第十一話 検索履歴
翌日......になっているのかは分からないが、俺はパチリと目を覚ました。随分と体の調子が良い。寝る前、あれほど苦しんでいたのが嘘みたいだ。頭の下に柔らかい感触がある。そして、目の前にはスースーと目を瞑りながら寝息を立てているステラの姿があった。
どうやら、膝枕をされていたらしい。そして、コイツはそのまま寝てしまったと。てか、よくもまあ、膝枕しながら寝れるなコイツ。
「おい、ステラ。起きろ。寝るならベッド行け」
「すう......すう......」
見事に爆睡している。どうやら、悪魔様にも睡眠は必要らしい。畜生、アレだけ好き放題されたというのに寝顔を見ていると怒りや呆れの感情が吹っ飛んでいってしまう。
安眠中のステラを無理に起こすのは悪いと判断した俺は起き上がると、スマホを探す。時刻を見るためだ。正座しているステラの横に彼女のスマホが置いてあった。どうやら、あの後、スマホを使っていたらしい。時刻を見るだけならコイツのでも良いだろうと、俺はスマホに触れ、ロック画面を出現させる。
「7:30、か」
やはり、朝まで寝てしまっていたようだ。俺は溜息を吐き、彼女のスマホを元あった場所に戻す。......その時、ふと、邪心が頭をもたげた。彼女のスマホは指紋認証で解除することが出来る。そして、当の本人は爆睡中だ。これ、コイツの指使えば解除出来るんじゃないか。はっきり言って、コイツが何を調べているのか滅茶苦茶気になる。死ぬほど気になる。
「悪いなステラ。俺はもう自分を騙したくねえんだよ」
俺はステラの指をスマホのホームボタンに触れさせた。見事にロックが解除される。彼女が起きる様子は無い。よし、今だ。直ぐ様俺はステラのスマホの検索エンジンを起動し、閲覧履歴を見た。異常なまでの背徳感を抱きながらも俺の心を高鳴っている。一体、彼女は何を......。
『おでん レシピ』
『和食』
『日本 料理』
『日本 文化』
『日本 宗教』
『日本 法律』
『日本 憲法』
『日本』
『世界地図』
『サキュバスとは』
『インターネット 仕組み』
『アプリ ダウンロード 仕方』
『日本人 苗字と名前 どっちが先』
『日本人 苗字 ある?』
肉じゃがや味噌汁の作り方などを除くと、彼女の検索履歴は新しいものから順にこうなっていた。......いや、真面目かよ。ひたすらに真面目かよ。ちゃんと、この国で生きようとしてんじゃねえか。そして、コイツが俺への呼び方に『あなた』を多用して、名前を呼ぶときでもフルネームで呼ぶ理由がやっと分かった。
コイツ、暁楓ってどれが苗字でどれが名前か、分かってなかったんだな。何なら、苗字が無い可能性すら疑われていたようだ。後、今度、おでん作って貰おう。
「ん、おはよ。あなた、何してるの?」
「んあぃっ!?」
目を覚ましたステラの声に俺は酷く驚いた。
「何その叫び声......やましいことでもしてたの?」
若干、責め立てるような口調でステラは言う。俺は慌ててスマホを彼女に渡した。勿論、スリープ状態にして。
「ちげえよ。今、何時か見てただけ。ほら、返す」
スマホを返された彼女は若干俺を訝しむような視線を向けながらも、スマホのロック画面を表示させて、眉をピクリと動かした。
「もう、8時前か。よく眠れた?」
「そりゃあもう、快眠だったな」
「子供みたいな寝顔してたよ。......精気吸っちゃったけど、大丈夫そうで安心した」
「サラッとえげつないこと言ってんじゃねえよ。んなこと、許可した覚えねえぞ」
俺は慌ててズボンのチャックに手をやる。
「ああ、心配しなくても良いよ。精気って別に生殖器以外からも吸えるから。というか、生殖器から吸う場合の方が少ないし。快楽で魂が揺らいでいるときに、精気は漏れ出すの。寝てるときとかも、ね」
「いや、それなら好きにしろとはならねえからな。精気って生命エネルギー的なアレだろ? 死ぬわ」
「大丈夫。十分な睡眠をとって、食事をしたら回復するから。それに、私と初めて出会った時のあなたの精気量、0に等しかったからね。私が吸う量なんて知れてる。あなたの回復量の方が多いし」
本職であるサキュバスの吸う量より精気を消耗するブラック企業、マジか。睡眠や食事の機会を中々、与えてくれなかったのが原因なのだろうが。
「何か今になってあそこへの怒りが沸々と込み上げてきた。ムカつくから早く朝飯にするぞ」
「ん。昨日の夕ご飯、レンチンするね」
そう言うとステラは立ち上がり、キッチンへと向かった。
「いや、昨日の夕飯ってお前が唾液入れやがった奴だろ。嫌だわ。色んな意味で」
「あー、アレ、あなたによそったお皿にしか入れてないから大丈夫だよ。あなたの食べかけは昨日のうちに私が食べといたし」
「......なら、良いか。味は凄い美味かったし。これからはお前の飯を食えると思ったらかなりテンション上がるな」
コンビニ弁当やおにぎりなんかとおさらば出来るだけでも嬉しいのに、コイツの飯を食えるとか幸せ以外の何物でもない。
「......口説いてる?」
ジト目でステラは俺にそんなことを聞いてきた。
「どんなトチ狂った思考してたら、今の言葉がそう思えるんだよ。口説いてねえわ」
「人間とサキュバスの恋愛ほど、ロクでもないものは無い。止めてね、私のことを好きになるの」
「ならねえから安心しろ」
「まあ、そうだよね。マトモな人間なら私みたいなのを好きになったりしない。......えっと、このボタン押すんだっけ。昨日、説明書を軽く読んだんだけど忘れちゃった」
ステラは電子レンジのスタートボタンを指差しながらそう聞いてくる。
「説明書を読むなんて偉く勉強熱心だな。因みにそれはあってる」
「必要最低限の知識を得てるだけ」
「あそ」
「あ、後で『パソコン』の使い方も教えて。この家、ある? パソコン」
「一応、な。パソコンの教師なら社畜の俺に任せろ」
「元、社畜でしょう」
「......だったな」




