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第二十三話 特定


 思いがけぬマクスウェルからの一言に俺は目を見開いた。彼女の目を見つめる。ゴーグルをしていてどんな目をしているかは分からない。しかし、強く、真剣な視線を感じた。


「良いのか? アイツはお前らの敵だろ。さっきまで殺そうとしてた。......フィーネは兎も角、お前が協力してくれるとは思わなかったんだが」


 一応、マクスウェルも呼んではみたものの、彼女の生真面目さからして協力に応えてくれる可能性は低いだろうと考えていた。

 どちらかというと俺は先程から俺に協力的だったフィーネに期待を寄せていたのだ。


「我々に命じられた任務はただ一つ『ステラ・フォン・フォーサイスという脅威の排除』です。これは『彼女を殺害すること』とも解釈出来ますが、『彼女の帰還を阻止すること』とも解釈出来ます。元より私には彼女を殺害するつもりはありませんでした」


 淡々とそう話すマクスウェル。それを聞いて少し彼女達に対して感じていた緊張感が和らいだ。確かにサキュバスの女王が危惧しているのは第一皇位継承であるステラが此方の世界から向こうの世界に戻ることだ。ステラが此方の世界に骨を埋めるのならば、殺す必要は無い。


「と言っても、自殺してくれるならボク達は助かるんだけどねー。さっき見た感じだと、前よりもお姫様、強くなってそうだったからさ。ボクら二人でも拘束して、向こうの世界に戻る力を削ぐのは難しそう」


「というか、もう、帰ってるかもしれねえな。......そっちの世界に」


 召喚された悪魔は召喚者を殺すか、召喚者と契約を交わすまで自殺をすることも、向こうの世界に帰ることも出来ない。しかし、彼女はもうその制約から解放されたのだ。死に場所を探しに、帰っている可能性も否定は出来ない。


「いや、無いと思うなあ。だって、お姫様にとって向こうの世界なんて正に地獄でしょ。母に殺されかけ、匿ってくれた貴族も殺され......って。お姫様、召喚してくれたキミに感謝してるんじゃないかな」


「......感謝してんなら、死のうとしたりしねえよ」


「ま、兎に角、ボクはお姉ちゃんが助けるって言うなら止めないよ。お姉ちゃんも暁クンのこと、面白いって思ったんでしょ?」


「......貴方と一緒にしないで下さい。人間、早く行きますよ。手遅れにならないうちに」


 マクスウェルそう言うと俺の体をまたしてもアームで掴んできた。今度は腰ではなく、腹だ。しかもかなりガッチリと掴まれた。


「おい待て。お前、どうやってステラのこと探すつもりだ」


「彼女はサキュバスです。羽があります。当然、短時間で様々な場所に行くことが出来る。となれば此方も飛ぶしかありません」


 そう言うとマクスウェルはバサッという音を立てて蝙蝠のような羽を背中から出した。彼女の背中からは既に幾つものアームが伸びており、更に羽まで出したことでいよいよ彼女の背中がカオスなことになる。


「お、おい待て。お前まさか......!?」


「発進します」


 そう言うと彼女は俺をアームで掴んだまま空へと飛び立った。フィーネと地面がどんどん離れていく。みるみるうちに高度が上がっていき、街が小さくなる。

 これは、駄目だ。


⭐︎


「失神を確認。人間、起きて下さい」


 体がビリリと痺れた。


「いってっ!?」


「意識を喪失していたようなので、電気ショックを加えさせて頂きました」


「......さらっとエグいことすんな。てか、これ、飛んでるところを人に見られたらヤバいんじゃないか?」


「光学迷彩等の技術で他者からは認識出来ないようにしています。ご安心ください」


 マクスウェル、どんだけ万能なんだ。


「人間」


「あ?」


 俺は下の景色を見てしまうのを防ぐため、目を瞑りながら相槌を打つ。


「先程の話に戻ります。貴方は彼女を『家族』と言いましたね。その理由は?」


「お前、何かさっきも其処に反応してたよな......」


「私も家族を、弟を......亡くしているので。手術を受ける前のことで、彼の顔さえ覚えていないのですが。......しかし、私の中にはセキュリティホールのような、何かが確かにあります。心の穴、と言うべきでしょうか」


 先程まで感じていた恐怖感が一気に薄れた。彼女の話に意識を集中させたからだ。


「俺も、両親と妹を亡くしてる。......だから、自分の気持ちを誤魔化すためにアイツを家族として認識してる。それだけだ」


 過労、家族の死による極度の精神的苦痛、この二つに苦しんでいた俺を救ってくれたのは紛れもなくステラなのだ。知らず知らずのうちに俺はアイツに依存していた。だから、こうやってアイツが居なくなると喪失感が酷い。まるで、あの日の再現のようで。


「申し訳ありません。こんな話をして」


「構わねえよ。それより、アイツは見つかりそうか?」


「......いえ、残念ですが今のところ、彼女のものらしき反応は。あっ」


 その時、マクスウェルが柄にもなく、驚いたような声を漏らした。


「どうした」


「ステラ・フォン・フォーサイスの魔力の波動を捉えました。生きています、恐らく。少々、お待ち下さい。......魔力の発信源、特定。対象の静止状態を確認。行きましょう」


 マクスウェルは全速力で俺をアームで持ちながら飛んだ。


「ありがとう、マクスウェル......」


「いえ、これは貴方の家に不法侵入してしまったお詫びのようなものですから。後、私の気まぐれと」


「それでも有難い。やっぱ、何か代償払うわ。軽いものなら。何が良い? 寿命とかなら十年くらい取ってくれても良いぞ。そんなに無いかもしれないが」


「命も寿命も必要ありません。......ただ、そう言って下さるなら、またいつか、私の実験にお付き合い頂きましょうか」


「契約成立、だな」


 ステラの現在地の特定に成功したマクスウェルは全速力で彼女の元へと向かった。俺は気絶しかけたが、どうにか耐え、目を開き続けた。そうして俺達が着いたのは山に囲まれた田畑が広がる農村地帯。鳥の囀りと鉄道の音だけが響いているような田舎であった。


「この辺りにいるようです。更に正確に彼女の魔力の波動を捉え、座標を割り出します」


 と、マクスウェルは言うが俺は首を傾げた。何故、ステラはこんなところに来たのだろう。山奥なら、死体が見つかりにくいと考えたのか?

 んなこと、俺もこの前、考えてたな。


「......あ」


「如何しましたか?」


「俺、アイツの場所分かるかもしれない」


「何故です?」


「此処、俺とステラが初めて会った場所の近くなんだよ。今、気付いたけど」


 俺がこの地を訪れたのはこの前が初めてであり、この前訪れたときは真夜中だった。直ぐに分からなかったのも無理はない。


「つまり、彼女は人間と初めて出会った場所に居るかもしれない、と」


「わざわざ、この場所に来たんだ。アイツが行くとしたらあそこしかないと思う」


「......確かにその可能性は高そうです。正確な座標の割り出しには時間が掛かりますし、まずは其処に向かいましょうか」


 待っていろよ。ステラ。俺の執念を見せてやる。


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