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第五十六話 ロッテ


 ゆっくりと忍び込む。まるで自分だけが世界から消えてしまったかのように、自らの存在を示唆するものを全て消していく。

 外で大砲の音が数発響く。陽動の為、人を雇い撃たせたものだ。慌てふためき、偵察のため外へと飛び出していく見張りの者達に気づかれぬよう、物陰に隠れる。

 見張りが全員、外に出て行くのを確認したら、直ぐ様、奥の部屋へと死ぬ気で走る。


「な、何だ貴様......!」


 奥の部屋には数人の見張りが残っていた。兎に角、味方を呼ばれないよう、瞬時に片付けなければ。

 自分と距離のある者には腰につけた袋から取り出した小刀を投げつけ、目の前の大柄で剣を構えている淫魔には剣で応戦した。


「ウッ......体が痺れ......」


 小刀にはあらかじめ毒を塗っておいたため、それが刺さった淫魔はうめきながら倒れた。


「死にはしない。安心しろ」


 隊長か何かなのだろう。剣で応戦してきた淫魔の力は非常に強く、私の力を持ってしても押し切れそうになかった。こうなれば、強行突破しかない。

 私は剣を槍のように持ち、刀身の長さを活かして敵を牽制しながら後ろの魔法陣へと乗った。使い方は分かっている。迷うことなく自らの腕を噛みちぎり、魔法陣に血を滴らせた。

 災厄はこの魔法陣を使って、向こうの世界に行った。つまり、この魔法陣は災厄が転移した座標に飛ぶように設定されている筈。

 淫魔が此方に来ないよう、滅茶苦茶に剣を振り回す。来るな、来るな、もう直ぐなんだ。

 そんなことをしていると、たまたま剣先が魔法陣の横に立っていた台のような物に当たってしまった。

 あれは確か、転移先の座標を決定する魔法陣のコントローラ......。そんなことに気付いた頃には既に私の体は半透明になっていた


「あ、ちょ、ちょっと待って! 違う! 違うの! ど、何処に行っちゃうのこれ! た、助けてええええええ」


 二つの世界を繋ぐ魔法陣が置かれた部屋に私の悲鳴が響いた。


⭐︎


「¥%>+:^☆≒⇔♪」


「へ......?」


 目を覚ますと、確かに其処は向こうの世界だった。路上に倒れ込んだ私に人間が未知の言語で話しかけてきた。


「■◯:⌘=$◉」


 何を言っているのか全然、分からない。あ、そうだ翻訳魔法。翻訳魔法を使わなければ。


「おい、おい、嬢ちゃん大丈夫か?」


 よし、上手くいった。顔の焼けた初老の男性を見上げながら内心、ガッツポーズをした。


「あ、う、は、はい。大丈夫です......」


 怖い。人間滅茶苦茶怖い。しかも、男の人。


「立ちくらみか何かか? いや、嬢ちゃんみたいな、かあいらしい女の子がこんな治安の悪い道で寝てたらアカンでホンマ。見た感じ、金髪やし、外人さんみたいやけど、どっから来たん?」


「あ、う、え、えっとお......」


「あ、ごめんごめん。言いたくなかったら言わんでええんよ。その剣、コスプレ? 何かクナイ入れる袋みたいなん付けるとし、騎士なんか忍者なんか分からんなあ」

 

「.......は、はいい、すいません......。此処、何処ですか?」


 本当に怖い。言語は理解出来るのに、何を言っているか六割くらいしか分からない。


「此処、何処ってそりゃ......日本やがな! はっはっはっ。ごめんごめん、冗談、冗談」


「え、あ、此処、日本なんですか? 良かったあ......」


「はっはっは。何や嬢ちゃん、ボケにボケんといてえや。オモロいな嬢ちゃん、たこ焼きでも奢ったろか。ほら、其処の店の奴。大阪来たからには、たこ焼き食わんとあかんでえ。それとも、もう食べた?」


「あ、い、いや、食べてないですけど、悪いですから......」


「アカンアカンアカン。若いもんは遠慮したらアカンねん! ほら、ちょっと、待っとき」


 足早に近くの店へと走って行く初老の男性。彼は何やら白い塊を手にして戻ってきた。


「ほい、食べ」


「あ、ありがとうございます......んあが」


 白い塊にかぶり付く。何だかゴワゴワとしていて噛みきれない。味も無い。この国の人間はこんなものを食べているのだろうか。


「はっはっはっはっ! 嬢ちゃん、それネタか!? 発泡スチロールのパックごと食べる奴がおるかいか! ホンマオモロいな嬢ちゃん」


「あ、これ、容器なんだ......」


 恥ずかしい。泣きそう。

 パックを開けると茶色い球体が出てきた。上には茶色い謎の生命体が蠢いている。


「ひ、ひいっ! 何ですかこれ! 生きてる......」


「生きてへん生きてへん。それ鰹節や。熱で動いてるだけ」


「あ、そ、そうなんだ。すみません」


 もういっそのこと、殺して......。あ、これ美味しい。凄い美味しい。お腹空いてたからかな。


「嬢ちゃん、名前は?」


「ロッテ・ヴォルフです」


「さてはチョコレート作ってるやろ」


「......?」


「ああ、外人さんには通じんか。ワイは平沢修啓(ひらさわなおたか)この辺の街は知り尽くしとるから、観光なら案内したるで。どうせ、昼間から飲んでただけやし」


「あ、い、いえ、その......大丈夫、です」


⭐︎


 駄目だ。見つからない。というか、何の手がかりもなしに見つけられる訳がない。本来は彼女らが転移していった場所と同じ場所に転移出来る筈だったのに......。

 いや、諦めたら駄目よロッテ。国は同じなんだから。しらみ潰しに行けばきっと、いつかは......。


「それじゃあ、遅すぎるよお......」


 そんなことを考えていたとき、突如、私の視界に入ってきたものがあった。恐ろしい速度で空を飛び、東の方角に向かう人間。いや、あの気配は人間では無さそうだった。

 つまり、彼女も此方側の存在。もしかすれば......

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