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第百十八話 生きる理由


「という訳で、急遽、向こうに行かないといけなくなった。フィーネと......後、マクスウェルとラプラスが協力してくれるらしい。でも、このメンツだとゲートが開かなくてな。ゲートを開くだけ協力してくれると助かるんだが」


「良いよ。行ってきてあげる。あなたは待ってて」


「......話聞いてたか?」


「聞いてたよ。妹のためにサキュバスの城にある薬草が居るんでしょ。私が一人で取ってきてあげるからあなたは家で待ってて」


「話聞いてたなら何でそんな結論になるんだよ。俺とフィーネ、マクスウェルとラプラスで行くって言ってるだろ」


「逆に聞くけど、どうしてそのメンバーの中に私だけが入っていないのかしら。もしかして、私じゃ力不足だと思ってる? 少し自分がマシな戦闘能力手に入れたからって驕り高ぶらないことね」


「いや、ちげえよ。......サキュバスの城っていうと、お前、色々とアレだろ」


「アレって? 私がサキュバスの皇女だったけど、母である女王に死んだことにされて、今も命を狙われてるってこと?」


「......そうだ」


「どうせ、サキュバスの城に忍び込んで捕えられたら私であろうと、あなた達であろうと、命は無い。関係無いよ」


「いや、そうじゃなくて、こう......色々あるだろ」


「そんなこと気にしなくて良いし、私は気にしてない。それよりもあなたが一番最初に私を頼らなかったことが腹立たしい」


 ブンブンと彼女は尻尾を左右に振りながら俺をジト目で睨む。どうやら相当、機嫌を損ねてしまったらしい。


「フィーネは兎も角、マクスウェルとラプラスは由香の姉妹みたいなもんだが、お前はそうじゃないから......って言ったら、キレるよな?」


「よく分かってるね。今にもあなたの身体を尻尾で吹っ飛ばすところだった。胴と頭が繋がっているうちに出来るだけ可愛がってあげておいて」


「......悪い。ありがとうな」


 俺は不意に目の前に居る少女がとてつもなく愛おしくなった。向こうの世界で、何度も、何度も会いたいと願った一人の陰気なサキュバス。彼女が今、目の前に居て自分の力になってくれると言ってくれていることがとてつもなく嬉しかった。


「あなたに礼を言われるの、何だか気持ち悪いね。そのニヤついた顔もやめた方が良いよ、似合ってない」


 くすっと笑いながら彼女は言った。


「あ?」


「そうそう。あなたにはそのチンピラみたいな強面の顔がよく似合ってるわ」


「ケッ。相変わらず、お前のいうことは一々、ムカつくな」


「でも、ずっと、私に会いたかったんだよね」


 否定はしない。嘘になるからだ。


「......お前も俺のこと、相当、心配してたらしいけどな」


「当たり前でしょ。あなたは貴重な私の所有物だもの」


 即答だった。


「......そうか」


「滑稽で見てて面白いし、精気の供給源でもあるし......あなたの居ない世界で生きていける気がしないから」


 少し俯きながら溜息を吐くように彼女は言った。


「妹が死んだらあなたも死ぬ気でしょ?」


 彼女は徐に顔を上げ、少し真剣な面持ちで俺を睨みながら言った。


「は?」


「あなたのこと、何と無く分かるの。自分の命なんて心底、どうでも良いんでしょ? でも、あなたを必要とする人達が居て、あなたが死ぬことを今の今まで誰も許してくれなかった。あなたが今日まで生きてきたのはただ、それだけ」


 違う、そう即座に言いたかったが、口がどうしても開かなかった。少なくとも、ステラと出会った時よりも今の俺は死に対して積極的でないつもりだ。しかし、それはステラや、由香、マクスウェル達が居るから。彼女達が大切だから、そう簡単に死ねない。特にステラと由香、二人には自分が居てやらないといけないと常々思っている。前者は俺が居なくなれば死ぬと言うし、由香の血の繋がった肉親は俺だけだ。

 何より、俺が由香や親を失ったときの悲しみを由香に味合わせたくない。だから、俺は生きている。しかし、由香が俺の前から再び消えたら、俺はどうするだろう。もしかしたら、ステラの言うようになるかもしれない。俺は彼女の指摘を否定出来なかった。


「別にそんな奴、珍しくねえだろ。割合の大きさに差はあるだろうが、大体の奴は周りの人間を生きる理由にしてる。その割合が俺はデカいだけだ」


「......そうかも。兎に角、あなたに死なれたら困るから、あなたの妹に死なれたら困るの。私も彼女と縁がないわけでもないしね。だから、向こうの世界に行くなら私も」


 彼女は言葉を言い終えることなく、突如として俺の方に倒れてきた。


「お、おい! どした!? 大丈夫か!? ステラ!?」


「......ごめん。ちょっと、寝かせてくれる?」


「ああ、分かった」


 俺は彼女の背中に手を添えながら、ゆっくりと彼女の体を床に寝かせた。彼女のただでさえ、少ない目のハイライトは完全に消えており、素人目から見ても彼女の容態が悪いことが分かった。


「ん、ありが、と......ごめん。この前の戦いで魔力を消費し過ぎて定期的に目眩がするの」


「放ってたら回復するのか?」


「少しずつ良くはなっていってる」


「んな状態で、向こうの世界になんて行けるわけ......ああ? 何でだ、身体が重い......」


 思考が鈍り、視界が歪む。突如として全身に不調が現れた俺は思わず、その場で倒れてしまう。


「カエデもステラも、もう少し、休んでからじゃないとダメ。二人が回復したら、マリアナも付いていってあげるから」


 倒れた俺を突如、現れ、支えてくれたマリアナ。自分が病み上がりだということの意味を俺は初めて理解した。


「......ごめん。後一日だけ待ってくれないかな。そうしたら回復すると思う」


「ああ。俺もそんくらいは休みたい」


「じゃあ、明日は久しぶりに二人でゆっくりしようか」


 明らかに無理をした笑顔を浮かべながらステラはそう言ってその場に倒れた。

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