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第六十一話 拉致


「流石にイブは客が多かったな......」


「調子乗って十が雪だるまパンとか、サンタパンとかを作って表の看板で宣伝したんがアカンかったな。それら目当てに客足がアホみたいに伸びよった」


 18時、閉店後の店内で俺と平沢は溜息を吐いた。しかし、これで家に帰れる。やっと、休めるのだ。


「暁はこれからステラさんと二人?」


「ああ。何時もと同じだけどな」


「とか何とか言って、結構、楽しみにしてるんちゃうん。ステラさんと暁、何か知らんけどめっちゃお似合いやん」


「どっちも社会不適合者だからな」


「あ、暁クン、帰るのー? 精々、お姫様との性なる夜を楽しみなよー」


「精気吸われるにしても、耳からだからそんなことにはなんねえよ」


 実際、手軽さを考えると圧倒的に性接触より耳の方が吸精の効率が良いらしいし。

 

「平沢さーん。そろそろ、帰りますよー」


「おー。ちょっと、待っててなー」


「ああ、平沢って店長と同棲してたのか」


「まあな。......アイツ、家持っとらんくて今まで此処で寝泊まりしてたんやって。だから、家買う為の副業として『みちびき』を経営しとるらしい」


 あの店、あんなミステリアスな感じを出しときながら営利目的だったのか。


「てか、みちびきの建物はどうしたんだよ。あんな建物買う前に家買えば良いのに」


「アレ、この店の奥の部屋やで」


「は?」


「何か、まるで其処に建物があるかのように幻覚を魔法で見せて、中に入ろうとした客をこの店の奥の部屋にテレポートさせてるらしい」


「......そんな仕掛けだったのか」


「ねえねえ、ちょっと待って。二人とも、一緒にクリスマスイブ過ごす人居るの? ボク、居ないんだけど。これが世に言うクリぼっち?」


「知らねえよ。もっと、マクスウェルと仲良くしてればアイツと過ごせたかもしれねえのに。お前の自己責任だろ」


「orz......」


 チョベリグよりは進んだが、それも死語だな。


「てか、テメエらの世界にクリスマスなんてねえだろ。何でんなこと気にしてんだよ」


「いや、そりゃあ、世間がこんなクリスマスムードになってきてて、周りもクリスマスクリスマス言ってたら釣られちゃうでしょ......」


「そんなもんか」


 と、同僚達との会話もそこそこに店を出た俺。予約しているケーキを受け取り、家に帰ろうとバイク置き場に行くと、其処には......


「こんばんは、兄さん」


ラプラスが立っていた。


「だから、その呼び方止めろって」


「バイクの調子を伺いたいと思いまして。不調など、ありませんか?」


 俺の不満を無視してラプラスがそんなことを聞いてきた。


「いや、特に無いな。元通りって感じだ」


「そうですか。私が修理したものですから問題は無いかと心配しておりまして。......ところで兄さん、この後の予定は?」


「ケーキ受け取って家帰るつもりだが?」


「ケーキ、ですか。何処の店で?」


「其処の角曲がったところの店。割と美味いぞ」


「ステラとクリスマスイブを過ごされるのですね」


「まあな。イブを特別な日として位置付けてる訳でもねえし、何時も通りのことをするだけだ」


 俺のその言葉を聞いたラプラスの目が少し光った気がした。


「成る程。特別な日ではない......」


「ああ。明日はお前達も呼んで軽く茶でも飲むつもりだけど。今日は特に何もねえよ」


「そうですか。では、少し、お付き合い下さい」


 ラプラスの背中から二本のアームが飛び出てきた。彼女はその二本のアームを自由自在に操り、俺を拘束する。


「......は?」


「驚きましたか。新しく姉さんにアームを付けて頂いたのですよ」


「知らねえよ。質問に答えろ」


「兄さんを傷付けるつもりはありません。ですが、暫し、お眠り下さい」


 ラプラスは何の抑揚もない声でそう言うと、俺と目を合わせてきた。その瞬間、俺の体が重くなる。何だか体が怠い。眠たい。


「......擬似魅了、か」


「兄さんはこの技を受けたことが二度ほどあるのでしょう? プロトタイプではありますが、姉さんから頂いたのです」


 そんな彼女の言葉を最後に俺の意識は闇に溶けていった。

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