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Nadia〜スターライトメモリー〜  作者: しふぞー
蒼穹の三騎士  編
105/123

切り拓く道

 オロチはただ正面に向かって走るだけだ。しかし、それだけで銃弾はまるで自ら逸れていくかのように当たらない。

 逸らしているのはヴァレリアの魔法だ。空気を呪い、風を滑らせることでオロチは疾く駆け、銃弾は勝手に逸れていく。

 近づいてしまえばオロチの独壇場だ。銃剣を構えて抵抗を試みるヴィクター兵は、盾にした銃ごと胴を斬られて絶命する。

 背後から銃剣で突き刺そうとしてもひらりと躱され返す刃が容易く返り討ちにする。

 太刀打ちできぬと分かれば逃げ出すべきだが逃げ出そうにも足が動かなかった。

 ヴァレリアの魔法、足元より這い出る腕がヴィクターの兵士達の足を掴んで離さないのだ。

 こうなれば最早兵士達は藁か葦かとばかりにオロチに次々と刈り取られていく。

 

「そこまでだ!」


 ヴァレリアの拘束を強引に引きちぎって一人の兵士が飛び上がる。

 よく見れば一般兵に紛れているもののマギウスの軍服を着て、銃ではなくただの剣を両手で握りしめている。


「まだマギウスが残っていたのか。これは楽しめそうだ!」


 オロチは思わず口角をあげ、剣を握り直し、踏み込んで迎撃する。

 ゆっくりと放物線を描いて降下するマギウスの剣を正面から受け止める。

 オロチは星の子ではない。エーテルを操作することもままならない。当然、魔法などもってのほかだ。

 星光を遠ざける煙の力で怪力を発揮するマギウス相手では分が悪い。マギウスは無理な体勢であったがそれでも力で押しきった。

 

「オロチ、何を遊んどる。さっさと片付けぬか」

「邪魔をするなヴァレリア。私の獲物だ」


 ヴァレリアがオロチを支えつつ闇魔法を放ってマギウスを遠ざける。

 黒い炎のような、雲のような魔法の砲弾を放ち、着弾したものを急速に劣化させ脆くなったところから砕けていく。

 まるで崩壊の呪いだ。マギウスは気味悪がって更に距離を取る。


「馬鹿なことを申すでない。遊興に耽ればまた(ポラリス)に折檻されるぞ。そうでなくとも時間を掛ければ天后(スピカ)殿が慈悲なき裁決を下されるであろうよ」

「…むう。致し方無いか」


 渋々、と言いたげだがオロチはヴァレリアの助力を受け入れる。


「さあて、手早く片付けるぞ」


 ヴァレリアは大鎌をくるりと一回転、オロチの背に影を下ろしていく。疲労を抑え、コンディションを引き上げる、バフを掛ける魔法。

 同じ魔法を自分にも掛ける。これだけでも身体能力の不利はかなり軽減される。

 ただ一人、ヴィクターの一般兵に混ぜられて配置されているということは一人だけでも意味がある人材だからである。

 当然、並の水準よりは強い。

 オロチとヴァレリアが同時に切り込む。二人の同時攻撃をしっかりと押し留めて剣を僅かに傾ける。

 体幹が鍛えられているオロチは踏みとどまったがヴァレリアは簡単に体勢を崩してしまった。


「だから邪魔だと!」


 オロチはキレながらヴァレリアの首根っこを掴んで放り投げ、自分もマギウスの反撃を貰わない為に大きく躱す。

 

「いいや、全ては必要から生まれ出ずもの」


 マギウスの剣が瞬く間に腐食し脆くなっていく。

 ヴァレリアはその隙に更にデバフを追加すべく背後へと回って大鎌を地面へと突き刺す。


「さあ、跪け!」


 地中を走る呪詛が足からマギウスへと登り、その()()()()()()()()()()

 すかさずオロチが袈裟切りにして体を両断。背後からヴァレリアが大鎌を振り上げ、オロチが更に刻み、最後にヴァレリアが左手を掲げ、その先に暗雲を放つ。マギウスの体を巻き込んで溢れ出した呪詛が爆発する。

 マギウスはもう、いなかった。


「「進め!」」


 それぞれの獲物で前へと指し示し、スピカを殿にしてサポーター達が駆け向けていく。ヴィクター兵は幾らか追いかけたが組織的行動ができない以上大半はスピカに一捻りされ、運良く潜り抜けてもレサトとセラスに容赦なく縊られていった。


 

 

 そして彼女達を逃がしたポラリスとケレスはマギウスのゾルレンとユークリッドの二人と対峙していた。


「厄介だな!二人とも!」


 ユークリッドは無策にも正面からの突撃する。ケレスの超重力視線に見つめられようが構わず、頑丈過ぎる装甲を頼みにして進む。

 そこへポラリスが割り込み、約束の剣を軽く振る。

 ポラリスはまるでケレスによって歪められた重力の影響を受けていないなのようだ。

 いや、実際に受けていないのだ。

 ポラリスの持つプラネッタ『ナディア』は空間を支配する力。どれだけ歪められようとも、ポラリスが元から自身の空間だけ影響を無くすことなど容易いのだ。

 そして重力の影響を受けない走行であろうとも空間ごと斬られてしまえばさすがに分かたれていく。

 空間を割る。それは絶対に逃れらぬ理そのものであり、究極の()()()

 ユークリッドは直前で異変を感じて回避したもののそれでも装甲がパックリと割れてしまっていた。

 退避したユークリッドと交代(スイッチ)してゾルレンがポラリスと剣を合わせる。ケレスが弾き返し、そのままゾルレンを押していき、不意に飛び上がる。

 ポラリスが横に大きく薙ぎ払い、回路樹は全て切り株と倒木に分かたれ、ビルは基礎だけを残して瓦礫の山へと変わっていく。

 その衝撃で大地の裂け目はさらに広がっていく。

 ポラリスが後衛になってもケレスの空間把握能力をもってすれば回避は容易い。この二人の連携は、余りにも無駄がなかった。

 ゾルレンは獲物である片刃の大剣で受け太刀しようとするが余りの威力に砕けていく。

 咄嗟に飛んで回避したはいいが上にはケレスが待ち構えていた。


「潰れろ」


 ケレスも剣にフューズを凝集してゾルレンへと叩きつける。ゾルレンは獲物が砕かれたこともあり大地へと叩きつけられ鞠のように跳ねる。

 そして復帰してきたユークリッドはポラリスが遠距離から拡張した斬撃をもろに浴びせて再び沈ませる。

 

「他愛もない。これなら私一人で事足りたか?」


 侮るような、嘲るような、そんな皮肉をケレスが口にした。

 しかし言葉とは裏腹に、ケレスの警戒はさらに引き上げられていた。


「(おかしい。ここまで温存した戦力にしては弱すぎる。何故本気を出さない?それとも出せない理由でもあるのか?)」


 確かに何度クリーンヒットを食らっても何でもないように立ち上がってきた二人は、技量こそケレスとポラリスの二人に大きく水を開けられているものの二人ともアニムスが誇る最高戦力。それを加味したうえでも心許なさすぎるのだ。

 しかしその疑念はさらなる謎を招く。


『観測完了。データベースとの照合完了。お二人と交戦しているマギウスはヴィクター特務機関バベル、長官の”風雲児”エドガー・ギル・ゾルレン。そして”白光の赤帝(アルヴ・カーディナル)”ユークリッド・ヴァーミリオンです』


 技術局解析室の室長セイファートの報告を聞いてケレスはその名前を思い出す。

 

白光の赤帝(アルヴ・カーディナル)!?最強のマギウスと名高い奴だと?不可解だ!」

「らしくないな、ケレス。考えすぎても仕方ないだろう。君は、何人にも負けない自負があるだろう?」


 見かねたポラリスがケレスを諭す。

 気持ちを入れ替えたかケレスは自己強化アーツを今の隙に使う。

 同時に戦況図を見る。レサト達はどうにか振り切れたようだ。このままなら安全に撤退出来るだろう。

 そして浮いた駒がなくなったこともありヴィクターの兵士達は都市の各地に散開していた。

 つまり邪魔するものはいない。尚更不思議だった。

 その答えは、割とすぐに分かった。


「あージェネシスがまたダウンしちまったか。こりゃ骨が折れるなぁ」


 再び何でもないかのように立ち上がるユークリッド。しかし彼の身を歩んでいた鎧は限界を超えてしまったようで、ガラガラと音を立てて崩れ朽ちていった。

 

「じゃあ、始めますかボス」

「ああ。そろそろ頃合いだろう」


 ユークリッドの背から一対の翼が生える。その形状は天使の翼そのものであった。

 そして羽ばたかせると羽が大量に巻い、そしてその翼が突然ポラリスに襲いかかってきた。


「この程度…」


 ポラリスは剣を振るまでもなくフィールドバリアを展開してケレスと自身を守る。バリアに次々と羽が刺さっていた。

 羽の雨が止むと、ユークリッドは翼を生やし、更に羽の塊の剣のようなものを自身の周囲に浮遊させていた。

 その羽塊の剣を拳に合わせて振り下ろすと、ポラリスのバリアは容易く割れて砕け、ケレスも余波で吹き飛ばされる。

 さらなる連撃が容赦なくポラリスに襲いかかり、ポラリスは約束の剣では対処が間に合わないと見て投げ捨てるようにして破棄、変わりに片手長剣のエーテルブレードギアを出力して全て剣を合わせて受ける。

 

「裁きを下すつもりだったが、捌かれるとはな」

「裁きだと?傲慢だな。審判者にでもなったつもりか?」

「”神”のご意思さ」

「自らの行いの責任転嫁か、見苦しい。大層な迷惑だろう、同情する。存在しない意思にな」


 ポラリスは剣を掲げる。切っ先を自らを見下ろすユークリッドへと向けて。

 そしてその蒼穹の色彩が星空の瑠璃へと遷ろう。

 ”星の神”とも称される、天の帝の真の色彩を以て天使擬きを誅する為に。

 そして無粋な真似を防ぐ為に、彼の第一の騎士が並び立つ。


「ゾルレンは私が相手をしておきます。心置きなくどうぞ」

「ああ。そちらは任せた」


 二人の連携は確かに相性がいい。しかし、彼らが本気を出す時、隣に誰かがいる。それだけでデメリットが発生するのだ。

 だからこそ新たな道を切り拓く為に、優位を躊躇いなく捨てた。

 大地は砕け、重力の軛から解き放たれ、都市の崩壊は加速していく。


 

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