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第六十九話 人間性


 違うようで実際はかなり似ており、判別することが難しいマクスウェルとラプラス。俺は彼女らを徹底的に観察し、二人を声、姿、気配、どれでも見分けられるようにしようと考えた。

 認めていないとはいえ、ラプラスは俺のことを兄だと言ってくれているし、マクスウェルも由香を養ってくれていて、家族同然の存在となっている。そんな彼女らを最も年長である俺が見分けられなくてどうするのか。


「人間、どうですか? この服」


 彼女は冬用のモコモコとした灰色のパーカーを着て、俺に見せてきた。俺を『人間』と呼ぶのはマクスウェル、『兄さん』と呼ぶのはラプラスだ。


「ん、あー、良いんじゃないか」


「姉さん、素敵ですよ。可愛いです」


 声質的にはマクスウェルよりラプラスの方が機械的で感情が篭っていない感じがするが、性格や発言面ではややラプラスの方がノリが良く、良くも悪くも人間味がある。対して、マクスウェルは良くも悪くも『機械っ娘然』としており、抑揚や人間らしい声を出せるのにも関わらず、敢えて無感情な感じの声を出している気さえする。

 貧乏な朱音の下で生活していることもあり、ラプラスの方が正直で少し打算的、マクスウェルは生真面目ではあるが、たまに頭のネジが吹っ飛ぶ。


「ラプラス、貴方の服も買わなければいけませんね」


「あ、いや、私は」


「勿論、支払いは私がさせて頂きますよ。安心なさい」


「い、いえ、それは流石に......!」


「現在の稼ぎも安定していますし、近々、工場長になりますので心配する必要はありません。姉に見栄を張らせてください」


「姉さん......」


 先日、マクスウェルが俺を拉致してきたときもそうだったが、マクスウェルとラプラスはかなり、強い絆で結ばれているらしい。偽物の妹であるフィーネとも縁を切り、由香や俺とも家族的な繋がりを見出せずにいるマクスウェルにとって、ラプラスという存在は心強いのだろう。

 てか、今サラッと言ったが工場長? 数週間で其処まで昇進したのかマクスウェル。


「そういや、由香は何処行ったんだ」


「由香ならまだ、服を選んでいるかと......ああ、来ましたよ」


「兄やん、見てんか、見てんか! 滅茶苦茶可愛いコーデ出来たで!」


「何故に関西弁。はいはい、可愛いな」


「ぞんざい......数年越しに再会した妹に対する態度かそれが」


「だってお前ら、かれこれ三時間くらい服屋巡ってるじゃねえか。飽きた」


「チッ。何やコイツ。可愛い女の子達が楽しんでんねんから、それを鼻の下伸ばしながら見とけばええやろ」


「アホか」


「あいてっ!」


 俺はコツンと由香の額を叩いた。


「お腹も空いてきましたし、そろそろお昼にしますか?」


 今のは声的にラプラスだった気がする。


「そういや、お前らって飯食ったらどうなんの? 消化出来んの?」


「味覚はありますし、エネルギーに変換し、利用することも出来ますよ。不要なものは焼却して水分は水蒸気として放出し、灰などは背中のタンクに溜まります」


 と、解説してくれたのはマクスウェルだ。思ったよりも単純な仕組みのようだが、きっと、その仕組みを実現させるためには到底、俺には理解出来ないようなテクノロジーが組み込まれているのだろう。


「マクスウェルたまーに、灰取り出して捨ててるもんね」


「ええ、燃えるゴミの日に纏めて出せるのでこの世界は便利です」


「ああ、因みに電気で動くことも出来ますよ。偶にで良いので兄さんの家の電気をご馳走になれると嬉しいです」

 

「......ラプラス、あまり人間にご迷惑をお掛けしないように」


「いや、別にそんくらいなら使ってくれても......」


「ラプラスが10%程充電するだけでクーラーを風量最大で2日かけるのと同等程の電気代が発生しますよ」


「たっか」


「それでも食事より変換効率は良いのですがね。星加朱音は貴方の電気代、支払えているのですか?」


「朱音の支払い能力では不可能なので電気による充電は最低限に抑えて、殆どを山菜などの利用で補っています。容易にエネルギー源を得られて、賃金も発生します」


 ラプラスがサラリと言ったその言葉に俺達三人は硬直し、ゆっくりと顔を見合わせた。


「マクスウェル......貴方」


「それって、山菜というより」


「雑草じゃねえか!? 草むしりのバイトして、抜いた草食ってんのか!?」


「兄さん、山菜......野菜とは『食用とする草本性植物の総称のこと』です。食用として利用出来るのなら、それは全て野菜なのです。私と姉さんは人間と違い、野菜に含まれる食物繊維、セルロースを分解することが出来ます。つまり、其処ら中にエネルギー源が生えていることに......」


「よし分かった、マクスウェル、至急、朱音の家に資金提供を申し出るぞ」


「ええ。協力させて頂きます。ラプラス、貴方も私と同じ型をベースとするアンドロイドならば私と同程度の技能がある筈です。大阪にはなりますが仕事の斡旋も......」


「お、大袈裟ですね。姉さんも兄さんも、ねえ? 由香姉」


「私もちょっとそれはヤバいと思う。朱音さんに文句言って来ようかな」


「え、あ、いえ、朱音にはそのことは伏せてありますのでどうぞ内密に。私自身は味覚を切れば野の植物を利用することに何の抵抗もありませんが、人間はどうもそのことに抵抗があるようなので」


「私はアンドロイドとして効率を求める貴方の考えは全て正しいと思いますし、セルロース分解能力をそんなことに使うとはと感心さえします。ですが、それを踏まえた上で頼みます。......これ以上、アンドロイドの姉に複雑な感情ばかりを学習させないで下さい」


 マクスウェルは顔を赤らめ、プルプルと震えながらそう言った。表面だけを見ると、マクスウェルの方が無感情で、ラプラスの方が若干感情の起伏が激しいように感じるが、実際は逆のようだ。

 いや、逆というよりもマクスウェルの方がある程度人間の感覚を身に付けており、ラプラスはまだその辺りが身に付いていないだけ、か。

 どちらにせよ、朱音も心配だし、米くらいは多めに送ってやることにしよう。

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