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第五十話 あの日見た希望


 幼少期のことは正直、あまり覚えていない。ただ、学校ではいつも孤立し、周りと馴染めずにいたことだけは覚えている。後、そんな私の心の支えが父であったことも。


『星加さんのものと思われる遺体が......体には複数の刺し傷が残っており......』


 だから、そんなニュースは到底、受け入れられなかった。父は立派な守人だったが、それ以前に父として立派だった。優しかった。周りと馴染めず、母や親族に邪険にされていた私にも最大限の愛情を注いでくれた。


『友太、死んだってねえ。由緒ある家の名前に泥を塗りやがって。本当に親不孝な息子だよお。アンタはどうするんだい?』


『彼が居ないのでしたら、私が星加の家に居ても仕方がありません。実家に帰ります。朱音は......』


『男で朱音よりも歳を取った友太の兄弟や親族は沢山居る。守人の力の継承先は予想出来ないとはいえ、女で年若い朱音に継承されることはないだろうさ。ウチには置いとかないでくれよ』


 母は私を星加家に捨てていきたいようだったが、そうはいかなかった。

 私は実家で子に無関心な母と、今まで一切、関わりのなかった祖父母と暮らすことになった。父が居ない世界、愛の無い家庭での絶望の毎日、それを救ったのがこの力だった。


 突然、私は力に目覚めた。朝起きたとき、体が妙に軽くて、ふと、足に力を入れて外で飛んでみると、屋根より高く飛ぶことが出来たのだ。これは父の力だと直ぐに悟った。この力が私に継承されてしまったことを知ったら星加家の連中はどんな顔をするだろう。いや、そもそも、この力さえあれば、何でも出来る......。

 私は直ぐに家を出て、アルバイトで日銭を稼ぎながら日夜、父の仇である悪魔を殺す毎日を送った。どれが父の仇かなんか分かるはずがない。だから、全部、殺す。そもそも、此方の世界に悪魔は来てはいけないのだ。彼方が悪い。

 ......明らかに悪意の無い者には手心を加えてやったが、それでも個人的には父の復讐をしっかりと果たしているつもりだった。しかし、心は収まらない。笑えない。父によって空いた穴はどれだけ悪魔の死体を積み重ねても埋まることはなかった。

 誰にもこの思いは理解して貰えない。どれだけ悪魔を殺せど、私の努力は認められない。父からの愛情はもう受け取れない。思えばずっと私は、孤独だった。だから、仲間が欲しかったのだ。


『頼む。お願いだ。お前らしか、頼れる奴が居ないんだ』


『え〜、どうしよっかなあ。これでもボク、かなりの上級悪魔だからなあ』


『......分かってる。......分かってる。でも、もう家族を失いたくないんだよ......』


 そんなとき、ふと、自分の管轄外のエリアを彷徨っていると守人でもないのに悪魔に頭を下げている者が居た。偶に居るのだ。何かしらの手段で悪魔とコンタクトを取り、契約をしようとする人間が。しかし、どうやら、青い髪の機械の体を持った悪魔は、吸血鬼で、元人間のようだった。

 しかも、人間の方と同じ心の波動を持っている。これは兄弟......だろうか。

 彼らに興味を持った私は、何処かへと飛び去った人間と機械娘の二人を追いかけた。会話の内容と心の波動から察するにやはり、彼らは兄妹であった。が、二人ともそのことに気付いていない様子。更に言えば、二人は両親も亡くしているようだった。

 妹に至っては記憶さえ亡くしていた。恐らく、彼女を吸血鬼にした悪魔が記憶処理を施したのだろう。

 つまり、彼と彼女も私と同じ『悪魔の被害者』。そして、同じく家族を亡くしている。そう思うと、不思議と心が軽くなった。

 あの二人なら、私の気持ちを楽にしてくれる。私の『共感者』。もっと知りたい。でも、まだ会うわけにはいかない。もっと、彼らのことを調べよう。

 そう思い、私は『暁楓』や『マクスウェル』の後を付けてみることにした。暁楓は『ステラ』という淫魔と同棲しておりパン屋勤め、『マクスウェル』は一人暮らしで東大阪の町工場勤め。

 奇妙な生活スタイルだ。それに、暁が悪魔と親しくしているのが納得いかない。悪魔の被害者への、自分への冒涜だ。......いや、彼は妹がどうなったか、吸血鬼に何をされたかなど知らないのだから当然か。彼もあの淫魔に操られているのだろう。救ってあげなければ。


『心配しなくても良いわ。私は貴方の、じゃないわね。......『暁由香』だったかしら。その子の味方よ』


 ある日、マクスウェルが暴走した。暁楓や淫魔達を襲ったのだ。理由は分からないが、何らかのプログラムによるものだろう。その過程で妹だった頃の記憶を少し取り戻したマクスウェル。彼女の前に私は初めて姿を現した


『御用は』


『私に協力しなさい。『暁由香』の記憶を取り戻したいのでしょう。手助けをしてあげるわ』


 そう言っただけなのに。


『......私は』

 

『......人間......兄さん......人間......たすけて。ひぐっ、うぐっ、エラーを検知。エラーを検知。修正。修正。修正。エラーを......嫌......不審なファイルを検出。......ファイル名『マクスウェル』、消去します......』


『っぁ......人間......貴方の事......』


 彼女は勝手に精神崩壊を起こしてしまった。

 まあ、良い。『マクスウェル』は所詮、記憶を失った暁由香の体が作り出したその場しのぎの人格。その癖、アイデンティティのような物を確立しかけていたので、消えてもらった方が記憶を戻しやすい。

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