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第四十四話 痴話喧嘩


 翌日の仕事終わりのことである。フィーネが休んだため、何も聞くことが出来ず、憂鬱な気分で俺は家に向かっていた。

 こんな時はステラだ。ステラを喜ばそう。ステラの不意に見せる笑顔は抗うつ作用がある。コンビニスイーツをしこたま買って帰り、アイツに渡そう。


『私のこと、コンビニスイーツごときで喜ぶような女だと思っているの? もう少し、私を喜ばせる努力をしなさい』


 という声が頭に響く。恐らくアイツのテレパシーとかではない。俺の『脳内イメージステラ』だ。


『うっせえ黙ってろ』


 脳内のステラにそう言うと、近所のコンビニへと入店した。


「らーさしぇー」


 という、サキュバスに精気吸い尽くされたのかと疑いたくなるほどやる気のない『いらっしゃいませ』を聞きつつ商品を選ぶ。

 黒蜜わらび餅、ほうじ茶白玉団子パフェ、チーズケーキ、バームクーヘン、和洋揃えて四品の商品をカゴに入れてレジへと持っていった。


「ありゃーす。くりすぁすケーキのパンフレットいりゃたきますねー」


 『ありがとうございます。クリスマスケーキのパンフレット、入れときますね』か。マジで聞き取りづらいな。


「レジ袋は......あら、偶然。神は死んでいなかったのかしら」


 突如、やる気の無かった店員の声が低く、芯の通ったものになる。下ばかり見ていた俺は思わず、顔を上げた。


「うっそだろテメエ......」


 其処にはコンビニの制服を着た『赤髪』の姿があった。


「ふふ......僥倖。そんなに怖がらなくて良いじゃない。私はアナタの味方よ。アナタの妹を取り戻し、アナタに、この街に、寄生する醜悪な悪魔どもを駆除するのが私の役目」


「ステラが醜悪だあ? 殺すぞテメエ。アイツ、見てくれは死ぬ程良いんだから」


「容姿内面、どちらも悪魔は醜悪よ。アナタは操られているんだわ。可哀想に」


「黙れ。好き勝手言ってんじゃねえぞ。俺はアイツを自分で召喚して......」


 突如、何処からともなく彼女が拳銃を取り出した。


「......へえ、その話、聞かせてくれる?」


 突如、彼女の声が冷たくなる。先程までも十分、冷たかったそれが、更に。

 これはヤバいと俺の本能が叫んだ。しかし、これで黙るのも俺のプライドが許さない。俺は彼女の構えた拳銃に額をくっ付け、笑った。


「お前も知ってるだろ、あのペスト医を。アイツから買った魔法陣でステラを召喚したんだよ。もう、契約もしている」


 俺の言葉を聞いた赤髪は『......ぁはっ』という気味の悪い笑い声を上げる。


「成る程ね。兄が悪魔を召喚して、契約をするような害虫だなんて由香が可哀想で仕方がないわ。前からアナタ、由香に嫌われていたんでしょうね。......放火魔、捕まってないんでしょう? もしかして、アナタに嫌気が差して一家心中......」


「お前いい加減しろよ。殺すぞ」


 俺は額に銃が当てられながらも、赤髪の首根っこを引っ掴んだ。店内には俺と彼女しか居ない。......もしかしたら、裏に店長がいるかもしれないが。兎に角、客は俺一人だ。

 少しくらいトラブルになっても良いだろう。


「殺されるのは此方よ。害虫を生かしておく道理はないわ。由香にはよく、言って聞かせるわ。『アナタの兄は悪魔に魂を売った』ってね」


「さっきから知ったような口で由香由香、言いやがって......!」


 俺は赤髪の首根っこを引っ掴みながら、それを左右に揺らした。


「やったわね?」


 そう言うと彼女は拳銃を下ろし、俺の顔面を拳で殴ってきた。俺はそのまま後ろの商品棚にぶつかる。


「クソが......! 舐めんなよっ......」


 俺は再び、レジの方へと駆けていき彼女の拳を上手く躱すと、レジに飛び乗り、赤髪を踏み付けた。


「ふふっ、ふふふっ、やるわねアナタ。二度と立てない体にしてあげる......」


 俺を組み敷くと彼女は一方的に俺を殴り続けてきた。痛い。めちゃくちゃ痛い。でも、災厄に斬り付けられたときよりはマシだ。


「クソガキが調子乗ってんじゃねえよ......」


「あら、アナタ、何歳?」


「俺は今年で26だ」


「何だ。殆ど変わらないじゃない。私、今年で25よ」


「......お前、その歳で髪真っ赤に染めてんの? しかも、コンビニやらアニメショップで働いてるあたり、フリーターかよ」


「二度も私を怒らせるなんて、覚悟は出来て......」


「きゃあああああああああああっ!」


 コンビニの入り口の方からそんな声が聞こえてきた。新たに来店してきた客の声だ。


⭐︎


「えー、お兄さんが」


「暁楓です」


「成る程。其処に書いてね。お姉さんは?」


星加朱音(ほしかあかね)です。書きますね」


「は? 星加?」


「何か文句あるかしら?」


「......後で言う」


「うん、協力的で助かるよ。それでまた、何でコンビニで喧嘩なんてしちゃったの〜? 何かお兄さんの方が明らかに怪我多いし、お姉さんの方からやった感じ?」


「はい、コイツが先です」


「いえ、この人が先です」


「......困るなあ。というか、お姉さん、何歳? 高校生じゃないよね? 大学生?」


「24です」


「お兄さんは?」


「25です」


 息を吐くようにサバを読んだ。


「あー、そうなんだ。......アレか、痴話喧嘩みたいな? 元カレ、元カノとかそういう感じ?」


 メモをサラサラと取りながらそんなことを言い放つ警官。あの後、通報された俺達は駆けつけた地元の警察官により交番まで連れていかれたのだ。


「は? 違いますよ」


「こんな男と付き合った覚えはないです」


「......あー、あー、良いの良いの。多いのよ君達みたいなカップル。元、かもしれないけどさ。ただ、今回のはやり過ぎじゃないかなあ? 特にお姉さん」


「......ごめんなさい」


 素直だな。


「ま、今回は見逃すけどさ。君達、一緒に住んでる人とか居る? 居るなら迎えにきてもらいたいんだけど。帰り道でまた喧嘩されたら敵わないし」


「......俺は居ないですね」


「私は居ます。電話しますね。因みに其処の男にも居ますよ」


「あ、テメッ......」


「お兄さん、嘘ついちゃ駄目でしょ? お兄さんも電話して」


 嘘だろオイ。アイツに来てもらったらそれはそれで面倒臭いことになるぞ絶対。


「星加様がご迷惑をお掛けしました」


「ウチのペットがご迷惑をお掛けしました」


「......『様』? 『ペット』? どういう関係? 特にお兄さんとステラちゃん。年齢も全然違うよね......てか、そのツノ何?」


 誤魔化すのに一時間かかった。


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