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第百二十話 出撃


「作戦を再確認する。まず、ゲートは『エデン』という街の郊外に開き、そのまま全員でエデンへ移動。エデンにおける俺達の目的は腕の良い治癒魔法の使い手を確保することだ。一応、俺に宛がある。交渉はあんまり人をゾロゾロ連れて行ってもアレだから、俺とステラとマリアナの三人で行う。残りの奴らは街の中で待機しといてくれ。その後は再び、エデンからサキュバスの城近くへゲートを開いて移動。城に忍び込んで薬草を奪う。城での詳しい作戦はエデンで詳しく確認しよう」


 俺は自分の家のリビングに集まった、マクスウェル、ラプラス、フィーネの三人を見ながら言った。彼女らと俺、ステラ、マリアナの計六人が今回の作戦の参加者である。


「人間、もし、その治癒術師との交渉が失敗したらどうするのですか」


「......そうなったら成功率は下がるかもしれねえが、十に頼むしかねえな。他の治癒術師も居るには居るだろうが、見つけるのは現実的じゃねえ。その間に由香の状態が悪化することも考えられる」


「理解致しました」


「まあ、任せろ。こっちも相当、交渉材料握ってんだ。コレとか、コレとかな」


「私のことをコレ呼ばわりするとは、あなたも随分、偉くなったね。焼き殺すよ」


「コレ、って、マリアナのこと? マリアナ、役に立てる?」


 『コレとコレ』が口々にそんなことを言い出す。


「ああ。アイツはお前みたいな奴の話、聞きたがると思う。ステラのことは今度、連れてくるって約束してるしな。まあ、ケチくさい奴じゃねえし、交渉の方は問題ないと思ってる」


「はいはーい、フィーネたんは何やれば良いのかな?」


「お前は戦闘と小賢しい作戦の立案」


「ボクの得意分野だね」


 自分のことをよく分かっているらしい彼女は少しも不快な顔をせず、そう言って笑った。


「後、マクスウェルにもブレーンとしての役割を期待してる。宜しく頼む」


「お任せ下さい。作戦面において、この小賢しい女には負けません」


「暁クンに言われてもあんまり効かないけど、お姉ちゃんに言われると傷付くなあ」


「私は貴方を信用していません。一体、いつ、裏切るつもりですか? そもそも、サキュバスの城に由香を救う薬草などないのでは? 全て私達をサキュバスの領域に誘い込むための罠、という可能性もあります」


「ひゃ!? い、いや、ぼ、ボクが裏切るワケナイジャン......し、信用してくれていいよ。暁クンの妹がちゃんと元に戻るようにボクが導いてあげる」


 わざとらしい反応をするフィーネにマクスウェルは溜息を吐き、俺の方に視線を飛ばした。


「人間、安心して下さい。貴方は私が守ります。この女に背後から切り掛かるような真似はさせません」


「お姉ちゃん、私のことを何だと思ってんの」


「アナタが今までやってきたことのツケでしょ。それを分かっているのに、分かっていないフリをするところもかなり悪質ネ」


 不意に口を開いたのは赤髪の守人、朱音。彼女は守人であるため、此方の世界では無類の強さを誇るものの、向こうの世界では極端に能力に下降補正が掛かってしまう。そのため、今回の作戦への参加を断念せざるを得なかった、と先程話していた。

 『ワタシが操られていたせいで、由香があんな風になってしまったのよね......それなのに、何もできないなんて歯がゆいワ』ということらしいが、悪いのは全部あの神を名乗る気味悪い天使なのであまり責任を感じないでもらいたい。


「お前、もう身体は大丈夫なのか?」


「ええ。お陰様で。......アナタの帰る場所はワタシが守人として、しっかり守っていてアゲル。頑張ってね。アナタの帰りをいつまでも待っているワ」


「ありがとう。由香のことも時間があったら見に行ってやってくれ」


「頼まれなくたってそうする」


「それじゃあ、そろそろ、行くか。朱音、腹減ったらウチの食材食っててくれて良いからな。帰ってきたら痛んでそうだし」


「あ、ホント!? 助かる! カエデ愛しているワ!」


 不安そうだった彼女の表情が突然、輝き出したのを見て俺は苦笑した。


⭐︎


 彼を見送ってから一時間と十数分。彼の家のこたつに下半身を突っ込みながら一人、気を失うように寝ていた。


「......人間君達、もう行った?」


 そんな声に起こされて目を開く。桃色の髪を腰まで伸ばした、軍服のような服を着た女性だった。その頭上の輪を見てすぐにその正体を察する。


「話には聞いていたけれど、寝ていたとはいえワタシに気配を悟らせないとは中々のものネ」


「そう? お褒め頂き光栄だわ」


 本当。あまり自分の姿を見たことはないけれど、容姿はよく似ている。


「その口ぶりだと、アナタのせいで今も生死の境目を彷徨っている少女がいること、分かっているみたいね」


「......お茶でもしないかしら? 朱音さん。ケーキ、買ってきたのよ」


「どうも敵意はないらしいわネ。いいわよ、『厄災』......いいえ、彼が名付け親ならこう呼ばざるを得ないわね。天音?」

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