第十一話 待ちに待った婚約破棄タイムでしてよ
ライトブルーのドレスを身に纏い、わたくしは舞台へ臨みました。
輝く銀髪を背中に流し、淑女の微笑みを浮かべるわたくしは、貴族令嬢として最高に優美であったことでしょう。
ただし、わたくしへ向けられる人々の目はどれも冷たいものでした。
でもそれはわたくしにとって好ましいものでしたわ。
この演目が終わった時にはきっと彼らの目の色は大きく違ったものとなっているでしょう。それを想像するだけでとてもワクワクいたします。
さあ。人生最大、大一番ですわ。
半年もかけて準備して来たのですもの、精一杯頑張らなくてはね。
学園の卒業パーティー――悪役令嬢の断罪劇の舞台へと、わたくしは足を踏み入れましたの。
* * * * * * * * * * * * * * *
パーティーの参加者はこの学園の全校生徒ですわ。
生徒の代表であります王子様、留学生のパトリック殿下、わたくし。そして――。
「エミリ嬢、ごきげんよう。お体の方大丈夫でしたかしら?」
全身を青あざだらけにしたエミリ嬢に、わたくしは心配するように言いましたわ。
もちろん、少しばかりは本当に気遣いの気持ちもあったのですけれど。
「……よくも白々しく言ってくださいますね」
青色の瞳を怒りに燃えたぎらせたエミリ嬢が、わたくしに食ってかかりました。
まあ演技がとてもお上手。役者ですわね。
彼女に負けぬよう、わたくしも立派な悲劇な悪役令嬢になりきりましょう。
「……足を滑らせたのはエミリ嬢でしょう? わたくしのせいになさるなんて、少しひどいと思いますわ」
「そんな!」彼女は可愛い顔を歪めて見せました。「嘘もいい加減にして! 突き落としたのはあなたでしょ!」
あら。素の口調が少々出ているみたいですわね。
まあ構いませんわ。
「そうやってわたくしを貶めるのはやめてくださる!? わたくしが少しばかり厳しい口を利いたからと嫌がらせをなさるのは淑女にあるまじき行為ですわ!」
声には怒りを込めておきましょう。
パーティーの参加者たちがわたくしと男爵令嬢を遠巻きに眺めていらっしゃいます。野次馬のように騒ぎ立てる者までいるので少し鬱陶しいですけれど、あれは無視ですわ。
「あなたがわたくしの王子様と結婚なさりたいから! だからこんな嘘を吐かれるのですわね!」
「嘘っぱち言わないで! どれだけ私をいじめたら気が済むの!?」
二人の令嬢の声が、パーティー会場にキンキンと響き渡る。
いよいよですわ。いよいよ、待ちに待った瞬間が来ますのよ。
わたくしは王子様の方をチラリと見ました。パトリック殿下と何やら言葉を交わされていた彼はわたくしたちの騒動に気づき、慌てて走っていらっしゃいます。
婚約破棄タイムが今すぐそこに。
そしてわたくしは、わたくしは……!
「何してるんだい、君たち」
碧眼を見開かれた王子様がおっしゃいました。
そのお声には咎めるような調子が含まれておりましたが、わたくしは構わず叫びました。
「この方が!」
エミリ嬢も負けじと絶叫なさいました。「プレンデーア様がひどいんです! 婚約破棄してください!」
――婚約破棄。
そのワードを聞いて、わたくしは唇を噛み締めました。
エミリ男爵令嬢は続けます。
「私をいじめ続け、私が黙っているのをいいことに、階段から突き落とすようなことまでして! どういうつもりか知らないけど最低です! こんな方、王妃にはふさわしくない!」
わたくしは思わず頷きたくなった。
そうよ。そうですのよ。わたくしは王妃にふさわしくない。
こんな女、愛せないでしょう? ですからどうぞ、わたくしを見捨ててエミリ嬢を選んでください。
期待を込めて、王子様を見つめましたわ。
直後彼の口から婚約破棄の言葉がきっと飛び出すはずだと、わたくしは信じていたのです。なのに――、
「エミリ……男爵令嬢。君の言葉は間違っている。君は、嘘つきだ!」
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