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第百十六話 生命の危機


「それじゃあ、状況を整理しようか」


 翌日の朝、朝食を食べていると、ステラが話を切り出した。その提案はあの戦いの後、何がどうなったのか全くもって把握していない俺にとっては非常に助かる。


「おー......マリアナ、塩とってくれ塩」


「これ?」


「それ、悪いな。......まずはこっちの被害状況を教えてくれ。マクスウェルとか、木っ端微塵になってたと思うが、どうなった」


 マリアナに取ってもらった塩を目玉焼きにかけながら俺は彼女に聞いた。


「マクスウェルは記憶を保存している部分が無事だったから、また新しい身体に移れば復活出来るみたい。今は比較的軽傷だったラプラスがマクスウェルの新しい身体の調整をしてる」


 その言葉を聞いて俺はほっと胸を撫で下ろした。正直、ほぼ跡形もなく機体を破壊されていたマクスウェルの安否が最も心配だったのだ。


「アイツ、半分不死身なのな」


「後は、そうね。フィーネも結構、深手を負わされたみたいだけど一日も休んだらけろっとしていたかな。ロッテは意識こそ戻ってるけどまだ休息中。星加千隼と優那はほぼ怪我なく元気よ」


「そりゃ良かった。山本に記憶処理はしたのか?」


「短期間の記憶ならまだしも、あれだけの記憶を処理すると優那の精神に問題が起きる可能性があってね。皆と協議した結果、そのままにしてる」


「アイツも遂にこっち側か。これからは変な誤解をされずに済みそうで良かった。朱音は? 何か凄い体ボロボロだった気がするが」


「あの天使......『新神』は人間を自分達の奴隷、使徒って言ってたかな。それにするのが目標だったみたいでね。朱音は一番目の使徒にされて操られてたの。で、由香にボコボコにされてあのザマよ。今はあの魔法使いの治療を受けているわ」


「......そりゃ、良かった」


 俺は大きな溜息を吐き、スローモーな動きで食事をするマリアナを見つめた。やっぱり、何か小さい。少女から幼女になっている気がする。


「カエデ?」


「んや、何でもない......」


「ねえ、聞かないの? 由香のこと」


 ステラが不思議そうな表情で聞いてきた。


「......生きてるんだよな」


「ええ。彼女もあなたの店に居るわよ」


「だったら、お前の口からじゃなくて本人に会って聞く。これ食ったら店行ってくる」


 『......そう。分かった。その方が良いわね』と、頷くと彼女は紅茶を啜り、その視線をマリアナへと向けた。


「で? この子は何なの」


「『無気力』。悪魔だったら名前くらい聞いたことあるだろ」


「無気力って、あの天使の?」


「......マリアナ。カエデの身体を対価に、カエデに力を貸した」


 ステラはスッと視線を向ける先をマリアナから俺へと変え、『ジト目』などという言葉では言い表せないくらい、憎悪と嫉妬と憤怒の籠った視線を向けてきた。怖い。本当に怖い。ここのところ、生命が脅かされる機会は何度もあったが、今のステラの視線ほど恐ろしいものは無かった。


「あなたと無気力の間に強い契約が結ばれていることは分かっていたけれど......まさか、あなた、この子に身体を捧げたの?」


 あり得ない、と言うかのように彼女は聞いてくる。俺はそれに頷くことしか出来なかった。


「お前らを助ける為だったんだ。仕方ねえだろ。実際、俺とマリアナが来なければお前らは死んでた」


「......はぁ。うるさいうるさい。あなたを奪うのは私なの。あなたの身体も、魂も私が奪うの。それを、よく分からない天使に捧げるなんて」


 ステラは熱い紅茶をずずっと一気に飲み干すと、急に立ち上がり、俺の方へとやってきた。


「......好き勝手言いやがって。俺の体は俺のものだ。誰に渡すかなんて自由だろうが」


「違う。あなたは私の物。私はあなたの物じゃないけどね。それをよく分からせてあげる」


 ステラは俺の体を尻尾で巻き上げ、そのまま地面に寝転がらせた。ゾッと寒気がするのを感じた。


「ちょ、おい! 俺は病み上がりだぞ!?」


「関係無い。死ぬなら死ねば良いよ。私に殺されるなら本望でしょう?」


 プルプルと震えた手で俺の首筋を撫でるステラ。ヤバい。何と無く予想はしていたが、やはり、こうなるか。


「カエデに何かするならマリアナが許さない」


 そんな俺とステラの様子を見かねて、マリアナがそんな言葉をステラに向けて放った。


「うるさい。貴方は黙ってて。それとも、何? この人の身体の権利は自分にあるから侵害するなとでも?」


 ステラの澱んだ赤い目がマリアナの透き通った青い目に向けられる。


「そう。カエデの身体はマリアナのもの。だから、マリアナはカエデを守る。......それにステラ、何でそんなことするの? カエデ、ステラのために頑張ってたよ?」


 マリアナのその言葉がよほどムカついたのか、ステラは苦虫を噛み潰したような表情で暫し、固まり、それから大きな溜息を吐いた。


「......本当に訳が分からない。そもそも、貴方、どうしてこの人の身体なんかが欲しかったの?」


「カエデがマリアナと契約するのにそれくらいしか差し出せるものがなかったのと、マリアナがカエデと一緒になりたかったから」


「一緒になりたかった?」


 首を傾げるステラに俺は補足をする。


「合体って意味な」


「合体......私以外と?」


「違うわ淫魔が。俺とマリアナが融合してたの知らねえのか」


「......そういや、あの魔法使いがそんなこと言っていたような」


「さっきからよく話に出てくるけどウチの店長はどうなった?」


「本来、新神に対抗すべき立場だったのにも関わらず、新神の力で無力化されて何も出来なかったことに責任を感じてるみたいでね。あの後、直ぐに戦地に飛んできて事後処理と私達の治療をやってくれたらしいわ」


 ステラが人から聞いた風なのは彼女自身も気を失っていて、戦地に駆けつけた十を見ていないからだろうか。


「そうか。お前、気絶してたから俺とマリアナがあんだけ力尽くして戦った所も見てなかったのか」


「見てなかっただけで知ってるけどね。災厄から聞いた。......にしても、何? 何で下等生物のあなたが私達が束になっても勝てなかったような相手に勝ってるの?」


「いや、俺はただの器で貢献ポイントは99%くらいマリアナに取られてると思うが......これ見せた方がはいいな。マリアナ、やるぞ」


「カエデ、身体、大丈夫なの?」


「前みたいに長時間受肉する訳でも、魔法撃ちまくる訳でもねえんだから問題ないだろ、多分」


 最悪、ぶっ倒れたらステラに介抱して貰えば良い。


「分かった」


 マリアナはそれ以上、何も言わずに俺の身体に飛び込んできた。そう言えば、ちゃんと心の準備をして『受肉』をするのは初めてだ。いつもは危機に陥ったときに突発的に受肉をしていた。


「ぐっ......ああっ」


 立ち眩みの数倍酷い視界の歪みと激しい眩暈が身体を襲う。流石に病み上がりの受肉はキツかったか。しかし、俺の茶色っぽい日に焼けた手が良く言えば美しい、悪く言えば不健康そうな白い手に変わったことで、受肉が成功したらしいことは分かった。


「ちょっと......大丈夫? というかあなた、その身体何」


「マリアナと俺はこうやって合体することが出来んだよ。......うっぷ、きもちわり」


「......カエデと受肉すると、マリアナも出せる力が増える。あの天使に勝てたのは、カエデのお陰」


「お前の力ありきの話だろ......てか、それこそ、ステラを核にする方が強くなれんじゃねえのか」


「マリアナとカエデ、身体の相性が良い。後、カエデと長いこと受肉してたせいで、多分、他の人と受肉するの難しい。カエデの妹ならワンチャン......」


「よく分からないけど、同じ人間が一人二役して喋ってるみたいでめちゃくちゃ気持ち悪いね」


「ぶん殴るぞ」


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