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第七話 服屋


 サキュバスが衣類を買い終えるまでの間、俺は特にすることもないので自販機で缶コーヒーを買って飲んでいた。ブラックは苦手なので加糖の奴を。


「......アイツ、どんな服選んで来んのかな」


 彼女のセンスは未知数だが、あの容姿であれば大体の服は似合いそうなので安心である。


「美味え」


 ショッピングモールに来るまでの道中に冷やされた体が内から温められていく。何だ、幸せになるのなんて案外、簡単じゃないか。珈琲を一缶飲んだだけでこんなにも幸福感を得られるなら。

 あのサキュバスには感謝しなければならない。俺を呪縛から解き放ってくれたのだから。というか、アイツ、服の支払い出来てんのかな。日本の通貨制度について何一つ教えてないけど。


「ごめん。遅れた」


 珈琲を飲み干し、ゴミ箱を探していると、そんな声が背後から聞こえてきた。


「うおっ!?」


 慌てて振り向くと、購入した服に既に着替えたサキュバスが立っていた。どうやら、試着室で着替えさせて貰ったらしい。


「はい、お釣り」


 サキュバスはレシートと共に釣り銭を俺の手に渡してくる。無事に購入出来たようで一安心である。

 そして、肝心の彼女が選んだ服だが......。


「縦セタかよ」


 彼女の購入してきた服は俗に言うタートルネックの縦セーターであった。巨乳が着ると体の線が強調されるらしいが......。


「似合ってない?」


「お前、そもそもの容姿が良いからな。似合ってないことはないが。あ......!?」


 貧乳だから別に見ても、と俺が高を括っていた彼女の胸だが、よくよく見てみるとほのかな胸の膨らみがセーターによって強調されており、ある意味巨乳が着るよりも殺傷力の高いものとなっていた。さりげなく、しかし、しっかりとその存在を主張している。


「どうかした?」


「い、いや、その......胸見ろ、胸」


 不思議そうな顔をしながらサキュバスは俺をじっと見つめる。彼女の視線は俺の首より少し下の辺りに注がれていた。


「いや、俺のじゃねえよ! お前自身の胸見ろ!」


 俺が怒鳴ると『それなら早くそう言って。後、胸、痩せ過ぎ』と文句を言いながら彼女は自分の胸を見た。


「特に変わったことはないけれど。どうかした?」


 キョトンとサキュバスは首を傾げた。


「いや、胸の線が浮き出てんだよ。......目のやり場に困る。てか、線が浮き出るだけならまだしも、形まで浮き出るとか可笑しいだろ。ブラジャー付けてんのかお前」


「付けてないけど?」


「付けろよっ! 金渡すからもう一度、買ってこい! お前も恥ずかしいだろ! てか、恥ずかしくあれ!」


「ブラジャーって、しんどいから嫌。それに、サキュバスの本懐は男の劣情を煽ること。あなたが目のやり場に困っているのなら、尚更、付ける理由が無い」


「チッ。そうだったな。お前、サキュバスだったな......」


 俺は溜息を吐いてそう言った。サキュバスがノーブラ程度で恥ずかしがる訳ない、か。


「ごめん。やっぱり、今になって周りの視線が気になってきた。ブラジャー、買ってきていいかな」


 俺が落胆していると顔を少し赤らめてサキュバスはそう言ってきた。


「いや、羞恥心有るのか無いのかどっちなんだよ」


 サキュバスの生態には謎が多い。


⭐︎


「なあ、サキュバス」


「どうかした?」


「お前って、料理出来んのか?」


 俺の問いに対してサキュバスはコクリと頷いた。


「あなたの口に合うモノを作れるかどうかは別として、出来ないことはないわ」


「だったらお前、料理担当な。俺、料理とかさっぱりだから」


「そんな顔しているわね」


「......顔イジり、慣れたわ」


「材料、あるの?」


「ドラゴンの肉とか、蜘蛛の目玉とか、マンドラゴラ以外なら売ってるぞ」


「サキュバスが普段、何を食べていると思っているの?」


 サキュバスは溜息を吐いて、ジトッと俺のことを見つめてきた。


「逆に何食ってんだよ。サキュバスなんて精気食ってるイメージしかねえ」


「ジャガイモ料理とか、パンとか、後、スープ?」


「欧米の一般的な家庭に出される料理じゃねえか」


 もっと、グロテスクなものを想像していたのだが。男の精気を喰い漁る種族が何故、ウェスタンな料理を常食とするようになったのか、非常に興味深い。ラーメンを啜っていたあたり、テーブルマナーは欧米のそれとは違うようだし。


「そういう貴方は何を食べているの?」


 グッ、とサキュバスは俺に体を近づけてそう聞いてきた。


「近え。離れろ」


「何を食べているの?」


 あくまで俺の言うことを聞く気は無いらしい。実際、悪魔だしな。仕方ないか。


「......聞きてえのか? 本当に? 社畜の俺に? 家に帰ることすらマトモに無かった俺に? 食生活を聞きてえのか?」


「ごめんなさい。聞き方を間違えた。この国では、一般的にどんなものを食べるの?」


 若干、苛立った様子でサキュバスは長嘆息を漏らすと、改めてそう聞いてきた。


「日出る国、此処、日本では『和食』っつう独自の食文化が発展してる。味噌汁とか、寿司とか、肉じゃがとか。主食は米。勿論、サキュバス様方が召し上がるらしいジャガイモにパンやスープも食うが」


「それって、レシピとかある?」


「俺の家にレシピ本なんてある訳ねえが......レシピくらい、ネット使えば幾らでも出てくるから大丈夫だろ」


「ネット?」


 聞きなれない言葉にサキュバスが首を傾げる。しまった。コイツ、ネットも知らないのか。


「ネットさえありゃあ、大体のことは調べられるしな。うん......。おい、サキュバス」


「何?」


「電気屋行くぞ」


「電気......屋」


 電気屋も知らねえのかコイツ。


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