(フューズ)を身体の外で作用させてしまうから、グラフトボディの恩恵を感じにくいの。登録しているウェポンギアも、ワンドだから使い勝手はプラネッタと余り変わらないからね」

「自分の生身に由来する能力の大半が使えなくなって分はたとえ使うことが少なくても不便だ。これから容量が増えれば話は変わるだろうが」

「そうか。そうね、まだ語れるほど大した出来では無いものね。ありがとう、参考になったわ」

「グラフトボディがあるだけ十分じゃろう。のう、ポラリスや。お主も早くにこれがあればと思ったことはないのかや?」


 クルーシェに意地悪な聞き方をされたがポラリスは真剣に思案する。

 ポラリスは皮肉程度で波風一つ起こりさえしないおおらかさが持ち味だ。無頓着とも言うが。


「確かに有用な場面はいくらでもある。だがそれは今ある(えにし)が全て断ち切れる事と同義だ。まず初めに、スピカには出会えなかっただろう。それは、寧ろ損をしているだろう」

「そうじゃの。逞しくなられたな、帝や」

「…やはり耄碌しているな。何かを得るという事は何を代わりに失うのは原則だぞ」


 余り言葉数の多くはないポラリスにまで言われてしまい、思わずトレミーは吹き出してしまう。

 その隣でスピカは熱い視線をポラリスに向けているのであった。

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