表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
蒼穹の三騎士  編
108/123

グランのクラス

 ポラリスとユークリッドが一対一で向かい合い、スピカ達が撤退し、ルスカとハルトがそれぞれマギウスを一人ずつ相手している今現在。

 敵の残る戦力の全てをケレスは一人で相手をしていた。


「やってくれたな」


 怒髪天を衝く勢いで怒りを見せるゾルレン。

 憎悪を滾らせ命を投げ捨ててでもケレスに一矢報いようとするヴィクター兵達。

 彼らのヘイトを一身に集めたのは、ケレスが彼らが乗って帰るはずの揚陸艇を全て一斉に爆破してしまったからだ。

 ケレス達は既にいつでも帰れるのに、ヴィクターはもうこの世界が終焉を迎えるまで脱出することは叶わないのだ。

 その事実は只人にとって信じられない、そして一番の絶望だった。

 そして、その感情の行き場が全てケレスに収束しているのだ。

 ケレスはハルトがマギウス達を引き付け、ルスカがホシガミを使い潰してヴィクターを引き込んだことで生まれた間隙にケレスは揚陸艇に細工を施し、この場で全て一斉に起動したのだ。

 大小合わせて20隻以上投入したにもかかわらず、もう一隻たりとも動かせられない。ケレスがついでとばかりに燃料も空にしているのでかき集めたところで一隻動かすのが関の山だろう。

 ケレスはポラリスの邪魔をさせないために、一人で全てを背負ったのだ。

 そしてケレスは剣の切っ先をマギウス達の長、ゾルレンへと向ける。


「来るなら、来い」

「総員、撃て」


 ゾルレンの号令で一斉に斉射が始まる。ヴィクター兵には少なくとも一人一丁がアサルトライフルが支給されている。さらに何処かで壊された歩行戦闘機(ウォーカー)から取り外してきたのか大型キャノンが数門揃ってケレスへ狙いを定めて容赦なく発射した。

 しかし、ケレスはシールドギアで空間ごと守り抜く。

 やがて最初の弾をあらかた撃ち尽くしてゾルレンは戦果を確認するために攻撃を止めさせる。

 硝煙と土煙の中から現れたケレスは当然の様に傷一つ無かった。


「こんなものか」


 ケレスはマギウスの煙を警戒して慣れ親しんでいるフューズではなくエーテルで、そしてギアを介してシールドバリアを、展開したのだ。

 フューズより遥かに効率が下がるがそれでも彼の防御力は圧倒的だった。


「なら少しは働かないとな」


 ケレスの剣が凪いだ。そしてその瞳で次々とヴィクター兵達を潰し、抉り、千切る。

 そして剣を一度空に浮かべてから雷撃を叩きつけていった。

 それでもヴィクター兵たちは死さえ恐れずにケレスに襲いかかってくる。

 ケレスは彼らを適切に排除していく。

 瞳だけではない、ケレスにとって最大の武器は何を隠そうセントラル最高峰とも呼ばれる剣士なのだ。

 そしてそんな彼が自由にフューズを使わせない為にゾルレンは煙を纏い食らいつく。

 彼も銃砲では埒が明かないとバリアを破るために近接戦を仕掛けてきたのだ。

 ゾルレンが張り付いている限りフューズを外部に作用させられない。多少非効率でもエーテルで身を守るのが安全だった。

 ケレスは雑兵の処理を煩わしく思うとすぐにフェイルスパークを周囲に放って一網打尽にし、そのまま正面のゾルレンにブレードの切っ先を向け、突きを繰り出すフェイントを仕掛けつつ回避されることを前提に刃を受け太刀するかのように引き込む。

 果たしてゾルレンはケレスの読み通りに突きを回避しつつ反撃をしてきたがケレスは受け流して本命の袈裟切りで深い傷を負わせる。

 更に斬り上げて逆にも袈裟切りにして腕も斬り落とし身体も斜めの十字傷が入る。

 ケレスの剣速にゾルレンは全く追いつかず、剣を引き戻している間にケレスから三太刀も浴びてしまった。

 これは不味いと見て体を再生させる為に数歩下がり、ヴィクター兵たちに撃たせてケレスの足を止めさせる。

 しかしケレスは銃弾の雨あられの中にも関わらずそのまま追撃に入る。流れるように四太刀を食らい、もう既に傷の再生は全く追いついていなかった。

 ゾルレンは2度だけ受太刀に成功し、そして6回も失敗して7度は先ず追いつかなかった。

 人の身では前に進めない。

 決断したのなら、ゾルレンはもう間に合わない。

 ドクンと心臓の拍動につられて身体が動き出す。

 より濃い煙がゾルレンの姿を変質させていく。しかし、人間の輪郭は最後まで手放さなかった。

 ゾルレンのムーンストルム形態は、少しだけ大きくなっただけの人間。肉体と一体化した鎧、細く伸びて湾曲した刀。

 そしてより濃い、煙を立ち込めていく。

 マギウス達を取りまとめる組織、バベルの長官。そして始まりのマギウス。

 

「参る」

「来い!」


 大上段から刀を振り下ろす。ただそれだけではあるがスピードが段違いに速い。ケレスが受太刀をしてカウンターが出来ないほどには速くなっている。

 そしてまだゾルレンのターンは始まったばかりであった。

 左から右への大振りな一撃。流石のケレスも体勢を崩されで瓦礫の山へと転んでしまったらしい。

 だが傷はないようで、衝撃も殆どのにしていないかのようだった。

 

「わざわざ後ろに飛んで受け流さなくても良かったな」


 ケレスはブレードを握りなおし、僅かに、しかしゆっくりと目を瞑る。彼にとって最大の武器の感覚をリセットして気持ちを切り替える。

 本来ケレスの実力からすれば例えムーンストルム形態に変身したとしてもゾルレンなど歯牙にもかけない強さがあるのだ。ならば消極的に動く理由など無いはずだ。

 グランクラスソルジャー、それは時代を創る力を持つ特別なソルジャーに与えられる特権の中の特権を持つ称号である。ケレスはその中でも筆頭の地位にある。それは世界に名だたる英雄の一人であるということだ。

 ケレスは瞼を開ける。金髪が風に揺れ、漆黒の瞳は静かに戦場を見下ろした。

 見れば見る程、苦戦する理由など見当たらない。

 ケレスは軽い足取りで助走して大きく跳躍する。

 空中で無防備な姿を晒せば当然銃撃のいい的だがケレスは空中で僅かに自身の周囲だけフューズで力場を作り出して銃弾を逸らしていく。

 そしてそのままゾルレンの前に着地した。


「戻って来るとはな、自信を無くしてしまう」

「そんな過信など初めから無い方が良いだろう」


 ケレスは軽口に一言だけ付き合って、自ら仕掛ける。右からすくい上げるように斬り上げるセントラルでよく見られる様子見の一太刀。

 しかしムーンストルムとなったゾルレンは完璧に反応して剣を反らしつつ返す刀でケレスを捉えた。

 捉えたはずのケレスが忽然と視界から消えた。

 否、ミスディレクションを起こして死角へと一瞬で移動したのだ。

 文字通りの残像だった。

 ケレスは背後から二太刀浴びせてそのままゾルレンの左腕の方へ逃れていく。果たしてゾルレンはそのまま右から後ろを向いたことでケレスを見失っていたのだ。

 ゾルレンがケレスに気付いたのは彼に左腕と脇腹にバッサリと深手を負わされてからだった。

 一歩引いて仕切り直しにするとともにヴィクターに足止めさせようとしたものの銃弾の軌道から兵士の隠れ場所を認識したケレスの視線が向けられ、時にはフェイル・スパークで手早く処理されていく。

 ヴィクターの兵士たちの命をどれだけ捧げてもケレスの足止めすらままならない。運よくケレスに近づけても一瞬で数太刀分の傷を刻まれ大抵は6つ以上に切り分けられた死体となって転がる。

 浮遊するわけでも、滑走するわけでもなく、ただ駆けて近づいてい来るケレスは他のソルジャー達に比べて圧倒的な恐怖というわけではない。しかし、彼を攻略するとなると格別の強さであることを思い知らされるのだ。


「ここで退いても、もうどこにも逃げられないなら!」


 ゾルレンは逃げることをやめ、最後の勇気を振り絞ってケレスと向き合う。

 これまでの40年と少しの人生、ただ星を砕く事だけを考えて生きてきた。ヴィクターの兵士として数多の戦場を駆け抜け、そしてマギウスとなってバベルという対星の子の専門部隊を創設して戦い続けてきた。

 しかし自身の半分ほどしか生きていない若造にここまで恐怖し怯えるとは自身でも想像もしていなかった。

 自信は打ち砕かれ既に定まった敗北の烙印も今はどうでもよくなっていた。

 せめて、これ以上自分を嫌いにならないように、恥じぬ戦いを。

 それだけを胸に秘め、そして渾身の一太刀は全速力で突っ込んでくるケレスを迎撃し、あっさりと受けられた上で帰しの一太刀で胸部を両断された。

 

「届かないのか…」

「地を這う蛆が、天に瞬く星々に手が届くなど、考えることも烏滸がましい。まだ人であったのなら、その足で同じ舞台を踏みしめることも叶ったのかもしれないがな」


 ゾルレンが受けたダメージは並みのマギウスなら致命傷だった。ケレスは警戒を解いたわけではないが、それでも追撃をしようとは考えていなかった。

 だがゾルレンはまだ死ぬような様子がない。

 トドメを刺すためにケレスが踵を返したとき、足元にヒビが入る。空間の崩壊が伝播してきているのだ。

 

「見逃しはしない!」


 崩落していくゾルレン、隆起し浮き上がるケレス、上下に離れたことで塞がれた視界。そしてフューズが煙に遮られていることでケレスの認識の外へと離れてしまった。

 その一瞬の隙に生き残ったヴィクター兵たちがゾルレンを抱えて逃げる。

 追いかけてくるケレスを自爆攻撃してでも足止めにかかる。


「(不味い!命の使い方に気が付いた!仮説が本当なら…!)」


 ケレスは始めて僅かとはいえ焦りを見せる。




「済まない…奴らの強さを見誤っていた…」

「ゾルレン特佐、我々はまだ負けてはおりません!」

「しかし、どれだけ頭数を揃えようともあの怪物には届かん」


 ゾルレンを抱えて走る兵士たちは歴戦の下士官達。戦場では本来誰にも教えられることのない事を、不意に知る機会は一度は訪れるものだ。

 彼らは、マギウスという特別な存在についてある程度の知識があった。

 その、強さとリスクについて、全員の知識を合わせればこの状況を打開するには十分だった。


「ゾルレン特佐、我々はもう故郷には帰れません。しかし、せめて故郷を脅かす者を一人でも道連れにしたいのです!」




 ケレスは爆風の中を駆け抜け、クレバスの様に割れた道路を軽快に駆け抜ける。

 ただでさえゾルレンを抱えて走る以上歴戦の兵士といえど遅くなるのは当然だった。

 足止めが意味を成してない以上ケレスがすぐに追いつくのも必然だった。

 

「待て…!」


 ケレスが僅か目前まで迫ったとき、兵士は突然ゾルレンを投げ捨てた。そしてくるりと振り返り、ケレスと向き合う。

 当然、その胸にブレードが突き刺さっていく。

 ケレスは違和感を感じてすぐに飛び退る。

 その勘の冴えは見事だ。

 兵士が突然膨らみムーンストルムへと変身する。

 ブレードを手放したその手に可変式大剣を出力して即座に切り捨てる。ムーンストルムに変身したてではその巨体を上手く動かせられないのだ。

 だがケレスの目の前には次々とムーンストルムが立ちはだかる。

 

「やはりマギウスクラスタと同じ力か!」


 ケレスの周囲にいたヴィクター兵達が次々とマギウスクラスタへと変身していく。

 ケレスは一転、窮地に入り込んでしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ