第四話 嫌われるために毒舌攻撃してやりますわ
さて、では悪役令嬢らしいことをいたしましょう。
わたくしは物語の中で悪役令嬢がやっていた数々の悪行を思い浮かべました。
言葉から暴力に至るまで、色々なことをしでかしていましたわね。貴族としてあるまじき行為ですわ。
まあ所詮は、暇なぐうたら貴族の書いたものでしょうし、まともなはずがありませんわね。
それは置いておくとして。
とりあえず、エミリ男爵令嬢から嫌われる必要がありますわね。
どうしたものかしら。
いじめる手はまず使えませんわね。もしもいじめてごらんなさい、『無実の罪』という大事な要素が欠けてしまいますわ。
それにパトリック殿下から嫌われるようなこと、わたくし耐えられませんもの。あの方はお優しい方ですが、悪人には厳しいかも知れません。
では、どうやって嫌われるかですわよね。
うーん……そうですわ、毒舌などいかがでしょう?
貴族界には棘のような令嬢もいらっしゃいます。
わたくしはそうではありませんでしたけれど、演技をすることはきっとできますわ。毒舌でエミリ男爵令嬢を攻撃し、『惨めなヒロイン』を演じさせてあげるのです。
あらいけない、考えれば考えるほど素敵な計画にうっとりしてしまいますわ。
「あ、デーア」
そんなことを考えていると、急に声が聞こえてきました。
振り返るとそこには金髪碧眼の美少年が立っておられます。言うまでもなく彼こそがアンドレ王子様ですわ。
「王子様、何かご用ですかしら?」
「いや、たまたま君を見かけたんでね。今日も可愛いなあって思って」
「もったいないお言葉ですわ」わたくしは内心で苦笑しました。
いつもどんな場でも口説き文句を言われるのは、非常に迷惑なのです。今も周りには他のご令嬢方やご令息がいらっしゃるというのに。
凛々しく賢くあられるパトリック殿下ならこんなことはなさらないでしょうに。
わたくしの婚約者は、大っぴらには言えませんが……少々頭が足りないのではないかと思ってしまいますわ。
「では、大変残念ながらこれからやることがございますので、わたくしはこれで失礼を」
「そうかい。じゃあまた」
手を振る彼を睨みつけながら、私はそっと微笑みます。
……いつか、婚約破棄してくださいませね。
* * * * * * * * * * * * * * *
王子様から逃げた後、わたくしに喋りかけてくる者がまた現れましたの。
「あのあの。プレンデーア様、ちょうどよかった。ちょっとお茶とかどうです?」
そう笑う人物は、茶髪の可愛らしい少女――男爵令嬢エミリでしたわ。
わたくし、少し驚いてしまいました。まさか向こうからコンタクトを取ってくるとは思っていませんでしたのに。
まあいいですわ。早速毒舌攻撃開始ですわよ!
「あらごきげんよう。でも、下級貴族が上級貴族に声をかけてくるものではありませんわ。それは無礼というものでしてよ?」
「あっ。ごめんなさいっ、私ったら」
「そうですわ。以前一度お話しをしただけでいい気になるのは良くありません。わたくしならともかく、他の貴族令嬢であれば嘲笑されても当然のことですわ」
あら? なんだか気遣っているような言葉になってしまいましたわ。
エミリ嬢は「ごめんなさい。気をつけます」とおっしゃって、下級令嬢たちの中に戻っていかれました。
ああ、次こそはもっと毒舌を浴びせなくては。
わたくしは悪役令嬢になりきらなければならないのです。……ただし、実力行使はせずに。
「悪役令嬢ごっこ、厳しいですわね」
わたくしはため息を漏らし、そう呟いたのでした。
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