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第二十四話 不明瞭


「ステラ」


「......え?」


 俺とステラが初めて出会った場所に、やはり彼女は居た。背後から声を掛けると、彼女は驚いた様子で振り向く。俺はそんな彼女の胸ぐらを引っ掴んだ。


「何してんだよテメエ......」


 胸ぐらを掴まれたことに多少は驚いたようだが、彼女は抵抗する様子を見せずにただただ目を丸くしていた。


「え? いや、どうしてあなたが此処に? 何で場所分かったの」


「マクスウェルに協力して貰った」


「こんにちは。先程はどうも」


 光学迷彩を解き、突如、現れたマクスウェルにステラはビクリとする。ステラ程の悪魔でもマクスウェルの気配を感じ取ることは出来ていなかったらしい。


「......貴方がタダで彼に力を貸す訳がない」


「私の方からは特に何も要求していません。ただ、人間が礼をしたいということで極めて安全な実験に後日、付き合って頂くことになりましたが」


「ふうん。つまり、契約はした訳ね」


 少し、不機嫌な様子でそう呟くと、ステラは俺の足を強く踏んできた。


「いってえ!? 何すんだテメエ!」


「契約したのか、俺以外のヤツと......って、ところかな? サキュバスに対して執着する人間も相当だけど、人間のことで他の悪魔に嫉妬するサキュバス、ってのも気持ち悪いなあ」


 クスクスとそんな笑い声が何処から兎も角、聞こえてくる。驚いて辺りを見回すと、さっきまで誰もいなかったマクスウェルの横の空間にフィーネが立っていた。


「フィーネ。何故、貴方が居るのです」


「んあ? お姉ちゃん、気付いてなかったの? ずっと、魔法で隠れながら二人の後を追ってたんだよ。まだまだだなあ。......あ、私はただの野次馬なんで居ないものとして扱って下さい」


「だったら、ずっと黙ってて」


「帰れ」


「せめて、邪魔だけはしないで下さい」


「皆、当たり強ない? マジチョベリバ」


 取って付けたようなチョベリバ止めろ。


「何でよりにもよって此処を死に場所にしようとしてたんだよ」


 俺は溜息を吐き、彼女の胸ぐらから手を離してそう聞いた。


「......分からない」


「はっ。じゃあ、やっぱり、死のうとしてたのは認めるんだな」


「......分からない」


「は?」


「自分がどうして此処に来たのか、自分が何をしに此処に来たのか、自分でも分からない。多分、自殺のために来たんだと思うんだけど。今の私は自殺をしたいのかどうかも分からなくなった。あなたのせいで」


 弱々しい声で俯きながら彼女はそう言った。


「お前に分からねえことが俺に分かる訳ねえけどよ。......もしかして、お前、俺がこうしてお前を追って来て、自殺を止めにくるのを期待してたんじゃねえか」


「え......?」


 ドキリとした表情で声を漏らすステラ。


「お前の力なら半日でも、丸一日でも、俺を寝かせておくことが出来た筈だ。それなのにお前は俺を2時間程度しか眠らせなかっただろ」


 彼女もまさか、俺がマクスウェルを頼って自分の座標を割り出してくる、なんて可能性は考えていなかった筈だ。二人の始まりの地である此処を死に場所に選んだのもそういうことなのかもしれない。

 ステラは下唇を噛み、俺から目を逸らす。そして、徐に苦笑すると、話を始めた。


「......以前から抱いていた強い自殺願望、それがあなたのせいで揺らいできていた。でも、それを私は認められなかった。気付くと願望は義務へと変わり、早く自殺をしなければという焦りを覚えるようになっていた。でも、それと同時に本当に死ぬべきなのかという疑問も湧いてきて、よく分からなくなった」


 『だから』とステラは話を続ける。


「私が姿を消すことがあなたを追い詰めることになれば良いのにな。追い詰められたあなたが私の為に此処へと辿り着いてくれたら、私は救われるかもしれないな。なんて考えを無意識のうちにしていたのかもしれない。如何にも私が考えそうなことでしょ?」


「ああ。面倒臭くて、ジメジメしてて、何と無く嫌いになれない、その思考回路はお前のだな、完全に」


「......ごめん。迷惑、掛けまくって」


「全くだ。ほら、帰るぞ」


「うん。後、その、貴方にも迷惑掛けたわね。ごめんなさい」


 ステラがそう言って頭を下げた方向には白目を向いてぶっ倒れているマクスウェルの姿があった。


「お姉ちゃんならまた、バグ発生でスリープモードだよ」


「虫が苦手なのにこんな山ん中まで来てくれたんだ。後で、菓子でも持って行くぞ」


「ごめんなさい......」

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