第二十八話 伽藍堂
ずっと、伽藍堂だった。自分の中を埋めてくれるモノをずっと探していた。不死に近しい体と圧倒的な力、その二つを持ってしても満たすことは出来なかった。
あった感情は二つだけ。それは欲しいモノを得られず、欲しいモノが何なのかもよく分からない自分への憤怒とそれが何なのかは分からずとも、確実に自分の欲しいモノを持っている他者への妬みだ。
「......貴様を此処から先に行かせる訳にはいかない。元の場所に帰れ」
トボトボと目的地へ向かっていると、前に金髪の騎士が立ちはだかった。目は直ぐに彼女が混血であることを見抜く。
「......ただの雑種か。退かないと殺す」
「私はヴォルフ家の騎士。雑種呼ばわりは止めて貰おう」
騎士にはそれが消えたように見えた。いや、『消えたように見えた』のか、『消えた』のか、騎士には判別出来なかった。
「......さよなら」
騎士は声のした方向に剣を振る。しかし、当たらない。当たらないどころか頭部が熱い。脚にも痛みを感じる。
「っ!? 貴様っ!」
騎士の頭部は燃え、脚には至る所に深傷が出来、血がドロドロと流れ始めていた。何をされたかも分からない恐怖、自分の剣が全く歯が立たなかった恐怖、これから自分は殺されるのだという恐怖、沢山の恐怖が僅かな時間で騎士の心に込み上げてきた。
恐怖に顔を歪ませながらも最期まで戦い続けようと剣を握る騎士を置いて先に進んだ。何故、無力なのに戦おうとするのだろう。そんな疑問を感じながらひたすら歩き、目的地へと着いた。
「ご足労かけてすまなかった。茶は?」
「要らない」
「そうか。......では、早速、本題に入ろう」
⭐︎
憤怒と妬みしか、感情が無かった筈なのに、新たな感情を覚えた。それは『期待』。これから起こるであろう、自らの中を満たしてくれる出来事への期待で胸を膨らませていた。
幾人もの人々が絶えず右からも左からも歩いてくる。そんな光景が珍しくて、不思議と目が開いた。
「あ......」
彼女の目に止まったのは妊婦と歩いていた幼子が落とした小さな本。徐にその本を手に取り、捲り始めた。
「無敵の魚って、なーんだ......。ヒントは......京都に居るよ。......京都って何処」
少女は首を捻りながら答えを見た。
「西京焼き......?」
聞いたこともない言葉に首を傾げる。しかし、その本は確実に心を掴んだ。自らがしようとしていたことを忘れて、その本を読み耽った。
「......暗い。もう、夕方?」
西の空に真っ赤な太陽が沈んでいくのを見て、自分が長時間、『なぞなぞ』の本を読んでいたことを理解した。少し深呼吸をすると、ゆっくりと歩き始めた。
「あ、居た居たー! こんにちは、こっちの世界は初めてでしょ。ボクがアッシー君になってあげるよ......使い方あってんのかなこれ」
そろそろ行こう、目的を果たしに。満たさなければいけない。




