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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
蒼穹の三騎士  編
114/123

命の輝き

 視界を覆う白、白、白。

 羽根がポラリスの視界を覆い潰す。羽根に押しつぶされてブレードが手から離れていく。

 全身を包む様に、始めは真綿のような優しさであったがすぐに過剰過ぎる圧力がただの痛みへと変えていく。

 頭をよぎる敗北。しかしポラリスはそれでも諦めてはいけない理由を思い出す。


『約束…ちゃんと、果たしてね』


 その一言を胸に秘め、心の底から全力で燃え上がらせる。

 グラフトボディの至る所から燃え始める。融合素(フューズ)が次から次へと昇華してはエネルギーを放つ。

 羽根が押しつぶそうと煌焔(フレア)を押し返そうとするが一瞬にして膨れ上がる煌焔が勝った。

 空気ごと強引に押し出したことで衝撃波が発生し、轟音が響く。そして空を染め上げる極光がユークリッドにはまだポラリスを抑えきれなかったことを示していた。

 集合したばかりの三人の騎士の頭上を、浮遊する地面に取り残されたヴィクター兵の視界を、そして外から観測する者たちの記録を光が埋め尽くす。

 

『この絶滅天使(メタトロン)から逃げられると思うな!』

「…」


 ポラリスは脳内に直接話しかけられても眉一つ動かさずに全身から煌焔を放ち続ける。煌焔の火力の前には絶滅天使の羽根も増える傍から燃えている。

 まだ、ポラリスの方が優位だろう。しかし、あまり時間をかけてはいられない。時間の制約に縛られることはポラリスとしては不本意だが今はそれ以上に時間が惜しかった。


「力を、借りるぞナディア」


 ポラリスは約束の剣を出力すると同時に白い新たな星装を纏う。どちらかというとドレスに似た姿。裾が広がり、羽衣が虹のようにかかる。女神の力をその身に宿してポラリスはさらに煌焔を放出する。

 約束の剣のブレードを発振して軽く、撫でるように正面を斬る。

 世界が、割れた。絶滅天使(メタトロン)も、境界も、世界の果てさえも一度は断絶する。

 ユークリッドは何とか回避できたがどれだけ翼を増やそうともポラリスの一撃から逃れることは出来ないという現実に明らかに動揺する。

 だがユークリッドはこの程度で日和る男ではなかった。

 即座に翼を生やしては再び球体状に成形していく。そしてその質量を増やしてポラリスを押しつぶすために落下していく。


『潰れろ!』


 ポラリスは左手を空に翳し、そのまま空に掌を広げて翼の星を受け止める。あまりにも超大量の融合素を集め、その上その全てを制御し切っている。その莫大なエネルギーが融合素を視認できないはずのユークリッドにもはっきりと認識できるほど発光する。

 そしてそのまま手を押すジェスチャーに合わせて融合素がユークリッドの巨体を押し返していく。

 そしてある程度の距離を取ったかと思えば約束の剣を両手で握って大上段から振り下ろす。

 融合素を昇華しながら斬撃が飛んでいきユークリッドの右半分を抉り斬る。

 プラネッタの空間切断とは違う、ポラリスの自力の幅の広い斬撃。

 しかしユークリッドはすぐに羽根を増やして元の球体に戻っていく。力押しではポラリスに手も足も出ないと分かればすぐに別の手を打つ。

 大量の羽根をばら撒いてはそのままぶつけるのではなく空中でいくつかの羽根を集めてまとめて巨大な剣や砲身を創り出していく。

 ポラリスはすぐに警戒して片っ端から煌焔斬撃で破壊するが絶滅天使(メタトロン)をジェネシスで底上げした出力で動かすことで壊される以上のペースで作り出していく。


「(処理しきれない)」


 一つ一つは問題なく処理できるがもし食らえばダメージは無視できない。

 ポラリスは囲まれる前に跳躍、空中に浮かぶ別のビルの壁面に吸着してからそのまま滑走してユークリッドの背後へと回り込む。

 形成した剣が完成するやいなや次々とポラリスを追いかけて飛ぶ。

 大砲は狙いすら定まらずに次々連射してポラリスに近づいた時点で炸裂して少しでも負担を増やそうとしてくる。

 ポラリスは機動戦に入ることで羽根に()()()()一直線に並べて一撃で粉砕する。

 一度在庫を消し飛ばしてから一直線にユークリッドに肉薄、約束の剣を煌焔で燃やして斬りつける。


純化・過剰剣気イノセント・オーバーブレイド!」


 一撃目はかなり抉ったがユークリッドがすぐに逃げたため二撃目は盛大に空振りした。

 ユークリッドは逃げながらビームを無数に放ち、僅かでも足止めとダメージ稼ぎをする。

 このダメージだけなら安いと見たポラリスはそのまま弾幕をバリアで押しきり今度は追撃する。

 

煌焔弾(フレア・バレット)!」


 煌焔の弾丸を乱れ撃ち、ユークリッドの砲口をいくらか潰し、弾同士相殺もして状況を五分に持ち込む。

 これでは不利と見たかユークリッドは中心の巨大な瞳に煙を収束してエネルギーへと転換する。

 極太のビームを放つ。

 ポラリスが咄嗟に回避したはいいが数がそろっていた砲撃が周囲から飛んで来て幾らか食らう。

 更に追撃とばかりに剣が襲いかかってくる。

 約束の剣で全てを斬って捨てる頃にはユークリッドは再装填を終えて再び極太のビームを放った。ポラリスは回避が間に合わず、咄嗟にシールドバリアを展開してなんとか防ぎ切る。

 手数を展開したユークリッドが少しづつ優勢に立ち回りつつある。だがポラリスに焦りはなかった。寧ろまだ余裕すらあった。

 その様子にユークリッドは戦慄せざるを得なかった。いまだその強さの底を見せず全て対応されている。このままでは時期に手札を使い尽くして叩き潰されるだろう。

 今、持っている札だけで、確実に倒さなくてはならない。出来なければ後顧の憂いが残り続けることになる。

 ユークリッドも覚悟を決めた。


『お前を、ここで倒す!』


 ユークリッドは巨大な単眼をポラリスへと向ける。ユークリッドはマギウス達の中でも人一倍手札が多いがその大半はポラリスに届かずに燃え尽きる程度のものだ。

 唯一ポラリスに通用するのは巨大な単眼から放つ光線だけ。

 全てはトドメの為の布石にしか出来ない。

 ユークリッドはまず羽根を大量に放出する。ポラリスの煌焔に幾ら燃やされそうともそれでも飽和する量の羽根を生成する。ジェネシスの出力の大半を振り分けて、かなり限界近くまで振り絞ってなんとか必要な量を用意する。

 

「(何か始めようとしているな…?)」


 ポラリスはこの時点で既にユークリッドの仕込みには気が付いていた。しかしその仕込みがどのような大技に繋がるのかはとんと見当がつかず、とりあえず煌焔で羽根をいくらか燃やして妨害することだけしか出来なかった。

 視界を埋め尽くす程の白い羽根。ポラリスは一度距離を取って外側からその様子を観察する。

 空間を断裂する斬撃でユークリッド本体を狙うも彼の座標を捉えられない今当てずっぽうでしか狙えない。


「(防御を固めたほうがいいか?それとも正面から打ち破るか?)」


 ポラリスは少しだけ悩んで、それから後者を選択した。

 最低限のバリアを固めつつ頭上に大量の融合素(フューズ)を集めていく。ナディアの星装の力で作用量が増強されている今、そのチャージスピードは極めて早められている。そして今求められている火力はそこまでではなく、数秒で必要なチャージを完了して先手を取って放つ。


純化・過剰覇道イノセント・オーバーロード


 極限まで純度を高められた融合素が一斉に昇華し、約束の剣の剣閃に導かれて一直線に照射される。

 全てのエネルギーを支配下に置いたことで完全に指向性を持った破壊の奔流は一直線にユークリッドに襲い掛かる。

 

『負けてなるものか!絶滅天使(メタトロン)破壊光線(デストロイレイ)!』


 ユークリッドはギリギリでチャージが完了した極光の一撃を放って対抗する。ポラリスはほとんど自力の一撃なのに対し、ユークリッドはマギウスの力とジェネシスという遺物(レリック)の力を利用して対抗する。

 二人の狙いは正確だった。故に正面から衝突した。

 力と力のぶつかり、2つの力が激突して弾けた。 

 衝突点を中心に莫大なエネルギーが行き場を失って暴れ狂い、外へと逃げ出していく。

 爆発を伴ってエネルギーが消費され、周囲に浮かんでいたビルや大地も全て消し去っていた。

 ポラリスはナディアの星装こそ失ったものの五体満足で対したダメージは無いがリソースはかなり消費した。星装も自前のものを再び装着した事で一応継戦能力は維持している。

 一方ユークリッドは絶滅天使(メタトロン)の力を殆ど失ってしまい、羽根は僅かしか残っていなかったがジェネシスのリチャージが済んでおり、機械の装甲を再展開することができた。

 しかしマギウスの力を使い尽くしてしまった為にポラリスが広げる融合素にはもう抵抗できない。

 それでもブレードを発振する。

 強がりでも、ユークリッドは凄絶に笑う。


「さぁ、ラストラウンドがまだ残ってるぜ」

「…無意味だと言うのに」


 ポラリスも受けて立つと言わんばかりに約束の剣を破棄してエーテルブレードを出力する。

 二人とも武器はブレード一本。神秘の果てと、(かつ)ての機械のどちらか強いのか、二人の剣士が剣を合わせた。

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