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第九話 王子様とイチャイチャ作戦ですわよ

 今までは距離を置いておりましたが、王子様とイチャイチャすることにしましたわ。

 もちろん、これは全て断罪劇のため。そしてパトリック殿下を手に入れるため。


 そのためなら、お慕いしていない王子様のお傍にいるのも苦じゃありませんわ。


 一つ心配があるとすれば、パトリック殿下に、わたくしと王子様が『愛し合っている』と誤解されることですけれど……。

 まあいいですわ。断罪されたら、愛なんてものは普通冷めますもの。そう言い訳してパトリック殿下への熱烈な思いを伝えればいいだけ。


 ああ、その時が早く来ないかしら。


 そんなことを思いつつ学園内を歩いていると、早速王子様を見つけましたわ。

 向こうもわたくしに気がついたらしく、駆け寄って来られました。


「ああ、デーア。こんなところで出会えるなんて。最近顔を見ていなかったから寂しかったんだよ」


「ごきげんよう。申し訳ございません王子様。わたくし、色々と多忙ですのよ」


 あなたは暇だろうけれど、という皮肉を交えたが王子様は気づかないのでしょうか? ニコニコ笑っていらっしゃいますわ。


 王子様に申し上げた通り、わたくしはとても多忙なのです。この学園に通っている時間以外は、王妃教育で忙しいのです。もっとも、それももはや必要はないのですけれどもね。

 対して彼はというと……成績はあまりよろしい方ではありませんから、従って妻となるわたくしにその責を預けておりますの。

 まったく、困ったものですわ。……同い年だというのに弟を見ているような気分になってしまいますわね。


 あらわたくし、一体何を考えているのかしら。

 まるで将来、王子様の妻になることを受け入れているみたいじゃありませんか。馬鹿ですわ。


 気を取り直して、わたくしは早速イチャイチャ作戦を開始することといたしました。


「王子様。お久しぶりですし、一緒に昼食などいかがでしょう? わたくし、いい場所を知っているんですの」


「へえ。デーアが誘ってくれるなんて嬉しいな。もちろん行くよ」


 頬を真っ赤にして、王子様がおっしゃいます。

 わたくしに誘われたことがそんなにも喜ばしいことなのでしょうか。わたくしにはよくわかりませんわ。


 疑問は横に置いておくとしましょうか。

 わたくしは微笑みを見せて頷き、王子様のすぐ隣を歩いてその場所までご案内しましたの。



* * * * * * * * * * * * * * *



 わたくしたちがやって来たのは、テーブルが並べられたお庭。

 そう、エミリ男爵令嬢と初めての邂逅を果たしたあの場所ですわ。


 そして思った通り彼女はいらっしゃいました。相変わらず、下級の貴族たちとお話ししていらっしゃいます。


 わたくしの姿を見るや否や、エミリ嬢はニコリと笑いました。

 一体どういうつもりでしょう? わたくしをからかっているのかしら。


 けれど怒ってはいけません。上流貴族としての余裕を見せるのですわ。

 女神の微笑みをたたえたままわたくしは空いているテーブルの席に座り、王子様にもお椅子を薦めました。


 昼食を注文すると、すぐに運ばれて来ましたわ。

 王子様とお食事をご一緒するなんてどれくらいぶりかしら。この学園に通い出してからはお互いの屋敷・城に行って会うことは滅多になかったので、入学前以来かも知れませんわね。


 わたくしと王子様はともに十五歳。入学したのが十二の時でしたから、もう三年が経っていますのね。

 時の流れは早いものですわ。


「デーア。何を考えているんだい?」


 王子様の声で、わたくしはハッと我に返りました。

 無駄な感慨に浸っている場合ではありません。せっかくエミリ男爵令嬢がいるのですから、王子様とのイチャイチャを見せつけなくては!


「王子様。お勉強の調子はいかがですか?」


「勉学? あ、うーん。まあまあ……かな?」


「もしよろしければわたくしが教えて差し上げましてよ。簡単なことであれば」


「本当かい!? デーアが教えてくれるなら僕、学園二位になれる気がするよ!」


 王子様がそう言って、わたくしの銀髪を撫でて来ました。

 これは……? いくら婚約者とはいえ、婚姻前のスキンシップをこんな場で晒すだなんて……。


 やはりこの方、マナーがなっていませんわね。


 ちらりと横目でエミリ男爵令嬢を見てみれば、ニヤニヤと笑っていらっしゃいました。

 喜んでいる……? いやいやそんなはずはございませんわ。羨ましがっているのでしょうか? わたくしのように王子様に頭を撫でられたいと妄想し、そしてにやけているのかしら。


 きっとそうに違いありませんわ。まあ、なんてはしたないの。


「あらエミリ嬢。どうしてこちらを見ておいでですの」


 嫌悪感を声にたっぷり含めつつ、そう首を傾げてみた。

 するとエミリ嬢は少し慌てた様子で、


「あっ、いや。これはその。仲がよろしいようで素敵だなと」


「あらそうですの。あなたも早く婚約者を作りなさいな」


 ええ、ええ。

 この方はあなたにくれてやりますとも。わたくしの本当のお相手はパトリック殿下なのですからね。

 この溺愛王子の心を、惹きつけて虜になさい。そうすればあなたのお相手になる気も起こるでしょうよ。


 心の中だけでそう言って、わたくしはなおも微笑みを崩さない。

 しばらく王子様と語らい、簡単な数学問題を教えて差し上げた後、わたくしはエミリ嬢に視線を送りつつお庭を立ち去りましたの。


 残念ながらエミリ嬢の嫉妬顔は見られませんでしたけれど……でもきっとこれで、彼女も頑張ってくださるはずですわ。

 わたくしはしばし、それを待ちながら、さらにイチャイチャを見せつけてやるとしましょう。

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