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第八十一話 誤解


「楓ー」


 正月休みも終わり、溜息を心の中で吐きながらレジ打ちをする俺に話しかけてくる少女が居た。


「冷やかしなら仕事の後にしろ」


「いや、流石に買うよ。はい、これ」


 数々のパンが乗ったトレーを彼女はトングと共に渡してくる。俺は小さく頷くと、手早くレジを打ち、代金を要求し、それらのパンを袋に詰めた。にしても、かなりの量がある。


「ありがとうございました」


 俺が一応、愛想良く頭を下げると彼女はくすりと笑った。


「あはは、何か変な感じ〜。楓さ、今日は早めに上がれるんだよね?」


「何処で知った」


「フォーサイス様から」


「ああ......何か用か」


「うん、ちょっとねー。お店の外で待ってるからさ。終わったら来て」


 また、面倒事か。


⭐︎


「あ、楓、終わったー?」


 店の外で俺を待っていたらしい彼女が俺の姿を見るなり、嬉しそうに笑った。ステラやフィーネの関係者とは思えないその無邪気な笑顔に少し、心が暖くなるのを感じたのも束の間、俺は彼女の横にいる女を見て硬直した。


「ああ」


「優那ちゃんが楓に謝りたいって言うから連れてきたの」


 ロッテがそう言ったのを受けて、俺は彼女の横の黒髪の女に目を向ける。


「......この前は話もよく聞かず、私の思い込みで勝手なことを言ったりしてしまい、申し訳ありませんでした」


 如何にも『不承不承』といった様子で彼女は頭を下げた。どう見ても納得がいっているようには見えない。


「まあ、そういうことなら別に......」


「よし! 優那ちゃんと楓が仲直りしたのを記念して一緒にお茶でも飲みに行こ! あ、楓、フォーサイス様の許可は取ってるから連絡はしなくていいよ!」


 ......ステラを理由に帰ってやろうと思ったのに。というか、この女を俺に無理矢理、謝らせたの、絶対にロッテだな。


「んー」


 俺は仕方なく相槌を打ち、彼女に従った。一方の山本の方も全然、乗り気では無さそうだ。

 しかし、ロッテはそんな俺達を引っ張り、近くの喫茶店へと連れて行った。当然、俺と山本の間には気まずい雰囲気が流れたままだ。


「此処のプリンめっちゃ、美味しいんだよー! ねね、二人とも食べてよ!」


「じゃあ、私はそれと珈琲で」


「紅茶」


「あ、う、うん。すみません、プリン二つと珈琲、後、紅茶二つで......」


 駄目だ。いち早く、この場から抜け出したい。


「あの、暁さん?」


 ロッテが注文をして数分後、突如、話しかけて来たのは山本だった。


「無理に敬語使わなくて良いぞ。俺は使わねえし」


「......私は使います。それで、結局、貴方はステラとロッテ、二人とどういうご関係で?」


「ロッテから聞いてないのか」


「ロッテが貴方の口から聞くべきと」


「ああ......」


 俺とステラとロッテの関係、対外的にはどうすべきなのだろう。ロッテとは友人で良いとして、ステラはどう説明すべきだ。


「ステラとは、その、あー......腐れ縁みたいなのがあってな。それが続きに続いて、今はシェアハウスみたいなことしてる。ロッテとはステラ繋がりの友人だ」


 その腐れ縁の概要を教えろ、と言われれば嘘に嘘を重ねることになり、説明が破綻する可能性があったが、彼女がそれについて尋ねてくることはなかった。


「成る程。すみません、やっぱり、私、誤解を......」


「あ、ボク、暁クンの同僚のフィーネって言います!」


 突如、話に割って入ってきた声の主は何処からか現れ、俺の横に座ってきた。因みにロッテと山本は俺と向かい合う形で座っていたので、丁度、人数の釣り合いが取れたことになる。


「......何で付けてたんだよ」


「面白そうだったから? デュラハンの娘も居るし」


「シーッ! シーッ、して! というか、貴方、誰!?」


 そういや、フィーネとロッテの面識無かったのか。


「だから、言ったじゃん。ボク、暁クンの同僚。山本クンだっけ。暁クンを語るにはボクの名前を抜くわけにはいかないよ?」


「......あの、暁さん、一体、どういう?」


 山本の視線が少しばかり冷たくなる。それをフィーネは楽しんでいるようだった。


「ただの同僚。それ以上でもそれ以下でもない」


「あー、じゃあ、今からそれ以上ありそうな娘達、召喚するね! あ、もしもし、マクスウェル〜? あ、電話切らないで!? 暁クンが会いたいって......うん、パン屋の近くのあの喫茶店。うん、オッケー」


「おいコラ、やめろ! スマホ貸せ!」


「やだー! 朱音も呼ぶもんねー! 付属品のラプラスもー」


「お前らそんなに仲良くねえだろ! やめとけ!」


「暁クン出汁にしたらマクスウェルも来てくれたしいけるいける!」


「チッ、マジでコイツ......」


 それから、十分もしない間にフィーネが『召喚』した少女+二十代後半が合流して来た。


「兄さん、何コレ。どういう状況? ハーレム自慢したかったの?」


「違えわ! 俺、呼んでねえ!」


「人間、用とは何でしょう」


「だから、呼んでねえの! わざわざ、来てもらって悪いが......」


「この地獄のような状況を作り出した犯人が貴方なら、今から貴方を祓ってやっても良いのよ......?」


「いやでも、ほら、ボクのお陰で暁クンに会う口実出来たじゃん」


「私は口実なんか無くとも楓に接触するわ」


「入店したからには、とつい、飲み物を頼んでしまいましたが、よく考えると、私も朱音もお金の持ち合わせがない......兄さん、非常に申し訳ありませんが、建て替えて頂いても宜しいですか」


「あー、はいはい。建て替えとくから早よ帰ってくれ。いや、お前達は悪くないんだけど。責任ならコイツに追及してくれ」


 由香、マクスウェル、ラプラス、朱音、実妹から義妹、ストーカーに至るまでよくもまあ、こんなに集めてくれたものだ。


「ねえ......私は、何で、集められたの?」


「災厄ちゃんはまあ、女だから集めたよ」


「帰って千隼のご飯食べたい......此処で貴方を斬り殺せば良い?」


「朱音と同じ思考にならないで!?」


 完全にとばっちりな災厄、少し、可哀想な気もする。しかし、今、一番、立場的に可哀想というかヤバいのは俺である。


「......っぱり」


 小さな声で山本が何かを言った。


「ゆ、優那ちゃん?」


「やっぱり、アンタ、可笑しいでしょ! 何なの!? 年齢も、容姿も、全然、違う女の子達を周りに侍らせて! ま、まさか、暴力団的な......確かに顔も......」


「優那ちゃん顔で判断するのは止めてあげて!?」


 ......非常に不本意ではあるが、まあ、そうなるよな。


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