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第三七話 二人


 映画を見るという当初の目的を果たしたことで、することが無くなり、適当にモール内をブラついていた俺達。

 映画館での一件からずっと、ステラは無言だ。


「ねえ」


 少し心配していると、不意に彼女が声を発した。少し、俺は安心する。


「あ?」 


「さっきのって、私への告白?」


「......一回、頭冷やして来い」


 急に何を言い出すんだコイツは。


「『嫌いじゃない』。それってつまり、『好き』ってことだよね」


「違えわ。嫌いでも好きでもない、かもしれねえだろ」


「あなたは私のこと、嫌いでも好きでもないの?」


「・・・・」


「黙らないで」


「......嫌いじゃねえ」


「答えになってない。ちゃんと答えて」


 体を寄せてそう迫ってくるサキュバス。何だコイツ急にウザすぎだろ。


「だああああああっ! うっせえ! んなこと聞いてどうなんだよ! 第一な、好きでも嫌いでもない、程度の奴の為に俺は自分の腕を切り付けたり、アンドロイド悪魔と契約したりしねえよ!」


 人目を憚らずにそう叫ぶ俺。言い終わってから周りの目が痛くなった。流石に公共の場所で出す音量ではなかった。

 しかも、何だよ腕を切り付けるって。何だよアンドロイド悪魔って。何も知らねえ奴が聞いたら頭の中がハテナで埋め尽くされるだろ。


「ふうん......好きなんだ。私のこと」


「テメエはサキュバスだ。オスの一匹や二匹、魅了して当然だろ。俺はテメエ自身ではなく、『クイーンサキュバス』に魅了されてるに過ぎねえ。勘違いすんなよ」


「人とサキュバスの恋愛程、ロクでもないものはない。悪いけど、あなたの好意に応えるつもりは無いから」


「話聞けや! アホか! だから、俺は特別テメエに好意を抱いてんじゃなくてテメエの種族特有の力によって魅了されてるだけなんだよ!」


「冗談。あまり熱くならないで。まるで、『ステラ』が好きなのを隠してるみたいだよ?」


 澄ました表情で俺をそう煽るステラ。ムカつく。


「はあ......俺に力が有ればぶん殴ってやるのに」


「もう一つ質問良い?」


「んだよ」


 俺がそう相槌を打つと、急にステラは俺の耳元に顔を近づけてきて


「あなたは『ステラ』のこと、好き? 嫌い?」


吐息混じりにそう聞いてきた。

 体がブルルと震える。耳に息が当たったこそばゆさと、質問の内容のせいで。


「...... 何でんなこと聞くんだよ。猫がキャットフードに向かって自分を好きかどうか聞いてるようなもんだぞ。サキュバス様にとって、人間のオスが自分を好きかどうかなんてどうでも良いことなんじゃねえの」


「いくら、栄養補助食くらいにしか思ってないとはいえ、一応、私が初めて出会った人間のオスだからね。人間のオスを食いまくってるサキュバスとは感覚が違うのよ」


 せめて主食であって欲しかったところだ。


「......さっき言った『好きでも嫌いでもない奴の為に自分の腕を切り付けたりしない』って奴。アレは俺が『クイーンサキュバス』に逆らって『テメエ』の為にしたことだ」


「つまり?」


「恋愛的な意味かは兎も角として、少なからず好きではある。色々、感謝してるしな」


「......そう」


 彼女の表情が僅かに柔らかくなったのを俺は見逃さなかった。


「んだよ、クイーンサキュバス様。栄養補助食に好きって言って貰えて嬉しいのか」


「違うけど?」


「んな強く否定しなくても良いだろ」


「悪いけど、私はあなたのことを対等な生物としては見ていない。下等生物。オス。栄養補助食。そうやって見ているのは全部、本当。あなたが思っているほど、私は『人間に近い』サキュバスじゃない」


「......いや、俺もテメエが人間に近いなんざ思ったことねえが。何時も家畜を見る目で精気を搾ってくるし」


「なら話は早いね。私はあなたのことを下に見てる。蔑んでる。......だから、そんな、下等生物が『チャーム』に逆らってまで私を生かそうとしてくる事実に驚いていた」


 少し、憂いの感じられる表情でほんの少しだけ笑いながら彼女は続ける。


「人間のオスなんて直ぐにサキュバスに魅了されて、自我を失っちゃう愚かな下等生物だと思っていたから。......チャームを掛けている訳でもないのに私に魅了されているあなたに興味があるの」


 『まあ、理由は違えどあなたも愚かなのに変わりはないけどね』と付け足すステラ。どうやら、俺がステラのことを好きだったのはかなり前から見破られていたらしい。


「俺も興味があるな。見下して、蔑んでる下等生物を気遣ったり、マトモに相手しているサキュバス様に」


「......言うね」


 彼女からの反論は無く、事実上の降伏宣言のようなそんな言葉が返ってきた。


「俺を奴隷化でも、家畜化でも、何でも出来る癖に、テメエは『クイーンサキュバス』という台から頻繁に降りてきてわざわざ俺と対等な存在として生活している。それは何故なんだ? サキュバス様」


「......愛玩動物は家族でしょ。それに、自我を壊してしまうなんて勿体無い。あなたが、痛みに苦しむ姿、恐怖で顔を歪ませる姿、快楽で白目を剥く姿、全部、見たいから」


 予想以上に恐ろしい答えが返ってきた。


「痛みと苦しみで悶絶する俺なら、この前の厄災の件で散々見れただろ」


「私が与えるものじゃなきゃ嫌。他人が与えた苦痛で悶えるあなたを見てもちっとも、面白くない」


「......サキュバスって、全部そんななのか」


「さあ。多分、違うと思うよ」


「・・・・」


 微妙な表情でステラを見つめる俺。何だかこれから、ステラを見る目が変わりそうな気がする。


「安心して。今までもそんなこと、あまりしてこなかったでしょ。......私はあなたのことを下等生物だと思ってるし、苦痛を味合わせたらどんなに甘美だろうとも思ってるけど」


「けど?」


「私とあなたは『クイーンサキュバスと下等生物』以前に『ステラと楓』でしょ。私があなたと対等に接する一番大きな理由はそれ。......最近はね」


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