第三十八話 相談
昼飯は何処で食べるか、なんてことを話しながらモール内を散策していると、突然、ステラが立ち止まった。
「どうした」
「......居る」
そうとだけ言うと、静かにステラはある飲食店を指差した。多国籍料理が味わえるバイキング形式の店のようだが、一体何が居ると言うのだろう。
「は?」
「店内の机に座っている奴、見て」
『何があるってんだよ......』と、ぼやきながら俺は目を凝らす。すると、其処には仲良さそうに飲食を共にする背の高い銀髪少女と小さな黒髪の少年の姿があった。
「チッ。うわ、マジかよ。一日に二度も会うなんてついてねえな。今朝は襲ってこなかったが、今回襲って来ない保証はねえ。逃げるぞ」
「......うん」
俺とステラがその場からそっと立ち去ろうとした、その瞬間
「逃がさない」
という声が俺とステラの背後から聞こえてきた。
瞬間移動か、高速移動か、何を使ったのかは分からないが、ついさっきまで店内で食事をしていた筈の銀髪少女が俺達の背後に現れたのだ。
「ここでやり合う気か? こんな人の多いところでやったらペスト医がすっ飛んでくるぞ」
「分かっている。だけど、逃しはしない。ケガしたくなかったら大人しく、従って」
「従うって、何に従えば良いの? 言っておくけれど貴方に命を渡す気は......」
⭐︎
「す、すみません、お姉さんが。......お二人とお話がしたかったみたいで」
小柄な黒髪の少年が苦笑しながら頭を下げる。銀髪の少女の俺達への要求、それは一緒に食事をすることだった。
「チッ。......お前、名前なんだったっけ」
「星加千隼です」
「あー、そうだったな。星加、お前は知らねえだろうけどな、この前、俺達はコイツに殺されかけたんだよ。そんな奴が何で俺達との食事を望むんだ」
「はむはむうまうま、もぐもぐぱくぱく、キラーン」
「しかも、本人はオノマトペを口に出しながら取ってきたご飯をドカ食いしてるし。......美味しそうに食べるね、災厄の癖に」
災厄は五枚の大きな取り皿の上に下品なほど大量の飯を乗せ、それを物凄い速さで口に運んでいた。災厄の胃袋ってもしかして、無限なんじゃないか。この店、潰れたりしないよな?
「ピキーン!」
「それはどういう感情なんだよ」
「......この前と随分、キャラ変わってるわね。いつもこんななの?」
と、ステラは星加に聞く。すると、星加はゆっくり頷いた。
「はい。何時も食べるか、僕のスマホでなぞなぞを見るかしてます。初めは僕も、住まいを提供すれば何でもやってくれるというのに引かれて住まわせることにしたんですけど。何か、最近、お姉さんを管理するコストが高すぎることに気付いて......」
「飯のことか?」
「い、いえ、お姉さん、食べなくても生きていけるらしく、食事は最悪、出さなくても我慢してくれるんですけど......。それ以外に色々、大変なんですよね。直ぐに人を殺めようとするし」
「......確かにサキュバスと人の同棲でも大変なのに、災厄との同棲、ってなれば更に大変でしょうね。倫理観がズレているどころか、欠如してるでしょ。その娘」
同情するようにステラは言う。俺はドリンクバーで淹れてきたアイスコーヒーを一気飲みすると、溜息を吐いて口を開く。
「そもそも、何で『災厄』の力なんて借りたかったんだよ」
「災厄、とかよく知らなかったんですけど。......お姉さんの力を使えば、日頃、僕のことを虐めてくる奴らを見返せると思って。お姉さんの力を使ってアイツらに、復讐がしたくて」
その言葉を聞いたステラは『どう思う?』という風な視線を俺に向けてきた。その視線から逃れるように俺は顔を逸らす。
随分、訳アリな様子だ。俺もステラもこういった話題に何か言えるほどの大人ではない。
「おいコラ、災厄。食ってねえで話に加われ」
ムシャムシャムシャと俺達そっちのけで飯を食う災厄に俺はそう言う。
すると、彼女はムッとした表情をしながらもスプーンとフォークを動かす手を止めた。
「......私はよく分からない。チハヤに危害を加える奴を全部、殺すことなら出来るけど。それをチハヤは望んでない。何も分からない。だから、二人を呼んだ。チハヤと話せるように」
「はあっ!?」
「......相談相手になれ、ってことね」
「君達なら、こっちの世界のこともあっちの世界のことも知ってるし、なぞなぞも得意だし。良いかなって」
なぞなぞ関係ねえだろ。後、俺は一度たりともコイツのなぞなぞを解いたことはない。
「お姉さん、そんなこと聞いてませんよ! 二人とも、すみません! ......というか、そもそも、お姉さんにそんなこと考える知能あったんですね」
「ショック」
星加、意外と口悪いな。
「そもそも、お前、何歳?」
「15です。来年の二月に16になります」
「高一。てことは、虐めの現場は高校か」
「はい。僕の高校、地元集中の高校で、中学時代の虐めっ子達がそのまま高校でも虐めてきてる感じです」
つまり、中学校の頃から虐めはあったと。
「虐め、って具体的にはどんなことをされるの?」
ステラの質問に星加は
「僕、親と仲が悪くて、今、死んだおばあちゃんが住んでた家に一人暮らししてるんですけど。親が殆どお金くれなくてアルバイトをしてるんです」
と、前置きをしつつ
「......そのアルバイトで稼いだお金をカツ上げされたりするのが一番、被害が大きい奴ですね。他にも暴言とか暴力とか......ああ、苛ついてきた。本当はお姉さんに殺して貰いたいくらいなんですけどね」
と、低い声で言った。
きっと、普段は歯を食いしばりながらそういった行為を受け入れているのだろう。星加は溜まりに溜まった怒りを放出するように指の腹で机を叩く。
「金まで奪ってきやがるのか。......おい、どうにか出来ねえのか」
「いや、私に言わないでよ。人間の世界のことよく分からないし。あなたが何とかしてあげられないの?」
「星加となんっの関係もない筈の男が通報したところで俺が怪しまれるだけだろ」
「確かに。本来なら一切、繋がりの無い筈の二人だもんね」
「まあ、だから何だ。本当はお前の親を頼るのが一番なんだが」
「......無理です」
「だよなあ」
高校生、まだ18歳ですらないのに一人暮らしをしているのだ。相当、親との仲が悪いのだろう。聞いている限り、頼れる親族も居ないようだし。どうしたものか。
「教師は?」
「見て見ぬフリをしています。言うだけ無駄ですし、そんな教師に言う勇気も無いです......」
「......そうかあ」
先程も言った通り、この少年と俺には何の関係も無い。したがって、この少年の問題は俺の問題では無い。だから、俺が悩む必要と無いのだが。
「俺の妹も、お前みたいに虐めを受けてた時期があったから、何だか他人事じゃなくてな。......出来ることは少ねえし、お前もこんなおっさんとサキュバスを頼りたくねえだろうが、やれそうなことはやってみる。......おい、災厄」
「何」
「俺達の命を平気で奪おうとした、てか、今も狙ってるようなテメエが何でソイツに肩入れしてるのかは分からねえが......守ってやれよ。テメエの出来る範囲で」
「うん。そのつもり」
全く、面倒事ばかりだ。最近は。




