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第八十二挺目 混乱


「あ〜、言い逃れ出来なくなっちゃったね」


 ニヤニヤ笑いながらフィーネがそう言った。言い逃れも何も全くの誤解なのだが。


「お前の目的は何だよ......」


「面白くすること」


「お前の『面白くする』は『混乱をもたらす』って読み替えれそうだな」


「えーと......イマイチ、状況が掴めないんですケド。ウチの兄は意外と、その、そんなヤバい奴じゃないですよ......?」


 状況は分からずとも、俺が不審がられていることは分かったらしく、由香がフォローに入ってくれた。持つべきものは優しい妹である。


「貴方は、暁さんの妹さん?」


「あ、はい。暁由香って言います。まー、何ていうか、その、この女の人達は暁楓と楽しい仲間達って感じで、そんなに爛れた関係とかでは......」


「さっき、兄さんと呼んでいたけれど、貴方も暁さんの妹さん? ......全然、似てない、というか、其方の方とそっくりだけど。というか、その服何。コスプレ?」


 山本はラプラスとマクスウェル、そして俺を交互に見ながら聞いた。


「ラプラスと言います。暁楓は私の兄さんで、暁由香は私の姉さんです。血は繋がっていませんが」


「マクスウェルです。ラプラスは私の妹で、暁由香は私の友達。暁楓は大切な人です」


「......ぇへ?」


 常人からしたら、そもそも、『ロッテ』だの『ステラ』だのとカタカナの名前を名乗られただけでギョっとするものだ。

 しかし、今、山本に突き付けられている情報量はその比ではない。戦国武将の家系図並みに複雑怪奇な家族関係を聞かされた山本は、思考がストップしてしまったようでただただ困惑の声を漏らしていた。


「私は星加朱音。楓と強い絆で繋がった女よ」


「そんな絆俺は知らんぞ」


「私、帰っていい?」


 怒気を含んだ口調で災厄が言う。


「すまん、帰っていいぞ。詫びになぞなぞ付き合おうか?」


「じゃあ、何か問題出して」


「『まみむねも』これ、何だ」


 スマホで咄嗟に調べたなぞなぞを彼女に投げ掛ける。この災厄、なぞなぞさえさせておけば機嫌が良い。

 意味もなく呼び出されて相当、イラついている様なので少し、発散させてやらねば。


「まみむねも......『め』のところが『ね』......あ、『めがね』」


「正解」


「やった。じゃあ、帰る」


 たった今、自分がイラついていたことも忘れた様に機嫌よく彼女は帰って行った。


「ロッテ、ごめん。私、もう駄目......コイツに関わりたくない。帰る......ステラ大丈夫かな、こんな人達と一緒に居て」


 どちらかというと、ステラ自身が『大丈夫じゃない』奴なんだけどな。


「待て。ステラが今日はウチに泊まっていけだと」


 俺はステラからスマホに届いたメッセージを見ながら帰ろうとする彼女を引き止めた。


「アンタの家で!?」


 コイツ、敬語使う気完全に無くしたな。


「ステラの家でもある。いや、やっぱりないな。アイツ、家賃払ってねえし」


「折角のステラの好意だし......でも、コイツとは......うーん」


「わ、私も居るんだし、大丈夫だよ! もし、楓が変なことしたら私が斬り伏せるから!」


「んだとテメエゴラ」


「ひゃいいっ! ごめんなさい調子乗った! 冗談だって!」


 ロッテ、ステラが信頼していることからも察せるように相当、優秀な剣士の筈なのだが、俺が知っている彼女は『ひゃいいっ!』の方なのでどうも、強そうには見えない。

 

「おいロッテ、頭頭!」


「あっ......ごめん」


 驚き過ぎて頭が取れかけていたロッテに俺は直ぐ様注意をする。ステラの尻尾、朱音の蛇、グロテスクなものは今まで何度も見てきたが、ロッテの頭が取れるのだけは未だに慣れないし、普通に怖い。


「どうしたの?」


「え、あ、ちょっと、ゴミ付いてたみたい......」


 ロッテの頭がゴロッと首の上から落ちかけるというグロテスクな状況を山本は見ていなかったらしく、ロッテは直ぐに誤魔化した。


「それで、山本、テメエはウチに来るのか? 来ねえのか? どっちだ」


 色々と面倒臭くなった俺が彼女に結論を聞く。


「......行く。ステラが呼んでるなら、断る訳にはいかない」


「けっ、そうかよ。俺としては是非ともお断りしてえところだが、アイツの我儘に今回くらいは付き合ってやる」


 あの歪んだ倫理観の持ち主であるステラが純粋に『友達を家に招きたい』と言っている状況、それを拒めるほど俺はステラに強くはない。


「......やっぱ、イマイチ、状況が掴めないケド。途中まで私達も一緒に帰って良いですかね」


「コイツらが駄目だって言っても俺は許可する」


「私もこの男の交友関係について知りたいので、皆さんも是非」


「私も噂には聞いててもあんまり皆と面識無いからお話したいな!」


 ということで、俺はロッテと山本、由香、マクスウェル、ラプラス、朱音といった珍道中のようなメンバーを引き連れて帰ることになった。

 お陰でバイクも使えないし、散々だ。


「というか、今、思い出したけど、アナタ、クリスマスの時に楓を攫った......」


「攫ったのは朱音さん達でしょ!? 私は楓を救出しただけ!」


「その節はどうも。あの時の私は冷静な判断が出来なくなっていました。其処の赤髪と違い、私は非を認めます。申し訳ありませんでした」


 ロッテは意外と交友関係が狭く、今までこっちの世界では俺やステラとしか殆ど関わってこなかったため、彼女が他の奴らと交友を深める場面が帰宅中はよく見られた。


「ラプラスさんはコイツの義妹なの?」


「ええ。兄さん、そして、由香姉さんとマクスウェル姉さんは血こそ分けていませんが、私と魂で繋がった大切な家族です」


 其処まで言われるとむず痒い。


「でも、マクスウェルさんとラプラスさんは姉妹なのにマクスウェルさんとコイツは兄妹じゃないんだよね?」


「ラプラスは人......楓を兄として見ている。私は楓を別の存在として捉えている、それだけの違いです。元々、血が繋がっていないのですから、そういった認識の違いが出るのも不自然ではないかと」


「複雑......朱音さんとコイツの関係は?」


「ワタシは楓の恋人みたいなモノヨ......」


「やっぱり、色々と爛れてるわよね!? アンタの人間関係!」


 ロッテが周りとの交友を順調に深めているように、山本の俺への不信感も順調に深まっていく。


「適当なこと言うな。朱音とはただの知人だ」


「友人ですらないノ......?」


「じゃあ、何で下の名前で呼んでいるのよ。普通、良い歳した大人は女性の知人を下の名前で呼んだりしないと思うけど?」


「苗字が同じやつが知り合いに居るんだよ」


「星加、なんて珍しい苗字が......?」


「面倒臭えな! そう言ってるだろうが!」


 脳裏に映るのはあの『災厄』を曲がりなりにも飼い慣らすことに成功している脅威の少年、千隼。守人、朱音の縁者ではあるものの、悪魔のことや災厄のことも何も知らない学生なのに、よくやる。


「は〜、やっぱり、納得出来ない! そもそも、何でこんなにも外国人の知り合いが多いのよ!?」


「俺が聞きたい。なあ?」


「それでこっち見ないでよ。兄さんの行動の結果でしょ」


「冷てえなオイ」


 ステラを召喚したこと以外は全て俺の行動の外で起きたことなのだが、山本がいる手前、そうは反論出来ない。


「......此処が俺の家だ」


 住宅地の中の一軒家の前で、足を止めた俺がそう言った。


「へえ、暁さんあなた、ステラとの二人暮らしじゃなかったんだ。まさか、まだ女の子が居るとはね......」


 と、不快感たっぷりに言葉を溢す山本。その言葉の意味は直ぐに分かった。


「ぁぅ......」


 玄関扉の直ぐ横に女が倒れていた。


「......すうっ」


 直ぐに分かった。コレは俺にまたも、面倒臭いことが降り注ぐことの知らせであると。


「あ、あの人倒れてない!? 楓、知り合いなの!?」


「知らねえよ」


「そんなあっさり!? てか、優那ちゃんも人が倒れてるんだから何か言うことあるでしょ!?」


「いや、暁さんの知り合いなら玄関前で熟睡するくらいあるのかなって」


「待って下さい。朱音は兎も角、私もその括りに入れられるのは心外です」


「マクスウェル、言ってる場合か! ロッテさんも!」


 由香が半ギレで女へと向かっていく。それに呼応して、ロッテや山本もその女へと走っていった。

 俺はその状況をただ溜息を吐きながら見ていた。

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