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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
星夜の魔女 編
122/123

幾星霜紡ぐ詩

 星の歌姫、ムジカのオービタルライブツアーから数ヶ月。

 ポラリスが長旅から帰還して天帝府はまた少し騒がしくなった。


「〜♪」

「おうい、暇だ!立ち会え!」

「ポラリス!遠駆けしないか!?」

「しない」


 静かに電子書籍を読み進めるポラリスに右からもたれかかり歌い続けるムジカ、左手を引っ張るユーリ、そして背後から抱きつくオロチとポラリスは三方から囲まれる。


「私もいいかしら?」


 ポラリスが答える前にスピカが正面からポラリスの膝の上に乗る。

 四方を固められてポラリスは完全に身動きが取れなくなる。


「あの…フリート…俺はどうしたら」

「ご自分で招いた災禍。ご自分で対処するしかないでしょうな」


 フリートは自分で紅茶を淹れて自分で飲む。とても窮に瀕する主を前にした姿には見えないだろう。




「オラァ!」

「あぶね」


 振るわれる大斧を間一髪で躱しつつカノープスは槍をぐるぐると回して威圧しつつ迫り、神速の突きを繰り出す。

 

「甘いわ!」


 右足で蹴り飛ばされ、槍先があらぬ方向へと向いていってしまう。しかしカノープスはそのまま踏み込んで右手を槍から離して斧の柄を掴み、力任せに持ち上げる。

 得物を持っていかれまいとそのまま掴んでいたためにカノープスに体ごと持ち上げられ、そのまま投げ飛ばされる。


「そうらこれで終いだ!」


 カノープスは槍を投擲し、見事命中させる。

 勝者はカノープスだ。


「まだまだだな、エルナト」


 試合が終わり、互いの得物が消えた。

 槍で貫かれたエルナトにもダメージは残っていない。


「チッ!また負けか!」


 エルナトは感情に任せて拳を床に叩きつける。

 彼が荒れる姿を外から観戦していたアヴィオールが冷静に分析する。

 

「だんだんとカノープスに動きが対応されています。このままではもっと差は開くばかりでしょう。もうやめた方がいいんじゃないですか?」

「ほら、アヴィオールもこう言っているぞ」


 後輩のアヴィオールにまで諫められてエルナトは尚更逆上する。


「認めるものか!」

「いや流石にもう認めろよ。もう15戦ぐらい勝ててないだろ」


 カノープスはもう店じまいとばかりにギアデバイスをオフにしてグラフトボディを解体して生身に戻る。

 ソルジャーにだけ、つい先日配布されたばかりの新型ギアデバイスは従来使われていた機能を1~2個入れるのがせいぜいだった旧式とは異なり基本機能としてグラフトボディ、通信・情報端末機能、観測機能が搭載されたうえで空いていている容量にさらにウェポンギアやガシェットギアを登録することが出来るギャラクシー時代に使われていた水準に容量以外は近づけた傑作だ。

 しかし現状の容量では武装は大きめの物であれば一つ、単純な武装でも性能を上げれば後は小物を入れるのがせいぜいぐらいのほどでしかない。

 訓練で様々なウェポンギアを試すにもいちいち中身を入れ替えなければならない程だ。

 カノープスはギアターミナルにデバイスを置いて今まさに使っていたウェポンギアを取り外した。


「あれ?外しちゃうんですか?」

「ああ。槍は対人戦だと使いづらいからな」

「プラネッタはランスなのに…」


 横からターミナルの画面をのぞき込んできたアヴィオールはカノープスの試したウェポンギアの履歴を見ながら共に思案する。


「あれは一撃がデカいけど人間相手だと当てにくいんだよな。正直一番使いやすかったのはこれだわ」


 カノープスが選択したのは大剣型のギアブレードだった。破壊力だけを極めたような大型のブレードをエルナトとの試合時にはなんと三本出力して全て遠隔操作することでエルナトに手も足も出させずに叩きのめした。

 遠隔操作の補助システムや複数同時出力システムは導入までまだ時間がかかるためカノープスは設計図を見て自力で出力することで同時出力を実現し、遠隔操作も極めて高い空間認識能力をフルに活用して全て融合素(フューズ)で操作している。

 ギアブレードが自律しているわけでは無いので経路(パス)が一度切られてしまうとすぐに機能が停止してしまう弱点はあるもののカノープス自身も動き回り、積極的に立ち回ることで破壊力は抜群に発揮されるのだ。

 

「しゃあねぇ。まだやるか?エルナト」

「無論だ!」


 カノープスは慣らしの為エルナトとの試合に興じ、その様子をアヴィオールが観戦していた。




 イ・ラプセル天文台観測室。

 広々として幾つものコンソールが並ぶ中使用されているのは片手で数えられるほどしかない。

 そもそも今詰めているオペレーターは一人しかいなかった。


「ドローン部隊、突入します」


 今観測室に入っている唯一のオペレーターであるガニメデが大型モニターにドローンのカメラを表示する。

 それを天文台所長のクルーシェ、観測室長のトレミー、そして親衛隊のアクルクスとミモザが見つめていた。


「さあて、どうなるかしら」


 何処か浮足立っているミモザは微笑みながら様子を見守る。

 しかし、彼女が予想する結末は楽しそうな顔には見合わない。

 同じ予想をしているアクルクスが苦虫を噛みつぶしたような顔をしているのがその証左だ。


「頼むから外れてくれ。むしろ大穴であってくれ」

「お主、博打はわざわざ大穴にオールインして残当に散りそうじゃのう…」


 果たしてアクルクスの博打は当たるのか否か、結果は無慈悲な程冷静にガニメデより告げられる。


「全機、撃墜されました」

「普通に大本命だったわね」

「あ”あ”あ”あ”あ”!と”う”し”て”た”よ”う”ーーーーーーーーー!」


 アクルクスの慟哭は無視してトレミーは冷静に判断を下す。


「脅威度の評価を改定する。現状最大脅威と認定する」

「そうかい。やはり打つ手は一つしかないね」


 トレミーの評価を受けてクルーシェは嘆息してから渋々とばかりに逡巡しながら招集の為のメッセージを送信する。

 送信したのは五通。この場に既に揃っているアクルクスとミモザを含めた七人。それがセントラルの激動の内戦を生き抜いた歴戦のソルジャー達だ。

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