蒼穹の三騎士
それぞれマギウスの幹部たちを撃破したケレス、ハルト、ルスカはアサイラムが消滅していく中、最後の最後に再び集結していた。
「さて、帰るにはこいつらが邪魔だな」
「テレポートの邪魔をされると空間事故に巻き込まれかねないからね」
ルスカとハルトも二人揃ってマギウスを苦労しながら倒した割には余裕があるようだ。どうも元から余力を残すつもりで戦っていたようだ。
ほぼ一対一で戦うことが出来たルスカと、元々ソルジャー達の中でもトップクラスにタフなハルトに比べてムーンストルムと化した大量のヴィクター兵に囲まれたケレスはかなり消耗が激しい。連戦の疲労もあって万全の状態とは程遠く、制御の難しい重力視線はもう封印するつもりなのか伊達メガネをかけなおしている。
隣でそんな苦労を取り繕う同僚を見てルスカは放っておくことが出来ない性分であった。
「付与魔法・プラズマオニキス」
ノールックでケレスのブレードに魔装銃から魔法を照射して強化系魔法の一つ、付与魔法を使ってケレスにバフをかける。
ケレスの手からバチバチとスパークが走り、ブレードを覆っていく。
「恩に着る」
「なあに、最大効率で行こうぜ。前衛は任せた」
「よし、俺とケレスで前に出よう。ルスカ、援護は任せたよ」
ハルトは竜装を纏って自分で強化する。竜の力は非常に強力であり、ありとあらゆる災いから身を守るがデバフの効きが悪い代わりにバフの効きが悪いのだ。
しかし、ルスカの援護は何もバフとデバフには限らない。
「じゃ、俺は水魔法をメインに使うかな」
そう言いながら空気中の水分をかき集めて巨大な水滴を空中に作り出す。目に見えない大きさの水を片っ端からかき集めることで一瞬にして空気が乾燥していく。
炎をメインに使うハルトにとって、乾燥した気候は最も得意とする気候条件だ。
ルスカは魔法科学を用いて、ハルトを支援する。
二人は背中をルスカに任せ、正面に集中できるのだ。
「さあ行くぞ!」
ルスカのその号令でケレスとハルトが共に飛ぶ。
ケレスは身の丈よりも遥かに長い大剣を片手で軽々と振る。ルスカのエンチャントの効果もあり、斬撃が拡張されてより広範囲のを叩き斬る。
その大振りの隙を埋めるようにハルトが竜炎を花火の様に撃ち出しては次々と炸裂させる。
二人の脇はルスカが魔法で空気中から取り出した大量の水を超高圧で放水して煙やら爆煙やら残像やらを切り裂いて妨害する。
ムーンストルム達の前衛が一瞬にして瓦解していく。
「ルスカ!やるぞ!」
「オーケー!合わせてやるから存分に行け!」
ハルトは翼と剣から炎を放出して敵陣に単身飛び込んでいく。
ルスカがその後ろから水を魔法で分解した水素と酸素を風属性に転化したエーテル流でハルトを背中から押す。ハルトの炎の熱で再結合し、副次的に爆発的な燃焼が発生する。
「ハイドロ・トレイン!」
敵陣中央を強引に突破して多くのムーンストルムを巻き込んで吹き飛ばす。
「ハルト!次は俺に合わせろ!」
「りょーかい!行くぜ!」
ケレスとハルトは二人ともリソース量には自信がある方だ。大量のリソースを多少無駄にするのも気にもせず融合素からエーテルから何からをケレスは左手から、ハルトは右手から放出して敵陣の上で合流して掌を合わせる。
「キロノヴァ!」
二人のリソースが融合して昇華する。全てを消し飛ばす、極大の大爆発が発生する。
ケレスとハルトはなんとかアドリブでお互いにレジストするが周囲の近いムーンストルムは一瞬にして消し飛んだ。
「あっぶねぇ!」
それなりに距離を取っていたルスカは空間魔法で身を隠して凌ぐ。純粋にエネルギーを放出しただけなので空間の陰に隠れるだけで逃れられてしまうのだ。
とは言え元々の本家のキロノヴァに比べて大幅にスケールダウンしている。ムーンストルムを全滅させるには至らなかった。
「ケレス、行け!」
ケレスはコラップスの力を解き放つ。全てを劣化、崩壊させる暗黒の瘴気を放出して広げていく。
余りにも隙だらけだがルスカがムーンストルムを撃ち落として護衛する。
その瘴気をルスカが吹かせる乱気流がより効果的にムーンストルムに絡みついていく。瘴気は煙を追い立ててマギウスの力を致命的に奪っていく。
「冥域」
ムーンストルム達が空へと手を伸ばすことすら出来ずに地に這いつくばってのたうち回る。
人であることをやめてもなお、人には勝てずに絶望する。
だがケレスもルスカもハルトも容赦は無い。更に追撃を加えるべく上空に三人で集まる。
ケレスはフューズを、ハルトはエーテルを、ルスカはマナをそれぞれ放出して混ぜ合わせていく。
異なる世界のレイヤーに存在するエネルギーを均等に合わせて落下するように放つ。
「三刻砲!」
文字通りの破壊の渦が、大地から、命に至るまで全てを破壊し尽くす。
もう、蒼穹に浮かぶ三騎士を呼び止める者はいなかった。
「さあ、帰るぞ」
ケレスがそう号するとルスカがテレポート用のビーコンを起動する。
高速艦にて転移装置側をコントロールしているウェンデリンがルスカのビーコンを捕捉し、近くにいる三人を転移させる。
今、アサイラムに残っているのは二人だけになった。