第三話 男爵令嬢に狙いを定めましてよ
断罪劇を作り上げるには、まずヒロイン役が必要ですわ。
わたくしはそう思い、それに相応しい下級貴族を探しておりました。
貴族の中で恋愛小説が流行しているということは、きっとヒロインに憧れる令嬢も多いはず。そういう人物なら乗ってくるかも知れませんわね。
わたくしを含め、王立学園には多くの貴族の令息や令嬢の方々が通っておられます。
一応、『学園の中では貴族の上下関係はなく平等』ということにされていますけれど、実際はそういうわけにもいかず結構身分で分けられている部分があるので、上位であるわたくしは下級貴族とあまりお話をしません。
普段言葉を交わすのは、せいぜい伯爵貴族までですわね。
けれどわたくしはヒロイン役を見つけるため、さらに下位の貴族令嬢たちに声をかけることにしましたの。
「あの。少しお話に混ぜていただいてもよろしいかしら」
お庭でお茶を楽しんでいた下級令嬢の皆さんったら、目をひん剥いて驚いていらっしゃいましたわ。
でもそれは当然のこと。銀色に煌めく長い髪、青空のような蒼穹の双眸、色白で端正な顔立ち。貴族界一番とも言われる美貌を誇るわたくしが急に現れたら、誰しもが天使か女神が降り立ったのかと思ってしまうでしょう。
お間違えにならないで欲しいのだけれど、これは決して自慢ではありませんのよ?
「すみません突然割り込んでしまって。わたくしはプレンデーアと申しますわ」
「あっ、あぁ、プレンデーア……様!?」
わたくしの一言が、更なる混乱を招いてしまったみたいですわ。
まさか公爵家の娘が話しかけてくるだなんて誰も思わなかったでしょうしね。でもわたくしはいちいちあなたたちの驚きには付き合っていられませんの。
わたくしは、集まっていた令嬢たちをぐるりと見回します。
全部で五人のようで、皆、男爵令嬢と子爵令嬢に見えますわ。公爵家はたった一つだけですけれど、子爵や男爵といった爵位を与えられる家はかなりの数ありますの。
まあそんなことはどうでもいいですわ。
さすがに誰もわたくしには逆らえないようで、ペコペコしながら輪の中に入れてくださいました。さて、ここからどうやってヒロイン役を引き上げるかですわね。
「――この間伯爵令嬢からご本をお借りして、少し読んでみたのですの。流行りの恋愛小説だったのですが、初めて読んで非常に面白かったですわ」
まずはそんな会話を振ってみることにしました。
これで彼女らの反応を窺うのです。
案の定、多くの令嬢が話題に載っていらっしゃいましたわ。
「ああ、恋愛小説をお読みになられるんですか? 私も好きです!」
特に食いつきが良かったのは、薄い茶色の髪の毛をした男爵令嬢でした。
彼女の名前は確か……エミリといいましたわね。
わたくしは彼女に狙いを定めましたわ。
「恋愛小説、素敵ですわよね。あんなヒロインみたいな恋がしたいとは思わなくて?」
「ええ、ええ。そりゃあもちろんですとも。私も一度は熱い恋をしたいです」
……小柄で可愛らしい容姿といい、この性格といい、なんともわたくしの舞台のヒロイン向きですわね。
舞台――卒業パーティーでの婚約破棄の駒として有能だと判断したわたくしは、彼女をどうやって取り入れようかと考えつつ言いました。
「きっとあなたにもそんな恋が訪れますわよ」
だからわたくしの婚約者を絆しておしまいなさい。そしてわたくしはパトリック殿下と……!
わたくしは誰にも見られないよう、そっと拳を握りしめたのです。
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