第四十七話 正体
「それで、何で私が呼ばれたの......。あ、平沢さんだっけ。暁楓がお世話になっています」
「おいコラテメエ、何で下等生物のオスにへり下ってんだよ。俺とコイツとの差はなんだ」
「全部」
「暁の知り合いの子やったっけ。しっかりしてはるな」
「悠生さん、その人も関係者ですよ」
「ええっ......!?」
平沢の様子から察するに彼も実はある程度のことを元から知っていたらしい。
「お、遅れました! ごめんなさい!」
「いえーい」
そして、勢いよく店の扉を開けて入ってきたのは星加千隼と災厄。
「おいこら、災厄。テメエは呼んでねえんだよ」
「......因果の集中した魂ばかり。此処で全員殺したら、じゅるり......」
「星加、何てもん連れてきやがったんだ。帰らせろ」
「無理ですって。お姉さんに敵う訳ないじゃないですか」
「まあ、安心して下さい。いざとなれば私が居ますので」
十は溜息を吐いてそう言った。
「あの時の守人......」
災厄が十のことをジッと見つめる。やはり、俺の予想は間違いないようだ。
「店長、貴方が『ペスト医』。この街の守人だったんですね?」
俺の問いに店長十理生はコクリと頷いた。
「如何にも。ついでに言うと、マクスウェルさんやフィーネさんにアパートを貸したのも私です」
「それは何故」
「私、向こうの世界の方々とは仲良くやっていきたいと思っていまして。フィーネさんは最近、あまりにも悪目立ちをしているようなので強制送還も考えていますが」
「......チョベリグ!」
チョベリバなんだよ。
「千隼はその辺、理解してる?」
災厄が千隼に確認する。
「え、あ、はい。お姉さんに教えて貰ったので。じゃあ、店長さんはアレってことですよね? その、僕とお姉さんが会う前に、お姉さんと殺し合いをしていた人間界の守護神みたいな......」
「守護神、は言い過ぎですかねー。『守人』には多種多様な種族というか、職業の方が居ますが、所詮私は魔女に過ぎないので」
サラッととんでもないこと言うなこの人。
「確かに、貴方、杖を使ってたよね」
「ええ。元々、私の先祖はドイツに住んでたんですけど、第一次世界大戦の混乱を逃れるためにアメリカに移住しまして。その後、第二次世界大戦で荒廃した日本の復興支援の為にこっちに移り住んできたんですよ」
割としっかり歴史的背景があるのな。
「あの、『星加朱音』ってのも守人なんだろ? それもお前の知り合いっぽいじゃねえか。どんな奴なんだ、アイツ」
「......お、店長にタメ口利きます?」
「あ、ごめんなさい」
完全に彼女のことを『店長』ではなく、『ペスト医』として見てしまっていた。
「冗談です。タメ口で構いませんよ、これからは。......一万年程前から存在し続けてきた『水峰神社』の管理者、『星加家』の『本家』。其処に属する者です、彼女は」
「アイツ、神主的な一族の出、だったのか」
真っ赤に染めた長髪、終始浮かべている嗜虐的な笑み、そして、銃剣という近代的な武器を使用している姿はあまりにもそのイメージからかけ離れている。
「何故かは知りませんが、彼女は『向こうの世界の存在』を過度に嫌っていまして。この世界にやってきた彼らを徹底的に半殺し、若しくは殺害しているんですよ。守人としての管轄地域が隣接していることもあり、彼らとの共存を謳っている私とは前から仲が悪くてですね」
『向こうの世界から此方の世界に来る、存在の殆どは程度の差こそあれ、此方の世界で悪さをすることが多い。彼女のやっていることは守人としては少々、厳しくとも間違ってはいないのですが』と、十は苦笑した。
「知ってる、かもしれない」
ステラがポツリと呟いた。
「何をだよ」
「守人の中には悪魔を毛嫌いして、徹底的に排除しようとする者も居る、って向こうの世界で聞いたことがある」
「あー、マップとかも作られてるね。凶暴な守人の管轄内に間違って入っちゃわないように、って」
フィーネがステラの話をそう補足する。ハザードマップみたいなものだろうか。
「そうそう。そのせいで、彼女の管轄内には悪魔が来なくなったものですから、私達の街が目をつけられてしまって......。ほら、てんこ盛りじゃないですか、この街」
「淫魔、吸血鬼、災厄、だもんな。マクスウェルは被害者、ってことになっているらしいが。......そう言えば、一昨日、朱音とアンタ、戦ってただろ。アレは結局、何だったんだ」
フィーネとアニメショップを訪れたときのアレ、である。
「あー、アレはフィーネさんが行きつけのアニメショップに彼女が居ることを発見して教えてくれたので、フィーネさんを囮りに倒してやろうと思ったんですよ。逃げられましたけどね」
「あっちも、あっちで守人対策に爆発やら、煙やら使って来たから厄介だったんだよね」
と、十とフィーネは説明する。コイツら、やっぱり、グルだったのか。俺の心配を返せ。
「......あのさあ、一個、聞いてええか?」
今まで沈黙していた平沢が不意に手を上げた。
「何だよ」
「えっとー、佐藤さんが、フィーネ? っていう、悪魔、やった......ってこと? てか、暁は何処まで知ってるん?」
「フィーネに関してはそう。吸血鬼だ。俺は店長が守人だったことと、お前がその世界に片足踏み入れてたこと以外は大体知ってる。逆にお前は何処まで知ってるんだよ」
「この世界とは別に、悪魔達が住む『向こうの世界』が存在してること。それと、十が人間に害をなす悪魔達を倒す守人の仕事をしてるってことだけや」
成る程、成る程、と俺は頷く。そして、一つの疑問が生まれた。
「お前、いつ、何処で店長と知り合ったんだよ」
「お前が辞めた後や。ワイもあの後、お前と同じように会社を辞めた。でも、再就職先は無いし、頼れる奴も居らん。路頭に迷ってたんや。そんなワイの前に現れたのが......」
「『みちびき』、だろ」
「よく分かったな」
「俺も自殺を決めて会社を出た当日、あの店に出会ったからな。其処で悪魔召喚用の魔法陣を買って、このちんちくりんの陰気サキュバスを喚びだした」
何か凄く言いたそうな表情を浮かべながらも、ステラは口をつぐんだ。ただでさえ、ややこしい話を更にややこしくすることは避けたいということなのだろう。
「ほんで、まあ、色々、その店で商品を見てんけどな。どの商品もピンとこんくてさ。唯一、ピンと来たのがコイツや」
平沢はそう言って、十を指差した。




