追憶の残滓
「駄目だ、船が足りない」
ドンっと音が鳴るほど強く拳を壁へと打ち付ける。重エーテル構造体の壁がへこむほどの衝撃に周囲の人たちが驚き、不安になり、怯える。
「やめなさい。みんなが怖がってる」
「すまない。つい…」
青髪の少女に諫められて気を落とすのは同じぐらいの長髪の、少年。
キリエ・オルタナ・アクエス。当世の第二席のグランクラスソルジャーである。
「傍受した通信によるとケイオスは出せる船を全部供出してくれるそうだぞ。物流も全て止めて、もちろん軍艦もだ。空母は全部出すらしい」
「駄目です、間に合いません。ちくしょう、エクソダスの連中が余計なことをしなければ…、いや初めから全てか?」
「まてまて、そんな思いつめるな。まだ出来ることはあるはずだ」
キリエは青髪の少女に肩に手を置かれ、力強く励まされて、それでもキリエは思いつめる。
サイレンが、鳴り響く。
弾く様に二人は走り出した。
地下道路を駆け抜けて、ゲートの前で急ブレーキ。
ゆっくりと開いていく隔壁の向こうから光が漏れる。
「行くよ、キリエ」
「ああ。みんなを守るんだ!」
キリエは双剣を抜き放ち、滅び往く街へ飛び出していく。
それでも世界は救えないと知りながら。