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第二十九話 襲来


「ぶっこおす!(ぶっ殺す) ぶっこおしてやう!(ぶっ殺してやる)」


「......ん、ご馳走様。美味しかったよ、あなたの精気。やっぱり、精気を搾るなら耳からだね。あなたの反応も良いし」


 俺はやっと悶絶地獄から解放された。魔法で無理矢理閉じられていた口も、開くことが許される。


「時と場弁えろ! テメエに吸わせるのは俺の義務だから仕方ねえが、外でやんな! 外で!」


「......わざわざ、人気のない路地裏に移動したし、あなたの叫び声が響かないように口も閉じさせてあげたよ?」


「いや、幾ら人気が無いとは言っても誰も来ねえ訳じゃねえんだから止めろ。生きた心地がしねえんだよ」


「チュウッ」


「ひうっ!? 話聞け! ぶん殴るぞ! 大体、何で家まで我慢出来ねえんだよ! 禁断症状か! てか、毎朝欠かさず吸わせてやってるだろ。アレで満足しろ。こっちは毎日、アレのせいで仕事に遅れそうになるんだよ!」


 そういう時はステラに職場まで飛んで貰うのだが、未だに空を飛ぶのは慣れない。俺は愛車であるあのバイクに乗ってやりたいのにコイツのせいで......。


「はいはい。早く帰ろう? 今日も精力の付くご飯作ってあげるから」


「それ俺の為じゃなくて、テメエの為だろ。恩着せがましく言うな」


「......別に干物になるまで一気に精気を吸っても、徐々に吸う量を増やして衰弱させていっても私は良いんだよ? 生かして貰ってるだけ感謝して頂戴。下等生物さん」


 ときたま、ステラが見せる残酷で恐ろしい悪魔としての顔。それに最初はゾッとしていたものだが、最近はすっかり慣れきってしまった。一度、捨てた命だ。ステラに奪われるのなら悔いはそれほど無いし、悪魔からすれば人間は下等生物以外の何物でもない。

 彼女は本気で俺の殺害を自らの行動の選択肢に入れているのか、そんなことはどうでも良い。ただ、出来ることならもう少し生きてみたいと思う。ステラともう少し一緒に居たい、そういう願望が無いといえば嘘になる。


「自分の精欲のコントロールもロクに出来ない上等生物のサキュバスサマに質問があるんだが」


「精欲って、言わないで。淫魔なのに性欲コントロール出来てないみたいになるじゃない」


「お前、向こうの世界の連中がこっちの世界の奴らに手を出すのはタブー、みたいなこと言ってたよな? それ、俺にも当てはまらないのか?」


 俺はステラの抗議を無視してそう質問をする。ずっと、気になっていたのだ。何故、人間に対して危害を加えることをタブー視してる彼女が俺にだけは『お前なんていつでも殺せる』と脅してくるのかが。


「ああ......うん、あなたは当てはまらないよ」


「何故に」


「悪魔を召喚した人間だから。自分で悪魔を喚んで、悪魔に殺されても、それは自業自得というか、自己責任。というのが、守人(もりびと)の総意だと思うよ」


「はあん。成る程な。......おい待て。守人? 新出なんだが、その用語。注釈付けろ」


「ああ、言ってなかったっけ。こっちの世界には守人って言われる、先祖代々、人間社会を向こうの世界の悪魔から守ってる人達が居るんだよ。多分、日本にも結構居るんじゃないかな」


「......重要も重要、最重要レベルの用語じゃねえかそれ。もっと、早く言えよ。アホか」


「だって、あなた、召喚者だからそれを知ったところで恩恵無いし」


「まあ、そうなんだけどよ。てか、何だ? その守人って奴は人間なのか?」


「さあ? 私も詳しくは分からない。でも、人間と子供は作れるよ」


「悪魔は?」


「......そんなこと知ってどうするつもり? 作らないよ、あなたとは」


 俺から一歩退いて胸を手で隠すようにしながらステラはそう言う。彼女にとって俺は雑魚同然だから退く必要も無ければ、隠す胸も無い癖に。


「止めろその反応。つまり、作れるんだな」


「一応ね。人間と子供を成したサキュバスの末路なんてロクなものじゃないけどね」


 何時も言ってるなそれ。


「てことは、守人の正体は悪魔って説も無きにしも非ずか?」


「考えたことなかったけど、まあ、そうだね。守人っ、多分、私とマクスウェルとフィーネが束になって勝てるかどうか、ってレベルで強いし」


 だから、向こうの世界の連中はこっちに中々、手出し出来ない訳か。


「向こうの世界に守人レベルで強い悪魔って居るのか?」


「......それこそ、私の親とか、最上位種族が鍛えたらそのくらいの強さになると思うよ。まあ、仮に私の親がこっちに侵攻したら幾人もの守人で対応されて終わりだろうけど」


「あー、何人もいるんだもんな。守人」


「後は、まあ、厳密に言うと、悪魔じゃないけど......」


 ステラの言葉はそこまでしか俺の耳には入らなかった。彼女が言葉に詰まったのではない。巨大な爆風と爆発音で彼女の言葉がかき消されたのだ。

 そして、その爆風と爆発音に紛れて一人の少女が俺達の目の前に現れた。黒いワンピースを着て、頭に黒いビッグリボンを付けたゴスロリ風の灰髪ショートの両手には、真っ黒でギザギザした形の大剣と真っ白で刃が真っ直ぐな大剣が握られている。

 空から落ちてきたのだろうか。コンクリートの地面は完全に砕け散って、穴が空いている。此処が車の通る道ではなかったのが唯一の救いだろうか。


「おい、アレ、お前らのところのだろ。公道を破壊するとかいう一般人に迷惑を掛ける行為やってるが、守人案件じゃないのか」


 俺はステラの肩を軽く叩いてそう聞く。しかし、ステラは呆然と少女を見つめるだけであった。


「剣、こっちに向けてるぞアイツ。まさか、フィーネ達と同じく、お前への刺客か......?」


 俺は少し焦りながら聞く。しかし、ステラは首を振った。ならば、安心だ。それにしては殺意を感じるが。


「アレは悪魔じゃない。さっき言おうとしてた、単身で守人に勝てるかもしれない存在。『災厄』だよ。そして、恐らく、敵。いや、『災厄』に敵と味方の区別があるのかは謎だけど。最悪、一般人にも死傷者が出るかもしれない」


「......どうやら、一緒に骨を埋めることになりそうだな」

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