第六十三話 二人の酒宴
「何か言うことは」
「ただいま」
「......お帰り」
疲れ果てた様子で溜息を吐き、優しい声でそう言うステラ。疲れたのはこっちなのだが。
「言っとくが俺は一ミリも悪くねえからな」
「言わなくても分かってる。今回の件に関してはしっかり、機械娘勢と朱音に精算して貰う」
機械娘勢とは、マクスウェル、ラプラス、そして、由香のことであろう。確かに機械娘、全員絡んでやがったな。
「ロッテは?」
「帰った」
「アイツ何処に住んでんだよ」
「さあ? 私と住みたがってたけど、流石に貴方にも悪いから断ったの。その後のことは知らない」
「せめて、店長を紹介してやるくらいしろよ......一応、お前の騎士なんだろうが」
親悪魔派の店長はフィーネやマクスウェルにアパートの貸し出しの手助けをしている。ロッテも彼女を頼れば良いところを貸して貰えると思うのだが。
「あの子、男性・人間恐怖症ではあるけど、本来は強い子なのよ。野宿でも普通に生きていけると思う」
「嫌な信頼だな」
「そんなに心配してるならあなたが今度、聞いてみれば良いんじゃないかな」
「それもそうだな。困ってそうだったら店長を紹介する」
「......やけにロッテのことを心配するわね」
「嫌いじゃねえからな、アイツのこと。どっかの誰かさんと違って素直だし、純粋だし」
それに今日も助けて貰ったし。
「ふうん......私、素直じゃないと思われてるんだ」
「誰とは言ってねえだろ別に」
「そう。......お腹空いたでしょ。そろそろ、ご飯にしましょう」
「今日の飯は?」
「手打ち蕎麦」
「大晦日かよ」
とてもじゃないがクリスマスイブに食べる食べ物ではない。
「不満?」
「そうは言ってねえだろ」
「......ちょっと待ってて。後は茹でるだけだから」
と、そんな風な調子でステラは茹でた手打ち蕎麦を、これまた自家製の出汁に入れて俺に出してきた。美味い。ちゃんと蕎麦の味がするし、手打ち蕎麦特有の弾力がある。
「うめえ」
「良かった」
元々、メイドの真似事をしていたらしいステラ。その料理の腕はこっちの世界に来てからも日に日に上がっている気がする。
「お前に対して思うことは幾つもあるが、お前の作る飯には文句の付け所がねえな」
「褒め言葉として受け取っておくね」
「ただ、お前と出会って直ぐに言葉通りの『飯テロ』を食らったことがあるから、それがトラウマだ。今日は変なもの入れてねえだろうな」
「・・・・」
俺がそう言うと、ステラは軽く赤面し、スッと俺から顔を逸らした。俺の問いに対する回答は返ってこない。
「おい待て。何だその反応は。お前まさか......」
「冗談よ」
「何だ冗談か」
「というのも冗談だけど」
「おいテメエマジでふざけんな」
戦々恐々とする俺にステラは苦笑した。笑い事ではないのだが。
「冗談。マクスウェルや朱音にあなたが取られるのを防ぐために軽く仕込もうとは思ったけど」
「思うな」
「あなたが取られたら私は誰から精気を吸えば良いのよ」
「ダイエットしろ。精気ダイエット。必須栄養素じゃねえんだろ。......ご馳走さん」
「それは嫌。......お粗末さま。ケーキ食べようか。由香が届けてくれたよ」
アイツはマクスウェルに加担してただけであって、『くれた』だなんて思う必要は一切ないのだが。
「......おー、食うか」
ステラは冷蔵庫の野菜室からショートケーキを取り出し、皿に乗せて机に置いた。そして、直ぐにキッチンへと戻り、何やら大きな瓶と二つ重ねたコップを持ってくる。
「何だその瓶」
「白ワイン。イブくらいは良いかなって」
「......お前の見た目でどうやって買ったんだよ」
「こう、幻覚魔法を使って」
せめて、誰かに買ってきて貰えよ。
「つーか、お前、今まで聞いたことなかったけど何歳? 20歳未満は酒飲んだら違法だぞ。というよりも、売った店員や監督する立場である俺が罰せられる」
「......サキュバスに年齢を聞くの?」
「別に俺はお前が数百歳のロリババアでも驚かねえぞ」
「18歳だよ」
「死ぬほど若いじゃねえか。何だ今の前置き」
見た目通りかと言われたら、確かに見た目の方が実年齢より少しばかり若い気がするが、ほぼ誤差だ。
「は? お前、年下かよ。ずっと、年上だと思ってたぞ」
「失礼なことを言うねあなたは」
「だって、妙に達観してるし、ババアみたいな落ち着きがあるし、そもそも、サキュバスの寿命ってかなり長いんだろ? それが18ってお前......」
「良いでしょ別に。それとも、何? 年下の淫魔と同居するのは不満? 私、年下だからといってあなたへの態度を改めるつもりないよ」
分かりやすく不機嫌になるステラ。俺もステラのことを年上だと思いながら今までの態度を貫いてきたので、彼女が態度を改める必要は一切無い。
「其処まで言ってねえだろ......。でも、18なら酒は無理だな」
と、俺が言い放った瞬間に彼女は先にコルクを取っていたらしいワインの瓶を傾け、コップに注ぎ、そのコップを口へと運んだ。
「んぐ、んぐんぐ。......美味し」
「おいコラ。何飲んでんだよ、吐き出せ」
「......人間の為の法律を淫魔に適応するのが間違いなのよ。その法律って、アルコール分解能力の貧弱な人間のための法律でしょ。私は悪魔よ? 毒全般に耐性があるわ」
「じゃあ、尚更、何で酔えねえ癖に買ってきたんだよ」
「あなたを酔わせたら面白そうだと思って」
「......俺、結構酒弱いんだが」
「はいどうぞ、飲んで」
「クソが」




